毎日が精一杯な女たちに贈る、山内マリコの新作。

Culture 2019.07.10

女に生まれ、女として生きる、悲喜こもごものパッチワーク。

『あたしたちよくやってる』

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山内マリコ著 幻冬舎刊 ¥1,620

本のタイトルは犬笛のようなものだと思う。届くべき人に聴こえる言葉で名づければ、その本は必ず必要な人の手に渡る。『あたしたちよくやってる』もそうだ。「私の人生、これでいいのか?」と立ち止まって考える暇もないまま、押し寄せる雑事を右へ左へと振り分けるので精一杯な女たちの肩を、そっと抱くような優しいタイトル。

『あたしたちよくやってる』は、未来への漠然とした不安を拭い去ることができぬまま、通勤電車でいつもより早く座れたとか、誰かをちょっと喜ばせることができたとか、子どもが伝い歩きをするようになったとか、そういう小さな幸せでなんとか食いつなぐ女の毎日に寄り添う言葉だ。「私たちは頑張っている」でも「あなたはよくやってるよ」でもなく、「あたしたちよくやってる」。その通りだ。誰も褒めてくれないけれど、あたしたちは本当によくやってる。

本著は、ショートストーリーとスケッチとエッセイの3パートで構成されている。時代や年齢や場所は、端切れ布のようにてんでバラバラなのに、縫い合わされるとひとつの大きな作品に仕上がっている。まるでパッチワークだ。

登場する女たちは助け合い、笑い合い、時に反目したり、そうかと思えばひとりで楽しんだりと自由闊達ですがすがしい。女に生まれ女として生きる窮屈さと楽しさを、誰もが存分に味わっているようで励まされる。

読後、山内マリコから「どこでなにをしていても、あなたが幸せならそれでいいのだ」と肯定されたような気持ちになった。大きなドラマが起こらなくたって、日常は淡々と進んでいく。そういうありきたりな人生の尊さを、改めて教えてくれる作品だった。

文/ジェーン・スー 作詞家、コラムニスト

近著に『私がオバさんになったよ』(幻冬舎刊)、『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社刊)など。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMCも務めている。

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*「フィガロジャポン」2019年7月号より抜粋

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