女性アーティストたちの、美しき挑戦。 #03

市原えつこが提案、新しい弔いの形はメディアアート!?

特集

いま、女性アーティストたちの活躍がめざましい。その美しさに魅了されたり、ユニークな発想にはっとさせられたり……彼女たちの作品と対峙することで、観る者も豊かな世界を体感できるはずだ。しなやかな感性と鋭い視点で作品をクリエイトする、気鋭の5人のアーティストにインタビュー。第3回は、メディアアートの作品制作に取り組む一方で、新たなビジネスモデルの模索も行う市原えつこを紹介する。

ソーシャルメディアの呟きは、故人の伝記でもある。

新世代のメディアアーティストとして注目される市原えつこの視点は常に「お悩み相談」から出発している。メディア対応の際のユニフォームであるという巫女の装束は、最新作『デジタルシャーマン・プロジェクト』をオペレーションするために考案したもの。これはヒト型ロボット「ペッパー」に亡くなった人の生前のデータをインプットし、故人を追悼しつつ、その人の思想や信念についてのコメントを聞くことができる装置だ。

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ETSUKO ICHIHARA
1988年、愛知県生まれ。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。2016年にヤフー ジャパンを退社し独立、フリーランスに。近年の展覧会は『Cyber Arts Exhibition 2018 – Ars Electronica Festival』(OK Center for Centemporary Art/18年)、『文化庁メディア芸術祭』(オペラシティアートギャラリー/17年)、『デジタル・シャーマニズム – 日本の弔いと祝祭』(NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]/16年)など。第20回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞、総務省異能(Inno)vation採択。18年に世界的なメディアアート賞であるアルスエレクトロニカInteractive Art+部門でHonorary Mention(栄誉賞)を受賞。

「祖父が亡くなった時、死や葬儀というもののレイヤーについてひたすら考えたんです。たとえばソーシャルメディアは備忘録であり、故人が呟いた伝記ともいえますよね。ネット上に溜まったそのログをメモリアルとして機能させたのがこの作品です。法事やお盆の時季に派遣されるオーダーメイドのイタコとして活用できるかもしれません」と明快にコンセプトを語る。

本作は、世界最高峰のメディアアート賞「Prix Ars Electronica」(アルスエレクトロニカ)のInteractive Art+部門で栄誉賞を受賞し、同時に、アートの力によってテクノロジー、産業、社会におけるイノベーションを触発するプロジェクトとして「STARTS PRIZE」にもノミネートされた。超高齢化社会を迎えた時代、世界規模の「お悩み」にこたえようとしたことが評価されたのだろう。

日本的性文化への興味から生まれた作品。

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代替現実システム(SRシステム)と『セクハラ・インターフェース(SI)を連携した作品『妄想と現実を代替するシステム「SRxSI」』2013年。第18回文化庁メディア芸術祭エンタテインメント部門審査委員会推薦作品に選出された。

父が工学系だったことから「ほっといてもテクノロジーに触れる」子ども時代だったという。大学のゼミでは卒業論文として「セクハラ・インターフェース」と名付けたテーマを研究。その一環で発表して話題になったのが、セクシーな生足を思わせる大根にデバイスを仕込み、撫でると艶めかしいよがり声を出す作品『喘ぐ大根』だ。その背景には、市原自身が日本の性文化に抱き続けてきた興味と問題意識があり、それを直接アクセスできる敷居の低いプロダクトとして提示したところに彼女ならではのアプローチがある。

「神社や農村などに昔から残っているような、触ると子宝に恵まれるとか、豊穣のシンボルとしての性器信仰や夜這い文化を思わせるデバイスは日本人のメンタリティにハマるのではないかと思って制作しました。それと同時に、私が通っていた大学では当時、男尊女卑の傾向が強いように感じていました。そもそもセクシャル・ハラスメントを“セクハラ”って略すこと自体に日本的な曖昧な軽さや湿っぽいエロがある。逆に男たちに気まずい思いをさせてやれ、という憤りもモチベーションの10%くらい含みつつ制作した作品です」

日本人の意識に遺伝子的に刷り込まれた民間信仰や宗教と、最先端テクノロジーを結びつけた市原の一連の活動は、デジタルネイティブ世代が主流となりつつある現代社会に向けて、新しい「追悼」や「祈願」、「寓意」の形をデザインしてみせる。インターネット上の仮想現実空間がそうであるように、私たちの精神世界もまた「目に見えないもの」の存在にリスペクトを込めて何かに置き換えようとする力が働いてきた。市原はそこに親和性を見いだしている。

感謝の気持ちで、社会が抱える「お悩み」に取り組む。

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現代に向けて新しい弔いの形を提案する『デジタルシャーマン・プロジェクト』2015年〜。家庭用ロボット「ペッパー」に故人の3Dプリントした顔や声、口癖、しぐさなどを、49日間分プログラミング。

一方で、連載しているブログでは、一社会人の目線でさまざまな働き方・生き方に対する解決策を提案し続けている。アートやテクノロジーという領域に閉塞することなく、不特定多数の読者の「お悩み相談」にこたえる姿勢が瑞々しい。

「もともと物事の法則やノウハウについて考えるのが好きすぎて、ビジネス書を好んで読んだりしていました。進路を決めた時、美大に進学すると将来が限定されるような気がして総合大学に進み、卒業後もヤフー ジャパンにデザイナーとして就職したんです。そこまでは安定志向で来たんですが、数年前に思いきって独立してフリーになりました。何とかおかげさまで生き延びているので、みなさんありがとうございます!という感謝の気持ちで、これまでに社会から受け取ったものを社会に還元したいと思ったんです。これもひとつのお祓いみたいなものかも」と語る。

生来のオーガナイザー気質を自認する彼女は、多方面で異分野の交流会やローカルなお祭りも仕掛け、同時に新しいビジネスモデルを模索している。ともすれば新奇性に依存し、テクノロジーのジャグリングに陥りがちなメディアアートの領域に片足を置きつつ、もう一方の足で社会が抱える「お悩み」パトロールを怠らない。そんな市原えつこの活動は、これから訪れるAI時代の人間と機械の関係に新鮮な視点をもたらしてくれるはずだ。

〈気になる彼女たちへ、5つの質問。
1. 最近、幸せを感じた瞬間は?
『アルスエレクトロニカ』へ出展する作品を発送し終えたこと。仕事の山場を越えたあとは意識的にクズになります。
あとはきれいな女性を見かけた時に幸せを感じます。

2. 子どもの頃の夢は?
マンガ家からイラストレーター、デザイナーへと夢が点々と変化しました。

3. いまいちばん行きたい場所は?
この夏は骨折して行けなかったので、海に行ってビーチでビールを飲みたい。

4. いまいちばん会いたい人は?
シンガーソングライターのあいみょん。性や死をめぐる歌は鬼気迫るものがあって、感性の鋭い若い子たちに支持されています。

5. 将来、やってみたいことは?
活動する場所によって方向性を分けてみたい。海外ではアーティストとして作品を発表し、国内ではプロデュースや監修を生業にエンタメとテクノロジーを紐付けたい。

もっと知りたい、市原えつこの作品。

『若手女性作家グループ展シリーズ
Ascending Art Annual Vol.2 まつり、まつる』
期間:開催中〜2018年11月24日(土)
会場:ワコールスタディホール京都 ギャラリー
京都市南区西九条北ノ内町6ワコール新京都ビル
0120-307-056(フリーダイヤル)
営)10:00〜20:00(火~金) 10:00〜17:30(土)
休)日、月、祝
入場無料
https://www.wacoal.jp/studyhall/gallery/event/article86217

#01 アーティスト川内理香子が描く、身体と意識の関係。
#02 AKI INOMATAが、生き物たちと取り組むアートとは。
女性アーティストたちの、美しき挑戦。INDEX

photo : AKEMI KUROSAKA (STUH / PORTRAIT), réalisation : CHIE SUMIYOSHI

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