洗練された会話に満ちた、パリの大人のラブストーリー。

Culture 2019.12.29

実人生と虚構の間を行き交う、恋と会話の自在な心地。

『冬時間のパリ』

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無頼風情の情けない小説家と敏腕編集者、その配偶者や愛人が、仕事と恋愛をめぐって談論風発。知性と幼児性を甘く、ほろ苦くカクテルした会話の快味。

フランスの名匠オリヴィエ・アサイヤス監督が、家族を描いた美しい名作『夏時間の庭』(ニューヨークタイムズ紙による「21世紀の映画暫定ベスト25」に選ばれた)と鏡のように呼応する、10年ぶりの冬ヴァージョン、『冬時間のパリ』をまたジュリエット・ビノシュ出演で創り出した。原題の“Doubles Vies”が示唆するとおり、実人生と小説に描かれた虚構、配偶者と浮気相手などの間を心が自在に行き来する、ウィットに富んだ作品だ。

世は電子書籍時代、紙の本の編集者も小説家も「変わらなければいけない」と侃々諤々(かんかんがくがく)のディスカッション! でもそれはどこかエリック・ロメール風の(チェーホフ風の?)果てしないおしゃべりとして、食べたり飲んだりしながら繰り広げられる。あくまでもサンパティックな(感じのよい)人々によるサンパな会話だ。と同時に、知的であり刺激的でもある。

この先もずーっと魅力的な女性であり続ける勢いの、ビノシュの不滅の美しさに感嘆しながら、彼女と編集者夫婦のリッチな暮らしと、それよりはちょっとボヘミアンな感じのある作家夫婦の家とをおもしろく比較したり。「人生、なるようになるさ」と明るい気持ちになったり。本作の楽しみ方は無限だ。フランス映画というと「前衛的すぎてついていけない」場合もあるイメージだけれど、『冬時間のパリ』にその心配は無用。『パーソナル・ショッパー』でスタイリッシュな今日的ヨーロッパを描いた監督らしく、「今」を受容しながらも芸術と併存させる寛容さ、温かさがある。鑑賞後には、パリ流ビストロに寄りたくなってしまうこと必至の、素敵な映画です。

文/目黒 条 作家・翻訳家

2005年、『ピローマン』の翻訳で第12回湯浅芳子賞を受賞。最近の翻訳戯曲はチェーホフ作『プラトーノフ』、ミュージカル『ビューティフル』ほか。著書に『カルトの島』(徳間書店刊)ほか。
『冬時間のパリ』
監督・脚本/オリヴィエ・アサイヤス 
出演/ジュリエット・ビノシュ、ギョーム・カネほか
2018年、フランス映画 107分
配給/トランスフォーマー 
Bunkamuraル・シネマほか全国にて公開中
www.transformer.co.jp/m/Fuyujikan_Paris

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*「フィガロジャポン」2020年2月号より抜粋

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