クリエイティブな女性たちの、日常と奮闘を垣間見る。

Culture 2019.12.28

社会因習をものともせず、我を通した女性たちの記録。

『天才たちの日課 女性編
 自由な彼女たちの必ずしも自由でない日常』

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メイソン・カリー著 金原瑞人、石田文子訳 フィルムアート社刊 ¥1,980

作家、芸術家、音楽家と、様々なジャンルで名を成したアーティストの日々の習慣を集めた『天才たちの日課』はおもしろかったが、収録されている大半が男性だったので、読んでいる最中、タイトルの「天才たちの」というフレーズが気になった(原題には「天才たちの」という表現は含まれていない)。今回、この本の女性版が出た。前作を「男女の比率にあからさまな差」があるまま刊行してしまった理由がはじめに書かれているのだが、本当にそれに気づかなかったのか……と一瞬言葉を失った。とはいえ、作者の後悔により大充実の女性版が作られたのだから、喜びたい。

ヴァージニア・ウルフ、草間彌生、マリー・キュリーなどなど、本作には多彩な女性が登場する。共通するのは、どの時代の女性も、社会の因習に抗って自分を貫き通したという点だ。協力してくれない夫という厄介な障壁にも負けず、家事や育児と仕事の“ 両立”に苦しめられながらも、なんとか時間を捻出して作品に向き合った女性も少なくない。それぞれに課せられたハードルは現代でも存在するものなので、だからこそそれを乗り越えて、自分自身が求めるものを諦めなかった姿が心強い。育児中は家から離れられないことを逆手にとり、住んでいる通りの人々を題材に映画をつくったアニエス・ヴァルダなど、発想を転換させ、アイデアに変えてみせたすべにしびれる。

また、前作と同じく、仕事のルーティーンだけではなく、それぞれの人柄が感じられるエピソードも満載で楽しい。無口で有名だったマリソルが野外昼食会でじっと座っていたら、上腕のあたりに蜘蛛の巣がはった、という話が好きだ。ミランダ・ジュライやゼイディー・スミスなど、現代の作家にとって、最大の敵はネット環境、というのも頷ける。

文/松田青子 小説家、翻訳家

著書に『スタッキング可能』(河出書房新社刊)、『ロマンティックあげない』(新潮社刊)など。近年の訳書に『AM/PM』『問題だらけの女性たち』(ともに河出書房新社刊)など。

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*「フィガロジャポン」2020年1月号より抜粋

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