女性アーティストたちの、美しき挑戦。 #01

アーティスト川内理香子が描く、身体と意識の関係。

特集

いま、女性アーティストたちの活躍がめざましい。その美しさに魅了されたり、ユニークな発想にはっとさせられたり……彼女たちの作品と対峙することで、観る者も豊かな世界を体感できるはずだ。しなやかな感性と鋭い視点で作品をクリエイトする、気鋭の5人のアーティストにインタビュー。第1回は、絵画から立体までさまざまなメディアを自在に使いながら、身体と思考の関係性を表現する川内理香子。

思考が身体にコントロールされる違和感。

川内理香子は自身の身体を常に敏感に意識している人だ。そして身体と食の関係に強い関心を持つ。インタビュー中にも「朝ごはん、どんなもの食べます?」とスタッフが逆取材されてしまうほどだ。食べること、それに伴う身体の状態の変化に「照準」を合わせ、川内は並外れてセンシティブな身体感覚を「集中」させて創作する。

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RIKAKO KAWAUCHI
1990年、東京都生まれ。2017年、多摩美術大学大学院美術学部絵画学科油画専攻を修了。主な個展は『Tiger tiger, burning bright』(WAITINGROOM/18年)、『ART TAIPEI 2016 – WAITINGROOMソロブース』(Taipei World Trade Center/16年)、『SHISEIDO ART EGG vol.9 : Go down the throat』(資生堂ギャラリー/15年)など。14年に『第1回CAF賞展』で保坂健二朗賞、15年にSHISEIDO ART EGG賞を受賞。http://rikacocacola.tumblr.com

「身体は世界のすべてと繋がっていると感じます。たとえば元気な時と弱っている時では世界の見え方が変わります。身体のもとになる食べ物を取り込むと体感がどうなるのかを意識せずにはいられないんです。たとえば、お腹いっぱいの時に自分では空腹の状態にすることができないように、意識ではどうにもならないのが食欲や性欲。身体に思考がコントロールされる居心地の悪さを切実に感じています」と語る。

身体と思考、自己と他者の間の不明瞭な関係を軸に、食事やセックスといったコミュニケーションをめぐるさまざまな要素をとおして、独特のパーソナルな世界観を作品化してきた。ドローイングやペインティングだけでなく、針金や樹脂、ゴムチューブ、ネオン管など硬質なメディアを自在に駆使するその造形は、ときに執拗に反芻し、ときに伸びやかな潔さを見せる線描が特徴的だ。

「どの素材も半立体として捉えています。絵画であっても、画面に物語性や遠近感を描き込むのではなく、描かれたモチーフが絵の手前に出てきて私の身体に当たるような感覚を身体で感じたい。さらに自分がいちばん観たいと思う造形を表現したのが、ドローイングの線を立体に起こした針金やネオンの作品です」

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身体と食をめぐる暗喩的意味を、神話の中に見つけて。

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WOMAN2018年。5月にWAITINGROOMで開催された個展『Tiger tiger, burning bright』にて発表された、1,620x1,300mmの大きな油彩作品。壺には消化という暗喩的な意味が込められる。

今年開催された個展では「神話」をテーマにした新作を発表。20世紀を代表する思想家で「構造主義の父」と呼ばれるフランスの社会人類学者クロード・レヴィ=ストロースの著書『悲しき熱帯』『野生の思考』にインスピレーションを得たという。食という行為への敏感な感覚を持つ彼女にとって強く共感できる思想を、レヴィ=ストロースの分析した神話の中にようやく見いだしたのだ。

「南米のある部族の神話の始まりには食があるといいます。料理に使われる火とカマドや土器。暦や儀式に用いられる木の実や動物。生のものと火を通したもの。身体のなかで起こる消化や腐敗、排泄。こうした事象についての暗喩的な記号が生活の根本にある。料理とはカオスである自然を制御する文化的行為であり、社会や文化、哲学といった世界の始まりは食べ物を口にする身体から始まる。神話の中に立ち現れた、食を通して具象に落とし込まれた抽象的な感覚と思考に、私自身の感覚と思考が共鳴したんです」と、川内は創作の背景について語ってくれた。

たとえば、前日食べたものを朝に吐き戻すことから1日を始める部族。なめらかな土と水で作られた土製の壺にひそむ消化という暗喩的意味。川内が幼少期から抱いてきた、身体と食、内と外、自己と他者に対する意識やコントロールできないものへの拒否感を裏付ける知的体験を、本書はもたらしたのだ。

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アートに向かう時、最も大胆になれる。

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『lips2016年。シンプルで繊細なタッチのドローイングにはっとする艶かしさが漂う。ドローイングは夜中に目覚めて描くこともあるという。

さらに彼女の立ち位置の独自性とは、こうした感覚や思考の複雑さや鋭敏さを、デリケートに抑制された美しさをもって、代替行為としての創作活動に昇華させてきたことにある。

「アトリエでも家でも、夜中にふと目が覚めて、何か食べ物を口にしたり、ちょっと作業に“立ち寄る”ことがあるんです。特に作品を作りたいという強い欲求がある時はすぐにやりたい、石橋を叩かない性格です。アートは私が最も大胆になれるフィールドなのかもしれません」

思春期からある一定の年頃にかけての女性が敏感に感じ取る、身体と意識の分離、そして自身の内側に侵入するコントロールできない異物との関係性。幼い頃から現在まで、その感覚をやり過ごすことなく、より一層深化させ、「描く」ことによって思考として高めようとする川内理香子の哲学と生活の行方に、今後も刮目していきたい。

【気になる彼女たちへ、5つの質問。
1. 最近、幸せを感じた瞬間は?
夜中に空腹感を覚えてパンとブドウを食べた時。

2. 子どもの頃の夢は?
お絵描き上手になること。

3. いまいちばん行きたい場所は?
またニューヨークに行きたい。歴史が浅い街のせいか、生っぽい感じが自分に当たってくる感じをゆっくり検証したい。

4. いまいちばん会いたい人は?
会いたいというよりは、写真家のナン・ゴールディンに外側から自分を暴露するように撮ってほしい。

5. 将来、やってみたいことは?
世界中の都市にアトリエを持ちたい。特にパリは自然な素の状態で生活や制作をしやすい街です。

もっと知りたい、川内理香子の作品。

『川内理香子 展 human wears human / bloom wears bloom』
期間:2018年11月10日(土)〜12月28日(金)
会場:鎌倉画廊
神奈川県鎌倉市鎌倉山4-1-11
Tel. 0467-32-1499
営)11:00〜18:00
休)日、月、祝
http://www.kamakura.gallery/upcoming/

女性アーティストたちの、美しき挑戦。INDEX

photo : AKEMI KUROSAKA (STUH / PORTRAIT), réalisation : CHIE SUMIYOSHI, ©Rikako KAWAUCHI, courtesy of WAITINGROOM

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