月夜のプールで泳ぎましょう 吉村界人、King Gnu井口理と考える音楽×アートの関係。

Culture 2019.09.25

今月よりスタートする、俳優・吉村界人による新連載「月夜のプールで泳ぎましょう」。吉村が描いた一枚の絵画をきっかけに、各回に設けられたテーマについて対談する企画。初回のゲストには、King Gnu(キングヌー)でボーカルを務め、役者としても活躍する井口理が登場。テーマは「音楽とビジュアル/アートの関係」。

190924-kaito01.jpg左から吉村界人、井口理。

――連載「月夜のプールで泳ぎましょう」1回目です。よろしくお願いします。この連載タイトルはどんな意味があるのですか?

吉村 僕、夜の時間が好きなんです。夜に、本とか映画とか、音楽とかそういうカルチャーの海に浸っているのが好きで、そんなイメージで(笑)。絵を描くきっかけになったカルチャーとかについても、この連載で話せたらいいなって。

――いいですね。ふたりは、どうやって出会ったのですか?

吉村 中目黒の飯屋で会いました。お互い友達と一緒にいて。俺の友達が理に気が付いて、話したいってなって。そしたらお互い共通の知り合いがいて、もう一軒行くかってなってそこから友達です。

井口 それが2か月前。

――そんなに最近の話だったとは! ではまず、吉村さんが持ってきてくれた絵について伺いたいです。これはどうやって生まれたんですか?

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吉村 これは、、なんだろう。特に理由はないんだけど、坂本龍一が好きで。今日、朝早く起きちゃって、6時くらい。じじいみたいだよな(笑)。坂本龍一でも流すかと思ってYouTubeで流して、台本のセリフ覚えてて。

そういえば、理に会うの今日だ、と思っていろんな音楽聴いたのよ。ロックとかポップとか、ヒップホップ、レゲエ、全部。そしたら、音楽やってる人ってやっぱり、混沌の中で生きてんだなっていう気持ちになって描いた。

――対談の前、この絵をくしゃくしゃに丸めてましたよね。

吉村 ぴしっとした、きれいなものではない、きれいな音楽なのに、全然きれいな感じではなさそうだなっていう感じ。だからくしゃくしゃにするくらいのほうがいいかなって。だから僕は、音楽がいちばん好きなんだけど。

――井口さんはその想いに共感しますか?

井口 僕もきれいに生きてるわけではなくて。4畳半のとっちらかった部屋に住んでるし(笑)。この絵の感じは、自分の中にもあるものだと思う。前に出した表現の後ろ側にある自分の感情というか。そういうのはわかりますね。

きれいでいれないんですよね、なんか。それが自分にとって自然じゃないというか。

吉村 うん、それはあるね。それが許されるのが芸術だよね。その最たるものがアーティスト、音楽家だと思ってて。俺らはきれいじゃないままでOKかといわれたらそうでもないから、羨ましい。

――そんな表現に惹かれるふたりについて、もう少し深く伺えたらと。今日は、井口さんがこれまで衝撃を受けたビジュアル作品をいくつか持ってきてもらいました。『もののけ姫』のポスターがありますね。

井口 ジブリの中で『もののけ姫』のポスターがいちばん好きなんです。一枚で語るストーリーがすごいインパクトあるなって。少女の口の周りが血だらけになっていて、後ろにはよくわからない巨大な生き物がいて(笑)。

あとキャッチコピー。「生きろ」っていうシンプルな言葉だけど、そこに秘めるものがある。このひと言で、いろんなものを包括しているから好き。何十個も出たほかの案をなしにしてでも、残ったのがこの「生きろ」っていうのもすごくいいなって。

吉村 へえ、知らなかった。

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――吉村さんが持ってきてくれた、もう一枚の絵にも言葉が入っているのが印象的です。

吉村 僕、ブラックミュージックが好きで、聴いていた時に描いた絵です。ブラックのカルチャーに惹かれる。ユーモアがあるよね、バッドなことでも。すごく前向きでいいなと。理はブラックミュージックとか聴く?

井口 バンドに入ってから聴くようになったかな、サンダーキャットとか。

アルバム『Drank』の、ジャケットを撮るまでの背景が好きで。もともと、フライング・ロータスの家のバスタブで撮る予定だったらしくて、でもサンダーキャットの身体が大きすぎて、バスタブに入らなかったって言う(笑)。

吉村 ははは(笑)。

井口 その家にプールがあって、ちょうど夕日が差していてそこで撮ろうってなったらしくて。曲を聴いたら、たしかにバスタブで撮ったらすごくムーディになりそうとは思った。けど、予定調和ではないところで生まれて、感覚でこのクオリティまでいっちゃったのがいいなって。このジャケットで出してなかったらきっとまた違う聴き方をされるだろうし、ジャケットに助けられているところが絶対にある。

――視覚と音楽が、結びつくと。

井口 そうですね。もうひとつ例をあげると、漫画『ブルージャイアント』っていうジャズの漫画があって。主人公がジャズを突然初めて、その生涯を描いてるんですけど。

音楽漫画って、音が鳴らないじゃないですか。でもこれ、実際のジャズマンの意見を聞いてもすごくおもしろいらしくて。音が出ないからこそ、その人の中にある音楽がちゃんと鳴るんですよね。

自分の経験で言うと、レコーディングが朝に終わって朝日が昇る瞬間に、音楽が鳴る時があったんですよね。グリーグの「朝」っていう曲だったり、クラシックの曲だったり。そういう時、やっぱり視覚と耳が結び付いているんだなって感じる。界人が音楽を聴いて絵を描くのも、それと近い感覚なのかなって。

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吉村 そうだね。理が言うとすごい音楽家っぽいなと思ったけど(笑)、俺にも当てはまるな。

井口 多分これって誰にでも当てはまることなんだよね。みんなどこかしらにその感覚があるはずで。この曲を聴くと、好きな子に告白した時のことを思い出す、とかさ。記憶とか体験とか、そういうものと繋がってる。

吉村 香水みたいなもんだね。匂いで思い出す、とか。

――音を堀りたい時にジャケットだけで選ぶとかって、同じ感覚なのかもしれないですね。

井口 ありますね。やっぱり音楽のCDを借りてPCに入れるって、音楽聴くよりもまずジャケットが絶対目に入る。それって音楽聴くうえで、先入観としてジャケットの絵があるはずだから大事だなって。ジャケットを見て、アーティストの人柄が見えてくるところもあると思うし。

吉村 俺が絵を描く時は、音から描くというよりも、映画的な感覚で、情景として入ってくるんだよね。特に洋楽は。邦楽だと言葉が来るからあまり聴かないけど。なんか、浮かんだイメージを手繰り寄せる感じ。

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――King Gnuのジャケットは、毎回まったく異なるものがでてきておもしろいです。ミュージックビデオも曲ごとにテンションが違いますよね。偶然から生まれたものってありますか?

井口 常田(Gt.Vo.担当)が曲を作る過程で、ある程度は絵も浮かんでいるんですよね。それでアートワークを頼んで作ってもらう。でも、「It's a small world」のMVは、予定調和にはいかなかったな。

定点カメラでワンカットで撮ったんですけど、スタジオではなくて、千葉の海岸線みたいな、潮が引いたところにセットを組んで。ただ、めちゃくちゃ風が強くて(笑)。本当は風が吹く予定じゃなかったんだけど、その風を利用してゴミを飛ばしてみたり。主人公が抱えている猫も、最初は逃げていく設定だった。でも風を怖がって動けなくなっちゃって。そこの演出も、その場でやったらいい感じに仕上がりました。

吉村 これ、踊ってるのは誰?

井口 俺と、大学の演劇サークル時代の友達で。俺は特殊メイクして、寂しい宇宙人の役をやったんだけどすごい楽しくてさ。その場で起きるハプニングを作品に落とし込む作業が、サンダーキャットに通じるものがあるというか。ライブも同じで、お客さんの盛り上がりをみてやるべきだと思うし。やっぱり、生ものを大事にしたいなという思いがある。

吉村 すごいな、役者に向いてる。ほかに、生の表現だなって思った作品ある?

井口 あとは、スパイク・ジョーンズが監督の、AppleのHomePodのCMがすごかった。部屋でFKA twigsが躍るんだけど、動きに合わせて、どんどん部屋の一部が伸びていって広くなるんだよね。これ、実は一切CGを使ってないらしくて。すべてスタジオを組んで、ほんとに伸びるようにしてる。

コンピューターグラフィックスがめちゃくちゃ発展してる時にさ、現実との境目がなくなってきてるところがあるじゃん。そのなかで、ちゃんと人力でやるっということの強さというか。生身でやるということの重要性がこれに詰まっているなと思う。

井口 やっぱ感動するのって、生身の人間がやってることであってほしいなって、願いとしてあって。これからはフルCGで、現実の人かCGなのか分からなくなってくと思うし。でもタバコひとつ吸うにしても、飯食う動作にしても、ちゃんと本当の人間がやるとわかるはずだから。生が好きだな。

吉村 それはわかるかも。俺もさ、30年後とか役者とかいらないんじゃないかって思うことあって。涙流しとけば、実際にはつながってなくてもあとで顔だけ変える、とかも、実際カット割りでできちゃうわけで。そういうのは、役者としてきつい。

井口 役者がちゃんと全部、その一連の流れを演じてるっていうのがすごい大事だよね。

吉村 生に勝てるものはないと思う。『ワールド・スピード』も面白いけどね(笑)。

井口 映画で描く夢の部分とかは、全然CGで描いていけばいいと思うし、俺もそこは悲観的ではなくて。表現のひとつとしてはいいと思うんだけど、やっぱり表情のシーンとか、ちゃんと人を見たいところでは人が演じるべきだと思う。どこまでいっても、そういうのは大事にしていたい。

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――吉村さんの絵も、アナログで描いてますよね。さきほど絵をくしゃっと丸めたのも、それこそ生の表現だなと。

吉村 ぱっと思いついただけなんだけどね。

井口 今日じゃなかったらやってなかったかもしれないし。

吉村 うん、今日じゃなかったらやってない。

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――では、もう一枚の絵について伺います。この絵を描いた時は、どんな気持ちでしたか?

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吉村 友達と「一緒になにかやろうぜ」ってなった時に描いたもの。結局、いろんなしがらみで、だめになっちゃったんです。柔軟性がない環境だなと、そんなことを思いながら描きました。

井口 自分が自分でいるために、自分を保つために描く?

吉村 うん、まさにそう。どこにも出せない感情があるじゃん、友達に愚痴っても仕方がない感情。そういう時、絵を描くしかないから描いてるっていうのはある。

井口 結局は、自分で昇華させなきゃいけない。

吉村 そうだね。ほかのものじゃ補えないものがある。そういうのない?

井口 あるね。自分が歌をやってるからこそ、歌で昇華できないものもあるし。やってることでは吐き出せないものってあるじゃん。役者やってて、役者で全部吐き出せたらいいんだけど、それもできない時ってのがある。

吉村 そうだね、役者で昇華させるのはもっと難しいね。むしろ逆効果かも。どこかの型にはまらないといけない仕事だから、型にはめたくないのにそっちをやるっていうのはさらにきついよね。

――吉村さんが絵を描くきっかけは、そこにあったんですね。

吉村 しがらみなく生きてたつもりだったんですけど、こんなにしがらみあるのってなって、逃げ道を探してたら趣味の音楽とか絵に出合って。ぶっちゃけ、縛るものがなかったら多分やってないと思う。ちゃんと真剣に生きてなかったのかもしれないですね。真剣に生きたら、「あ、こんなきついんだ」って。真剣に生きずにいたら、多分何もやってないと思います。

井口 最近よく考えるのが、ある程度バンドが売れてきて、周りを見ると結構苦しんでやってる人が多いんだよね、音楽とは関係ないところで。事務所とのやりとりとか、SNSで聞きたくない声が聞こえてきたり。そんなななかで自分を見失わないためには、最終的にちゃんとハッピーになろうっていう気持ちが大事だなと思って。

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吉村 幸せになりたいよね。

井口 そう。誰しも絶対そうだと思う。最終地点ハッピーていうのは絶対的な自分の決まりごとというか。もちろん苦しんで作るべきところがあるけど、それは最終的にちゃんと幸せになるためだっていうのは持っとかないと潰れちゃう。

吉村 幸せになれないと思っちゃうけどね、本当の意味では。……なれるか?

井口 なろうとすることが大事というか。そういうマインドで生きてれば、幸せになれるのかなって。俺、多分すごい楽観主義者なんだけど、それで仕事が疎かになるとかではなくて。ちゃんと取り組むんだけど、最終的にその目的がないとやってくの普通に苦しい。抜けた先が暗闇って、絶対嫌だし。こんなに頑張ってるのに俺最後こんな終わり方するんだなんて嫌。そこはちゃんと見据えていたい。

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吉村界人
Kaito Yoshimura


1993年生まれ、東京都出身。2014年、『ポルトレ PORTRAIT』で映画主演デビュー。以降、多くの映画やTVドラマ、CMに出演。主な近作に、主演作『太陽を掴め』(16年)、『モリのいる場所』(18年)、『サラバ静寂』(18年)、『Diner ダイナー』(19年)など。18年、第10回TAMA映画賞にて最優秀新進男優賞を受賞。
Instagram:@kaito_.yoshimura
井口 理
Satoru Iguchi

1993年生まれ、長野県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。2017年、常田大希(Gt.Vo.)、勢喜遊(Drs.Sampler)、新井和輝(Ba.)とともにKing Gnuを結成。自身はヴォーカルとキーボードを務める。19年、アルバム『Sympa』でメジャーデビュー。サマーソニック2019に出演。MTV VMAJ 2019にて「白日」がVMAJ史上最速の最優秀ビデオ賞と最優秀邦楽新人アーティストビデオ賞の2冠を達成。10月より全国ツアー開始。
Instagram:@191satoru
https://kinggnu.jp

photos : SYUYA AOKI

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