愛を求めてすれ違う男女を、金原ひとみが描き出す。
Culture 2019.09.26
心の平穏と社会との狭間でもがく男女。
『アタラクシア』
金原ひとみ著 集英社刊 ¥1,728
いつから女性はこんなに苦しみを抱えるようになったのだろう。望んで社会に出て、仕事をし、結婚して、子どもを産み、多くのものを手に入れながら、ぽっかり空いた心の穴に気付く時、私たちは呆然と立ち尽くす。権利の果てに幸せは待っているのだろうか? 社会と繋がることとは、すなわち心の平穏をかき乱されること。この小説では愛を求める複数の男女が職場やSNSですれ違いながら、空虚で不確実な互いの存在を探り合う。現代人の心の暗部に鋭利な刃物で切り込む著者の視線が、痛いほど胸に突き刺さる。
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*「フィガロジャポン」2019年9月号より抜粋
text : JUNKO KUBODERA