『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』を愉しむ。#02 展覧会前に観ておきたい、映画の中のバスキア。

Culture 2019.09.19

伝説的なアーティスト、ジャン=ミシェル・バスキア。彼は数々の傑作を残し、世界に多大な影響を与えたが、その人生は27年間とあまりにも短かった。作品からは途方もないエネルギーが伝わってくるが、彼は一体どんな人物だったのか、どんなライフスタイルを送っていたのか――。9月21日から日本で開催される『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』の前に観たい・観直したい、不世出のアーティストの心を覗くかのような映画を紹介する。

1.『バスキア』(1996年)

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近年は「ハンガーゲーム」シリーズやテレビドラマ「ウエストワールド」で知られる、ジェフリー・ライトがバスキアを演じた。photo:Alamy Stock Photo/amanaimages

バスキアに関する映画でいちばん有名なのは、ジュリアン・シュナーベルが監督をした、その名も『バスキア』だろう。シュナーベル自身がアーティストで、バスキアの生前は友人として交流があった。同作はシュナーベル初の長編監督作。好評を博し、2000年に発表した『夜になるまえに』で映画監督としての地位を不動のものにした。

ストーリーは、バスキアの人生を辿るもの。それまで公園で寝泊まりしていたバスキアは、喫茶店のウェイトレス、ジーナ(クレア・フォーラニ)と出会い、彼女の家で暮らすようになる。ある日、アンディ・ウォーホル(デヴィッド・ボウイ)を見かけ、話しかけて知り合うと、その日にウォーホルはバスキアが描いたポストカードを買う。次第に作品が売れ出し、ウォーホルに認められたことにより、瞬く間にスターとなったバスキアは、恋人のジーナや友人のベニーから遠のいていく。次第に孤独になっていくバスキアの心情を如実に表した傑作だ。友人役のベニーを、若き日のベニチオ・デル・トロが好演。

『バスキア』

●監督・共同脚本/ジュリアン・シュナーベル
●出演/ジェフリー・ライト、クレア・フォーラニ、マイケル・ウィンコット、デヴィッド・ボウイ、デニス・ホッパー、ゲイリー・オールドマン、ベニチオ・デル・トロほか
●1996年、アメリカ映画
●107分
●原題/Basquiat

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2.『Downtown 81』(1981年/2000年)

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街を徘徊するバスキア。バスキアのバンド、グレイには、ヴィンセント・ギャロも参加していたという。photo:Capital Pictures/amanaimages

バスキアが、バスキア自身を演じているのが『Downtown 81』。作品自体は1980年初頭に撮影されが、長いポストプロダクションを経て、2000年に各国で公開された。バスキアのライフスタイルを捉えた作品で、当時の彼は19歳だ。

ニューヨークのダウンタウンを徘徊する、売れない画家のバスキア(80年代のかなり汚いダウンタウンが、いま観ると新鮮!)。サウンドトラックにはバスキアが組んでいたバンド「グレイ」の音楽が使われている。またバスキアが実際にグラフィティを描いている姿を捉えた貴重な作品でもある。ブロンディのデビー・ハリーも出演。ジャジーな音楽とともに、詩的なナレーションと軽快なリズムで語られる明るい作品。

『Downtown 81』

●監督/エド・ベルトグリオ
●出演/ジャン=ミシェル・バスキア、デビー・ハリー、グレン・オブライエンほか
●1981年/2000年、アメリカ映画
●75分
●原題/New York Beat Movie

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3.『バスキアのすべて』(2010年)

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本作の音楽を担当したのは、タムラ・デイヴィス監督の夫であるビースティ・ボーイズのマイク・D(作曲家のJ・ラルフとともに担当)。photo:Arthouse Films/Everett Collection/amanaimages

『バスキアのすべて』は2010年に製作されたドキュメンタリー。当時の恋人や友人、関係者のインタビューに加えて、バスキア本人のインタビューで構成されている。若き日のバスキアはキャンバスを買うお金がなく、拾ったものや友人の家にあるものに絵を描いていたというエピソードや、女性に非常に人気だったこと、クラシックミュージックを聴きながら絵を描いていた習慣など、興味深いことが友人らによって語られる。バスキア本人のインタビューでは、少し照れながら、ウィリアム・バロウズがいちばん好きな作家であることなど、自身のことを淡々と話す。

アーティストとして成功を収めてからバスキアは、世界中で自分の作品が批判されることにプレッシャーを感じ始めた。作品制作に集中するためにヘロインをやりだしたこと、最期の頃は孤独になり、“当時、世界で最も有名なアーティストなのに”大晦日にひとりでバーに座っていたエピソードなどは胸が痛い。また、多くのアート関係者が繰り広げるバスキア作品の解釈も興味深い。『Downtown 81』の脚本を手がけたライターで、バスキアとも交流があったグレン・オブライエンは、自分の名前を描くだけのほかのグラフィティアーティストとは一線を画し、バスキアは詩的な文章を描いていたと語る。

『バスキアのすべて』

●監督/タムラ・デイヴィス
●出演/ジャン=ミシェル・バスキア(アーカイブ映像)、ジュリアン・シュナーベル、ファブ・5・フレディ、ディエゴ・コルテス、トニー・シャフラジほか
●2010年、アメリカ映画
●93分
●原題/Jean-Michel Basquiat: Radiant Child

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4.『バスキア、10代最後のとき』(2017年)

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映画として初公開となる秘蔵コレクションも登場する『バスキア、10代最後のとき』。
©2017 Hells Kitten Productions, LLC. All rights reserved. LICENSED by The Match Factory 2018 ALL RIGHTS RESERVED Licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan 

最後に紹介する『バスキア、10代最後のとき』は、彼の死後30年を記念して製作されたドキュメンタリー。ギャラリー関係者や生前に交流があった人々の証言から、バスキアの姿が浮かび上がる。バスキアは脚光を浴びる前、高校時代の友人アル・ディアスと組んで、ニューヨーク中グラフィティを残していた覆面アーティストSAMO(セイモ)だったこと。また当時のグラフィティシーンやパンクロックシーン、ストリートカルチャーにもついても触れられる。

映画監督のジム・ジャームッシュは、バスキアはいつも店から勝手に拝借した花を女の子にあげていたこと、次はどんな映画を作るのか、映画のアイデアについて話そうと頻繁に言われていたことを語る。ファッションデザイナーのパトリシア・フィールドは、服にペイントしてあげると言われ、承諾すると、かなり高価な値段を付けていたエピソードを話す。また、ある日ストリートで知らない人から暴力を受け、その輩を捕まえようとバスキアが走って追っかけて行ったことなど、彼の優しい一面を語る友人らも登場する。

映画に映る80年代のアートシーンやストリートカルチャーからも、バスキアの息遣いが聞こえてくるような各作品。展覧会に行く前に、あるいは行った後に観れば、バスキア体験がぐっと深まるはずだ。

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『バスキア、10代最後のとき』

●監督/サラ・ドライヴァー
●出演/ジャン=ミシェル・バスキア(アーカイブ映像)、アレクシス・アドラー、ファブ・5・フレディ、リー・ジョージ・クイノーネス、ジム・ジャームッシュほか
●2017年、アメリカ映画
●79分
●原題/Boom for Real: The Late Teenage Years of Jean-Michel Basquiat

DVD発売・販売元/バップ ¥4,104

 

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【関連情報】
雑誌「Pen」の2019年10/1号(9月17日発売)第1特集は、「ニューヨークを揺さぶった天才画家 バスキアを見たか」。数々の傑作の解説、早くからバスキアの才能を見抜いた関係者へのインタビュー、日本で始まる『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』の見どころなど、27歳という若さで亡くなったバスキアの魅力を多彩な角度から探る特集だ。

Pen最新号「バスキアを見たか。」の詳細はこちら

 

『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』

会期:9月21日(土)~11月17日(日)
会場:森アーツセンターギャラリー
開館時間:10時~20時(9月25日、26日、10月21日は17時閉館) ※入場は閉館の30分前
料金:一般¥2,100
問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
www.basquiat.tokyo

※この記事に掲載している商品の価格は、2019年9月時点の8%の消費税を含んだ価格です。

texte:AZUMI HASEGAWA

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