アダット・アケチ、難民から「2019年のモデル」へ。

Culture 2019.12.11

モード界でいま最も注目される女性のひとりであり、いくつものラグジュアリーブランドのキャンペーンの顔。南スーダン出身、19歳のアダット・アケチが、先週ロンドンで開催されたザ・ファッション・アワードで「モデル・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。その歩みを紹介する。

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ザ・ファッション・アワードでモデル・オブ・ザ・イヤー賞を受賞したアダット・アケチ。(イギリス・ロンドン、2019年12月2日)photo:Getty Images

身長は178cm、すらりと伸びた脚に、茶目っ気のあるぷっくりフェイス。そして幸運を呼び込むすきっ歯が魅力のアダット・アケチは、南スーダン出身。さまざまなブランドの広告に起用され、各地のファッションウィークのランウェイを歩く売れっ子モデルだ。同郷のアレック・ウェックやアイコン的存在であるナオミ・キャンベルに続き、クリエイターたちからひっぱりだアダットは、12月2日、英国ファッション評議会が選ぶ「モデル・オブ・ザ・イヤー」に輝いた。アダットは授賞式の画像を70万人のフォロワーを有するインスタグラムにアップ。ロイヤル・アルバート・ホールでの授賞式に着用した、ヴァレンティノの大きな結び目がアクセントになったエメラルドグリーンのドレスを披露した。

だが彼女は、レッドカーペットを歩くいまの姿からは想像もできない生い立ちを持っている。

アダットは1999年12月25日に南スーダンに生まれた。数カ月後、家族は内戦を逃れてケニアのカクマにある難民キャンプに避難。その後、オーストラリアに渡った。70年代に活躍したグレイス・ジョーンズのような存在感を放つ彼女は、過去を堂々と語り、「私は黒人女性、難民、ゼロから出発してなにかを成し遂げた人たちの代表です」と語っている。そんな彼女を待ち受けていたのは、まさに激動と呼ぶにふさわしい展開だった。

サンローランに抜擢される。

13歳で早くもオーストラリアのモデルエージェントに見出されたアダットだが、シドニーのエージェント「チャドウィック・モデルズ」と初めての契約を交わしたのはかなり最近の2016年のこと。しかしそこから事態は急進展する。メルボルン・ファッションウィークを訪れたアダットは、とあるオーディションに参加。偶然か必然か、オーディション会場で撮影されたポラロイド写真がサンローランのショーのキャスティングディレクターたちの手に渡り、これが快進撃のスタートとなったのだ。

2016年9月、ベルギー人デザイナーのアンソニー・ヴァカレロは、サンローランのクリエイティブディレクター就任後初となるコレクションの発表を控えていた。老舗メゾンの革新と躍進を成し遂げた天才デザイナー、エディ・スリマンの後任という重責を担う彼は、このシーズンに特別な意気込みを持って臨んでいた。その大きな期待が集まるショーが、アダットにとってパリコレのランウェイデビューにもなった。アシンメトリックなラメ入りドレスを纏って自信に満ちた足取りでランウェイを歩む彼女の姿は、パリの観衆を熱狂させた。

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シャネルのウェディングドレスを纏う。

しかし、サンローランのショー以外でアダットの姿を見ることはなかった。ヴァカレロ率いるサンローランと3年間の専属契約を結んでいたためだ。2018年3月に契約が終了すると、2018ー19年秋冬ファッションウィークでは、ニューヨークのカルバン・クラインから、ミラノのフェンディ、パリではシャネル、ディオール、ジバンシィと、32ものショーに登場し、一躍トップモデルの仲間入りを果たした。さらに同年のザ・ファッション・アワードでは、ベラ・ハディッド、カイア・ガーバー、ウィニー・ハーロウといった人気トップモデルと並んで「モデル・オブ・ザ・イヤー」にノミネートされた。

ヴァカレロに次いでアダットに注目したのは、カール・ラガーフェルドだった。2018年7月、シャネルの2018ー19年秋冬オートクチュールコレクションで、皇帝カールはショーの最後を飾るウェディングドレスのモデルに彼女を起用。ミントグリーンのジャケットとスカートのセットアップに身を包んだアダットは、大先輩のアレック・ウェックに次いで、シャネルのウェディングを着用した二人目の黒人モデルとなった。ショーの後、「社会的な通念を覆し、シャネルのオートクチュールでウェディングを着た二人目の黒人女性として歴史に名を残すことになるなんて信じられません」というコメントをインスタに投稿している。

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シャネルの歴史上ふたり目の黒人マリエとなったアダット・アケチと、カール・ラガーフェルド。(フランス・パリ、2018年7月3日)photo:Getty Images

「自分は唯一無二」

モード界にダイバーシティの風を吹かせる――それもアダットの挑戦のひとつだ。「4年前にパリに来たとき、自分を売り込むためにいくつもオーディションを受けました」とアダットは『M』誌に語っている。「黒人女性はあまり見かけませんでしたし、当時は私と同じくらい肌の色の濃いモデルはいませんでした。ゆえにある意味、自分は唯一無二の存在だと感じていました。この3年で状況はかなり変わりましたけれど」

今年8月にオーストラリアのファッション誌で別の黒人モデルと混同された時、彼女はインスタに怒りの言葉を書き込んだ。「白人モデルならこんなことは絶対に起きないでしょう。このミスをした人は画像を見て間違いなく私だと思ったのでしょうが、それは異常なことです(中略)。つまり、無知で了見の狭い人たちがいるということです。そういう人たちは黒人女性やアフリカ系女性はみんな同じだと思っているのです」

ひとつ確かなのは、彼女の躍進はまだ始まったばかりだということだ。

texte:Ségolène Forgar (madame.lefigaro.fr)

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