夢の対談が実現。 【第3回】石井ゆかり×しいたけ.による、令和時代の歩き方。

Culture 2019.07.29

本誌の星占い連載でもおなじみ、ライターの石井ゆかりさんと「VOGUE GIRL」にて連載中の「しいたけ占い」で人気の占い師、作家のしいたけ.さんによる豪華対談が実現! 本誌エディターの青木良文を進行役に、令和時代の読み解き方についてたっぷりと伺った。全4回連載でお送りする第3回の今回は、「持つことを望まない時代のパートナーシップ」について。

「持つこと」をスタート地点にして、
恋人や夫婦関係を築いていく。

青木良文(以下、A): 世の中の価値観が過渡期を迎えるなか、若者を中心とした多くの人たちが「所有すること」から離れつつあるというのは、見逃せない変化ですね。それは少なからず、恋人や夫婦関係など「パートナーシップのあり方」にも関わってくる気がします。厳密にいえば、人間関係について「所有する/しない」という表現を使うのは適切ではないと思いますが、一般的には、恋人同士や夫婦になるということは「決まったパートナーを持つこと」と認識されていますよね。おふたりは、これからの時代、パートナーシップをどのように捉えていくのが理想的だと思われますか?

石井ゆかり(以下、I):そうですね、難しいことだなと思います。結婚制度自体がもともと「所帯を持つ」のように「持つ」ところがあったんだと思いますが、人間を「持つ」ことって、本当にできるものなんでしょうか。自分以外の人間の何事かを「所有する」という考え方が、そもそもおかしいのかもしれないですよね。告白してつき合うことになったり、プロポーズしてOKしたりすれば、どこか「持った」という感覚が生まれるものではあると思うんですが、ただ、相手はモノではなく、どんどん変化していく現象のようなものとしての「人」なんだという感覚が、これからは強まっていくのかもしれません。持っているつもりでも、実は、持つことはできないのが、「人」なのかなと。

A:持ったことに胡座をかかないことが大事なんですね。

自分の人生が、
相手の幸せな物語を紡いでいけるように。

しいたけ.(以下、S):僕の場合、パートナーシップに関しては、ペットの死から教わった部分が大きいかもしれません。以前、可愛がっていたパグが亡くなった時、その体験が自分の中であまりにも大きくて「誰かの人生は、そこに寄り添う人の物語でもあるのだな」ということを痛感させられたのです。だからあの子にも、亡くなる間際に「この人はいつも疲れていたけど、イヤイヤでも毎日散歩に連れて行ってくれたなあ」と思ってもらえていたらいいな、と。もちろんそれは自己満足なのですけれど。でもそういうことって、死とか別れとか、つらい経験をしてみないとなかなか気付けないんですよね。もちろんですね、これを読んでいただいて「私は誰かの人生に影響を与えているようなことはしていない」って思われる方もいるかもしれないのです。でも、たとえばなんですけど、電車の中で名も無き青年がお年寄りに「あ、もしよかったらどうぞ」って言って席を譲る行為とか、そういうのってもしかしたら「まだ世の中も捨てたもんじゃない。もうちょっと頑張ってみようかな」とか、誰かの人生に対して勇気を与えたりすることもある。言葉とか、好意って、言った方が忘れるぐらいの軽さがあっても、言われた方とか、やってもらった方っていつまでも覚えていられる。「君はこんな難しい問題を解いてすごいな」って言われた生徒って、その言葉を宝物にしていくこともできるから。

I:「誰かの人生は別の誰かの物語でもある」という感覚は、私も星占いである方の出産の瞬間のホロスコープを見せてもらう機会があった時に、似たようなことを思いました。一般的な占いでは、その人が生まれた瞬間のホロスコープを使います。そこに、いろんなイベントがあった時間のホロスコープを重ねたりして物事を読むのです。人が子どもを出産する瞬間のホロスコープって、実はその子にとっては、自分の人生全体のホロスコープなんですね。

S:あ、本当ですね!

I:できるものなら、自分の人生がほかの人の物語でもある、ということを、つらい経験をしなくても意識できるといいですよね。

S:そうですね。死や別れに直面しないと自覚できないというのは、少し極端だったかもしれませんが…、でも僕はパートナーシップについて考える時、結構自然に「死に際」や「別れ際」のことを想像してしまうかもしれません。これは僕が特殊なのかも知れませんが、どんな人間関係でも別れがあるわけじゃないですか。人だけではなくて、いまたとえば住んでいるマンションとかアパート、家の近くにある小さな公園とかも、どこかで別れがあるわけで。「この時間がいつまでも続いたらいいなぁ」って思えることって、少しの寂しさとか切なさを感じられることって、もしかして幸せの条件かもしれないのです。大好きなパフェを食べてて、「あと少しで食べ終わる」と感じることって幸せじゃないですか。昔、松本人志さんが言っていた好きな言葉があって、「自分の葬式の日に雨が降って舌打ちされるようだったら、人生失敗だったと思う」と。「どんなに悪天候でも最後のお別れに行きたいと思われるところを目指している」と話されていて、その考え方は真似したいと思いました。

I:それは説得力がありますね。

S:カップルの別れ際についても想像したりするのですが、泣いたり喚いたり離婚訴訟を起こしたり……、人はなぜ別れ際にあんなにもエネルギーを費やすのだろうと考えてみると、そこにはもちろん悲しみや切なさがあると思うのですが、その切なさの種類って「自分がこれまで、相手にどれだけのことをしてあげてきたか、それをわかってほしかった」というものなのかもしれないな、と。きっと、頑張ってきたことを少しも気付いてもらえないまま「おしまい」にはできないんですよね。せめてそれをわかってもらって、慰謝料という形でもなんでもいいから背負ってほしい、そんな気持ちになるのではないでしょうか。

A:うーん、確かに…。

I:みんな、自分のつらさを、どうにかして、わかってほしいんですよね。

S:だから僕は、パートナーシップについて考える時、相手が陰で頑張ってくれていることに気付けないような人間にだけはなりたくないなあ、と。相手が陰でどれだけのことを自分にしてくれていたかを、そういうのを見ようとしなくなってしまった時って、その相手との血の通った交流は終わっていきますよね。……あ、なんか、すごくいいこと言ってすみません(笑)。ここはカットしちゃダメですよ(笑)!

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「自分以外の誰かと繋がる」、
それは「世界と繋がる」こと。

I:私、学生の時ちょっとだけ囲碁を教えてもらったことがあるんです。 囲碁は碁盤上の「線と線が交わる部分=交点」に碁石を置いていくゲームですが、石を置いた際に上下左右に延びる線を「呼吸点=碁石が呼吸できるところ」と考えます。ひとつの黒石を4つの白石で取り囲むと、中の黒石は息ができなくなって死にます。つまり「取られる」。これが、黒い石を2つ並べると、この2つの石を取り囲んで殺すには、6つの白石が必要です。ひとりでいるより、くっついてたほうが、より多くの敵と戦えるというか、強くなるんですね。夫婦や恋人同士の関係性も、それに似たところがあるような気がします。人間はもともと、ひとりでいるよりも複数でいるほうが、外界や自然の脅威に対して強くなるわけですが、パートナーみたいにくっついてしまっているような関係なら特に、ふたりが一緒になることで周りの世界が拡張され、できることが増えたり、遠くまで手が届くようになるような感覚があるのではないでしょうか。

S:あー、なるほど!

I:もちろん、パートナーがすでに敵のような存在で、一緒にいることで弱くなる、というパターンもあるわけですが。ただ、恋愛に基づくパートナーシップって「自分が世界と繋がっている」という感覚を与えてくれるものでもあるんじゃないかと思うのです。たとえば、『レッドタートル ある島の物語』というアニメ映画があるんですが、これは、無人島に漂着した人のお話なんです。小さな島に独りぼっちになって、主人公は最初、必死で島の外に出ようとします。でも、あるとき不意にひとりの女性が現れて、ちょっとイイ感じになると、主人公はもう、島を出ることを考えなくなるんです。たったひとりの人間と結びついただけで、そこに「世界」が生まれるんですね。この「無人島への漂着」は、私は「人がこの世に生まれる」ことによく似ていると思いました。独りぼっちでこの世に放り出されるように生まれて、最初は「どこかに行かなくちゃ」ともがき回るのですが、誰かとの強い結び付きがひとつでもできると、そこに「生きる場所」が生まれるわけです。これはもちろん、極論というか、非常に抽象的なモデルだと思いますが、でも、たとえば私たちのリアルな世界でも、恋愛が終わって相手との繋がりが切れてしまうと、世界から見放されたような、自分の価値がなくなってしまったような錯覚に陥ることがあると思うんです。

A:確かに、そういう感覚はありそうですね。

I:本当は誰しも、自分を、世界から「見つけてもらいたい」のかもしれません。だから、「所有」は流行らないにもかかわらず、「繋がり」という言葉は人気があります。もしかしたら言い方が変わっただけで、欲しいものは同じなのかもしれないですね。

4回目に続く

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石井ゆかり
ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆。『12星座シリーズ』(WAVE出版刊)は120万部を超えるベストセラーに。『3年の星占い 2018-2020』(全12冊)(文響社刊)も発売中。主宰ウェブサイトは「筋トレ」http://st.sakura.ne.jp/~iyukari
現在発売中の「フィガロジャポン」9月号では、大人気の袋綴じ付録「石井ゆかり 星占いスペシャル」が登場。星占いムック本、第2弾「石井ゆかりの星占い2」が好評発売中。

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しいたけ.
占い師、作家。哲学を研究するかたわら、占いを学問として勉強。
2014年から「VOGUE GIRL」で連載をスタート。最近ではウェブサービスnoteにてコラムや占いなどを執筆中。著書に『しいたけ占い 12星座の蜜と毒』(KADOKAWA刊)など。最新刊『しいたけ.の12星座占い 過去から読むあなたの運勢』(KADOKAWA刊)は発売後すぐに増刷され、ベストセラーに。

【関連記事】
【第1回】石井ゆかり×しいたけ.による、令和時代の歩き方。
【第2回】石井ゆかり×しいたけ.による、令和時代の歩き方。

texte : HARUKO MURAKAMI

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