ドキュメンタリー映画で世界のいまを考える。#02

『21世紀の資本』が教えてくれる、格差社会を生き抜く術。

特集

難しいテーマでも、あるいは地球の裏側で起こっている事象でも、映像の力と圧倒的な情報量で私たちの好奇心を大いに刺激するドキュメンタリー映画。この春、特に充実するラインナップのなかからおすすめをセレクト。併せて観たい作品も紹介します。第2回のテーマは“資本主義”。


選・文/今 祥枝(ライター・編集者)

ポップカルチャーを織り交ぜ、資本主義の仕組みを解き明かす。

『21世紀の資本』

今年のアカデミー賞を沸かせた『パラサイト 半地下の家族』。映画のキーワードになっている格差社会という言葉には、以前にも増して注目が集まっている。今年1月には国際NGO「オックスファム・インターナショナル」が、世界の金持ち上位26人が世界のボトムハーフの約38億人と同じ額の資産を保有していると発表した。衝撃的な事実である。

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ポップカルチャーやアニメーション、文学、そして『怒りの葡萄』や「ザ・シンプソンズ」など、古今東西の映画をふんだんに取り入れたスピーディな展開は娯楽度満点。楽しみながら資本主義社会における“格差”の真相がわかる。

経済的不平等は資本主義社会に生きる私たちにとって避けることのできない現実だ。だが現代の日本でも、これほど“格差社会”が深刻な社会問題となっている根っこはどこにあるのか? フランスの経済学者トマ・ピケティの著書『21世紀の資本』を、ピケティが自ら監督との共同作業によって映画化した本作は、実にわかりやすくその答えを教えてくれる。

映画は過去300年の各国の歴史を、ピケティをはじめとする専門家たちが“資本”という観点から解説していく作り。小説やアニメーション、ポップカルチャー、数々の映画からの引用が娯楽度を高めている点がおもしろい。ジェーン・オースティンの文学及び映画『プライドと偏見』(2005年)は、なぜ金の話ばかりしているのか。『レ・ミゼラブル』(12年)の感動的なシーンを振り返りながら、フランス革命は偽善だったと説明する。そして戦争と極貧、ファシズム台頭は密接な関係にあり、現代のごく少数の人々への富の集中は戦争前夜に非常に近いものがあると警告する。まさに“歴史は繰り返す”という感じ。劇中に登場するSF『エリジウム』(13年)の超格差社会の描写が現実のものとならないために、私たちは何を、どう考えて資本主義社会を生きるべきなのか? そのヒントが『21世紀の資本』には詰まっている。

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映画は権力と富の継承が顕著な現代社会に警鐘を鳴らす。「平等は自然には生まれない」という厳然たる事実に、私たちはどう向き合うべきなのか?

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人は他人より物理的に優位に立つと、自分が優秀な人間だと脳内で翻訳されて横柄な態度を取りがちという実験結果も。劇中には、成功と引き換えに倫理観を失っていく若者を描いた映画『ウォール街』も登場する。

『21世紀の資本』予告編。原作・監修・出演を務めたトマ・ピケティは格差研究の第一人者。2014年の大著『21世紀の資本は世界的ベストセラーとなった。大の映画好きで、暇さえあれば散歩がてらに近所の映画館に通っているそう。

新作映画
『21世紀の資本』
●監督/ジャスティン・ペンバートン
●原作・監修・出演/トマ・ピケティ
●出演/イアン・ブレマー、ジョセフ・E・スティグリッツ、フランシス・フクヤマほか
●原題/Capital in the Twenty-First Century
●2019年、フランス・ニュージーランド映画
●103分
●配給/アンプラグド
●3/20(金・祝)より、新宿シネマカリテほかにて公開
https://21shihonn.com/

©2019 GFC (CAPITAL) Limited & Upside SAS. All rights reserved

※映画館の営業状況は、各館発信の情報をご確認ください。

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併せて観たい作品①:『アメリカン・ファクトリー』(2019年)

資本家と労働者、機械と人間……格差が生まれる理由に迫る。

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“ラストベルト”と呼ばれる地帯で、失業した労働者たちを救済したのは中国の企業だった。しかしこうした労働力者のあり方も、テクノロジーの進化によってすでに過去のものとなりつつある。それはもちろん日本も例外ではないのだ。

映画&TV好きで知られるバラク・オバマとミシェル・オバマ夫妻による映画製作会社「ハイヤー・グラウンド・プロダクションズ」の第1作で、第92回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した作品。舞台はオハイオ州デイトン。倒産した大手自動車会社ゼネラルモーターズが所有していたが、現在は中国企業フーヤオが所有する工場を題材としている。

中国人のトップと中国人社員の監督下で、厳しく指導されながら働く地元のアメリカ人たち。それでも次第に打ち解けていく両者の姿に一筋の希望も見える。だが異文化衝突という以上に、結局のところは利益追求を最優先させるのが企業なのだ。映画はどちらの側に偏ることなく、双方がいかにして分断して(させられて)、格差が生じるのかを映し出していく。それはまさに“アメリカのいま”を象徴しているものでもあるだろう。

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「私たちは一つの家族、一つの文化」という精神のもと、本物の絆を築いた者たちもいたのだが……。映画は感傷的になり過ぎず、抑制の効いたトーンで双方の事情を丁寧に映し出していく。

配信作品
『アメリカン・ファクトリー』
●監督/スティーブン・ボグナー、ジュリア・ライカート
●原題/American Factory
●2019年、アメリカ映画
●110分
●Netflixオリジナル映画、Netflixにて独占配信中

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併せて観たい作品②:「汚れた真実」(2018年~)

富める者の犯罪を露わにする、志高きシリーズ。

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ドラマ『倒壊する巨塔-アルカイダと「9.11」への道』のほか、オスカー受賞歴のあるアレックス・ギブニーの鋭い切れ味が光るドキュメンタリーシリーズ。写真はシーズン1第5話「メープルシロップ盗難事件」より。

調査報道のような役割を果たしながら、数々の不正や汚職、事件の舞台裏に切り込んできたドキュメンタリー監督のアレックス・ギブニー。「汚れた真実」は、フォルクスワーゲンの排ガス不正、製薬会社の疑惑、大手銀行HSBCと麻薬カルテルの癒着など、大企業の犯罪を1話50分~75分程度で手際よく伝える秀作シリーズ。利益の追求を何よりも優先し、人民を食い物にして巨万の富を稼ぎ出すモラル崩壊した企業の実態は、原題の「Dirty Money」の方がしっくりくるかもしれない。

題材は多岐にわたるが、ギブニーの作品に通じるのは経済の中心となる企業のやり口を示して、知らないがゆえに騙され搾取される人々を世界からひとりでも減らそうとしていること。強い使命感と尽きない情熱によって、ギブニーはドキュメンタリー作品で社会を動かすことができるのだということを証明し続けている。

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シーズン1ではドナルド・トランプも槍玉に上がったが、3月11日に配信開始となったシーズン2第3話では、イヴァンカの夫でJKことジャレット・クシュナーの不動産詐欺をがっつり追っている。これだけでも観る価値アリ!

配信作品
「汚れた真実」シーズン1&2
●監督/アレックス・ギブニーほか
●原題/Dirty Money
●2018年~、アメリカ作品
●Netflixオリジナルシリーズ、Netflixにてシーズン1&2独占配信中

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texte : SACHIE IMA

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