戦争への禁断の問いかけを、ビートルズの名曲にのせて。

Culture 2020.01.28

ビートルズの名曲と照応し、戦火の"熱狂"の渦中に迫る。

『ジョジョ・ラビット』

2002xx-cinema-01.jpg

軍国少年ジョジョはウサギを狩れずに「臆病」と罵られ、手榴弾の誤爆で頰に傷を作るドジっ子。隠れていたユダヤ人少女との出会いが世界反転の鍵に。

もしもナチスに熱狂しながら育っていたら? そんな禁断の問いかけに十分に応えた映画はなかった。悲惨で恐ろしい結果については『夜と霧』(1955年)など、様々な映画が作られたが。ビートルズのドイツ語版「抱きしめたい」を使い、信じられないほど輝かしい国民たちを描いて始まるこの映画は、新しい視線で歴史を見つめる。

ファシズムが荒れ狂う第2次世界大戦下のドイツで母子家庭に育つ10歳のジョジョは、父の代わりに空想上の友だちとなったアドルフ・ヒトラーの幻影と遊びながら戦争の狂気に向かう。ジョジョの心に住んだヒトラーは、時にヒョウキンに、時に包容力をもって彼を誘導する。ヒトラーは当時の子供にとってはビートルズよりもはるかに強力なアイドルだったかも? そんな推測を元に、かぐわしいユーモアとファンタジー、そしてショックとともに前向きな平和への祈りをわれわれ現代人の心に与えてくれる、素晴らしい作品である。

ローマン・グリフィン・デイビス演じる幼いジョジョの愛くるしい魅力は、胸をかきむしるようだし、母親役のスカーレット・ヨハンソンは、その吟味されたファッションとともに妖しい魅力を放つ。当時流行ったワグナーなど美しい音楽や、少年兵訓練の様子など、同時代を生きた若者のような感覚で心理操作を受けとめられる。そうしたナチスの技術に目をそむけず、本物の戦争のように不意をつく展開が凄い。デヴィッド・ボウイのドイツ語版曲も起用し、画期的な選曲で衝撃のエンディングを迎える。再現映像などの技術と、洗練された映画愛が進化し、たどり着いた最高の作品、ぜひ観ていただきたい!

文/サエキけんぞう 作詞家/アーティスト

ハルメンズを経て1986年、パール兄弟で再デビュー。作詞に沢田研二、モーニング娘。、著書に『ロックとメディア社会』(新泉社刊)ほか多数。2019年末、二人パール兄弟『DELAY』を発売。
『ジョジョ・ラビット』
監督・脚本・出演/タイカ・ワイティティ
出演/ローマン・グリフィン・デイビス、スカーレット・ヨハンソン、トーマシン・マッケンジーほか
2019年、アメリカ映画 109分
配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン
TOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開中
www.foxmovies-jp.com/jojorabbit

【関連記事】
正反対のふたりが、気球で大空の冒険へと飛び立つ。『イントゥ・ザ・スカイ』
洗練された会話に満ちた、パリの大人のラブストーリー。『オリ・マキの人生で最も幸せな日』

*「フィガロジャポン」2020年3月号より抜粋

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

清川あさみ、ベルナルドのクラフトマンシップに触れて。
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
2024年春夏バッグ&シューズ
連載-鎌倉ウィークエンダー

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories