フィガロが選ぶ、今月の5冊 男女の機微を、ロードムービーのように描いた長編。
Culture 2019.06.02
25年の歳月が導く、ある夫婦がたどる軌跡。
『夢も見ずに眠った。』
絲山秋子著 河出書房新社刊 ¥1,890
夫の高之を熊谷の実家に残して、札幌に単身赴任を決めた沙和子。非正規で働く夫とキャリア志向の妻。大きなケンカをしたわけではないのに、一緒にいる理由がしだいに薄れていく。以前は好ましく思えたことが変わってしまうところがリアル。やがて高之は鬱を発症し、離婚。人はなぜ出会うのか。すれ違い、別れたとしても、離れて初めて見えてくるものがあることを、この作家はくり返し描いてきた。かつて訪れた土地がふたりの記憶の呼び水となる。日本各地を旅しながら、ロードムービーのような筆致で描かれる25年間の男女の機微が沁みてくる。
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*「フィガロジャポン」2019年5月号より抜粋
réalisation : HARUMI TAKI