統合失調症の青年が愛する兄について語る、傑作小説。
Culture 2019.09.07
温かな眼差しで綴った、迷える魂の物語。
『ぼくを忘れないで』
ネイサン・ファイラー著 古草秀子訳 東京創元社刊 ¥2,808
精神科看護師の資格を取得し、大学でメンタルヘルスの仕事に従事する著者の処女作。幼い頃に兄と死別したことで、精神疾患に悩まされている主人公マシュー。19歳と8歳のマシューの物語がランダムに語られるが、時系列を無視した物語の構成は、そのまま彼の混乱状態を表している。曖昧な過去の記憶を掘り起こし文章を綴ることで、徐々に希望の光が差し込むが、これは終わりのない物語の始まりでもある。深刻なテーマでありながら、ユーモアあふれる登場人物たちに、読後は不思議な親密さを感じるだろう。
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*「フィガロジャポン」2019年9月号より抜粋
text : JUNKO KUBODERA