川邊りえこが指南、日本文化入門。後編

贈る人へ心を込めて、ご祝儀袋の選び方。

特集

いざ選ぶとなると、その種類の多さに戸惑うこともある熨斗(のし)袋。でもルールさえ知っておけば、シーンや贈る相手に応じて好みの袋を選ぶ楽しさも生まれる。日本文化を伝えるサロン「日本雅藝倶楽部(にほんみやびごとくらぶ)」を主宰する川邊(かわべ)りえこさんが、熨斗袋の意味やバリエーションについてご紹介。

>>前編はこちら。

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心づけの金封も、表書きは自分の文字で書いてみて。贈り物を渡す時は、和紙製のカードやはがきにひと言添えれば想いが伝わる。

熨斗袋は格合わせが大切。相手の格や場、包む金額に応じてふさわしいものを選べるよう、水引の意味についても知っておきたい。

「水引には大きく分けて2種類あります。婚姻、弔事、お見舞い、快気祝いなどは『これ一度きりで二度とないように』の想いを込めて、結び直すことができない『結び切り(真結び)』を用います。『蝶結び(もろなわ結び)』は『何度繰り返してもいい』という気持ちを込めたもの()。水引の本数は慶事では奇数(3、5、7本)を使い、本数が多くなるほど丁寧になりますが、婚礼は10本一組(両家5本ずつの意)を使うのがしきたりです。色は紅白か金銀が定番で、向かって右側に濃い色がくるように結びます。不祝儀袋も相手の格や包む金額に応じて選びます。水引は偶数(2、4、6本)で『結び切り』が基本。色は黒白か銀ですが、関西では黄銀、黄白が用いられます」と川邊さん。

*地方によって慣習が異なる場合もあるので注意が必要。

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「結び切り(真結び)」(左)と「蝶結び(もろなわ結び)」(右)。上級品は本物の鮑熨斗が用いられる。

そもそも熨斗袋の「熨斗」は、熱で皺をのばす道具のこと。鮑の肉を薄く削いでのばしたものが熨斗鮑と呼ばれ、熨斗がのばした鮑そのものを指すようになったと川邊さんは言う。

「長寿をもたらす食べ物とされた鮑は古くから縁起物とされ、神饌に用いられました。中世に入ると武家の出陣や帰陣の祝儀、また吉事の贈答に添えられるようになり、次第に一般に広まるようになります。熨斗鮑を贈り物に添えるのは、鮑の香気により汚れや邪気を防ぐと同時に相手を思いやり、いざというときの食料として添えられたともいいます。やがて熨斗袋の熨斗鮑は簡略化され、長六角形の色紙で包んだ紙(折り熨斗)が用いられるように。現在ではさらに簡略化されて『のし』の文字や蕨(わらび)、松葉を意匠化した印刷熨斗が誕生しました。いずれも長寿や繁栄を象徴する縁起物です」

お札を入れる際は、金額に応じて金封の大きさも替えましょう、と川邊さん。

「お渡しする状況によりますが、正式な熨斗袋はもちろんのこと、立て替えていただいたチケット代や会費などは、小さなポチ袋や事務的な茶封筒より、好みの袋を用意しておくと素敵です。千円札、五千円札はポチ袋でも大丈夫。

心づけにはさまざまな用途がありますから、季節や相手の好みに合わせてお渡しできるよう、いくつか袋を用意しておくとよいでしょう。多彩な意匠があるだけに、送る側のセンスや心意気が表れます。袋にこだわり、名前や表書きを書くことに挑戦してみてください」

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日本の意匠は洋のデザインに負けないほどおしゃれなものが多い。贈る場面や季節を想定して日頃から購入しておくと、いざという時に便利。

筆で書くことに慣れてきたら贈り物に一言、カードを添えるのもおすすめ、と川邊さん。「筆を使って『ありがとう』『心ばかり』『感謝』『がんばって』など、個性的な文字でひと言したためるだけで印象に残るものになります」

最後に、筆文字を書く際のポイントについて。「熨斗袋の文字は、本来楷書が基本ですが、楷書はきれいに書くのが難しく、実は粗が見えやすい書体です。上手下手にこだわらず、いまの自分の字を生かしながら書きやすい形にくずし、個性的な文字にしてみましょう。行書に慣れることによって、楷書にも自信が持てるはずです」

日本らしさとはどういうことかをあらためて考えるために、まず文字を書く、書をしたためるという行為と向き合う必要がある、と川邊さんは語る。今回取り上げた金封のほか、カードや手紙、記帳など日常生活のなかで「筆で書く」ことは、日本の美意識を感じ、向き合うことにも繋がる一歩となるだろう。

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小さな袋ひとつにも日本人の相手を大切に思う美意識が宿っている。書くという行為をきっかけに、和の知恵に目を向けてみたい。

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熨斗袋の歴史から使い方、文字の記し方の基本を紹介するとともに、熨斗袋に象徴される日本の贈答文化についての理解を深めることができる川邊さんの著書『熨斗袋』。TPOに応じた熨斗袋やポチ袋が美しい写真とともに紹介され、お手本となる表書きの文字が掲載されている。古くから伝わる贈答儀礼を現代生活で正しく、おしゃれに身につけるための実用書。日本女性のたしなみとして覚えておきたいことが詰まった、必読の一冊だ。

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『熨斗袋 − 選ぶ 書く 伝わる』川邊りえこ著 工作舎刊 ¥1,980

〈川邊りえこさんおすすめの店〉

上質な和紙の風合いと豊富なデザインが魅力。

1806(文化3)年、日本橋を中心に和紙および紙製品の販売を行う榛原(はいばら)。全国の職人による手仕事で作られた良質の和紙を材料とし、意匠を凝らした金封、便箋、和小物のほか、水引や熨斗、書道用品も扱っている。「個性的な柄と歴史を感じさせる品揃えが素晴らしい」と川邊さんも愛用。木版摺りの金封や明治期にデザインされた千代紙など、温かみのある風合いと華やかなデザインにファンも多い。


榛原
Haibara

東京都中央区日本橋2-7-1 東京日本橋タワー
tel:03-3272-3801
営)10時〜18時(月〜金) 10時〜17時30分(土、日)
休)祝、年末年始
www.haibara.co.jp

川邊りえこ Rieko Kawabe
書道家、美術家。日本文化を伝える啓蒙活動として1995年より会員制の「日本雅藝倶楽部」を東京と京都で主宰。98年からは日本の職人によるものづくり、日本の素材を提案する「にっぽんや工房」を運営。2018年には社団法人雅藝日本文化協会を設立し、日本の美とこころの深層を探求し、その魅力を世界へ伝えるための活動をスタートさせた。著書に『雅藝草子』『ことたまのかたち』『熨斗袋』(すべて工作舎)がある。
*日本雅藝倶楽部では、非会員向けコースとして1時間の書道体験を開催している。熨斗袋や芳名帳に自分の名前を書くためのレッスンで、個性に合わせたサイン作りを指導してもらえる。
www.miyabigoto.com/information.html

※記事内の商品の価格は、標準税率10%の税込価格です。

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〈Things to Do! 2020〉展覧会で和を愛でる。
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photos : AYA KAWACHI, réalisation : JUNKO KUBODERA

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