巨匠ワイズマンが描く、"人種の坩堝"ニューヨーク。

Culture 2018.11.29

誰も見たことのない角度から描かれた、多文化都市の細密画。

『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』

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作者の意図へと誘導するテレビ的なナレーションはない。緻密に構築された各ショットが、生きた複雑多面体としての町が交響する「現在」にきらめき、私たちも多様なまなざしや言葉を受け止め、応答する。ワイズマンの到達点。

人種の坩堝と聞いて思い浮かべるのは、まずニューヨークだろう。でも実際にどこが坩堝なの? と問われたら、どうするか。クイーンズ地区ジャクソンハイツと答えれば、間違いない。理由はフレデリック・ワイズマンの新作『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』に、たっぷり詰め込まれている。巨匠40本目のドキュメンタリーにして最高傑作はこれまでになくカラフルで、誰も見たことのない角度から描かれた移民都市絵巻だ。

こんな町は世界中どこを探してもありません! このひとことで幕は開け、カメラは教会、スーパー、市議会議員事務所からナイトクラブまで、人が集まる場所ならどこにでも入ってゆく。

インド、パキスタン、バングラデシュ、コロンビア、メキシコとコミュニティを挙げていけばキリがないが、167の言語が話されている町の中でも、とりわけ焦点が当てられるのはマイノリティ差別。ここはクイーンズプライドと呼ばれる、LGBT差別撤廃を訴えるパレードが始まった場所。カラフルなのは抗議の色でもある。

だが、ここにも大資本による再開発の波は押し寄せ、原色の彩りを与えている個人経営の商店が、廃業と立ち退きを余儀なくされている現実も浮き彫りになる。

絵画にたとえるなら、アクションペインティングではなく、微細に描き込まれた細密画だろう。矛盾を認め、声高に主張し、議論を尽くし、抵抗し、助け合う。素晴らしき「多文化共生」の現実は、顔を突き合わせ、見つめ合い、互いに耳を傾けることからしか生まれない。

そう、ワイズマンのカメラとマイクのように。

文/港 千尋 写真家・映像人類学者

南米滞在後、パリを拠点として写真家に。2006年、写真展『市民の色』で伊奈信男賞受賞。著書も多く、9月に最新刊『風景論 -変貌する地球と日本の記憶』(中央公論新社刊)を上梓。
『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』
監督/フレデリック・ワイズマン
2015年、アメリカ・フランス映画 189分
配給/チャイルド・フィルム、ムヴィオラ
シアター・イメージフォーラムほか全国にて公開中
http://child-film.com/jackson

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*「フィガロジャポン」2018年11月号より抜粋

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