ドキュメンタリー映画で世界のいまを考える。#03

三島由紀夫と学生の激論を観て、自由な表現の場に思いを馳せる。

特集

新型コロナウイルスが社会に広がり、2020年3月の現時点、否応なしに私たちの生活もその影響を受けている。社会の情勢が、少し前に予想したものとは違って思わぬ跳ね方をし、大きなうねりとなった時、個人としてどう身を置き、思考し、行動するのか――。難しい状況に直面した先輩たちが、個の存在を尊重し、表現を自由にできる場所を求め、まさに行動する瞬間を記録したドキュメンタリーを見て、力を得て、勇気づけられたい。

今春、特に充実するドキュメンタリー映画からおすすめを厳選する特集。第3回のテーマは“アサイラム(安全地帯)”。社会のうねりのただなかで個人が目指す場所とは?


選・文/金原由佳(映画ジャーナリスト)

50年の時を経てよみがえる、伝説の討論会。

『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』

1969年5月13日、東京大学駒場キャンパスの900番教室に、日本という国の在り方について真っ向から思想を違える者が対面し、激論を交わした。主催者は東京大学全学共闘会議、略して東大全共闘の学生たち。全共闘は従来の学生自治会とは別に大学改革を掲げて作られた組織で、彼らに招聘されたのは右派の代表格で、時代のスター、小説家の三島由紀夫だった。

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豊島圭介監督は討論会に参加した人々に取材し、彼らが直面した三島への印象、その後の人生も紹介し、立体的にあの時代を回想していく。© SHINCHOSHA

当時の熱気を伝える映画には『69 sixty nine』『止められるか、俺たちを』『ノルウェイの森』『マイ・バック・ページ』などの青春群像劇がある。このドキュメンタリーは学生運動の最前線の貴重な記録で、保守的な価値観に徹底的に抗う学生たち1000人が待ち受ける教室に、三島はポロシャツにチノパンというカジュアルな格好で乗り込んだ。「諸君!」と東大のある教授の名前を口にし、自分も権威主義を毛嫌いする反知性主義者のひとりだと学生への共感を口にし、学生の懐に入り込んでいく。 

TBSに長年保管されていたこの映像。驚いたのは討論の内容が半ば哲学的なやり取りであることだ。たとえば学生から投げかけられるのは「他者とは何か」という問い。互いの考えを鋭い言葉でスパスパと斬っていくのに、三島も学生たちもざっくばらんで、笑いの起きる場面も多い。学生たちは三島の著作を読み込んでいて、その知識のうえでのディベートなので、三島の表情も楽しそうに見える。だが、天皇を頂にした日本という国の在り方を目指す三島と、ラジカルな共同体を目指す学生たちの間には深い溝が横たわる。翌年、三島は市ヶ谷の陸上自衛隊駐屯地で割腹自殺を遂げ、学生運動も70年代には失速していく。私たちの祖父母、親世代が目指した理想の日本とは何だったのか。あの日の900番教室には対等に語り合える自由な空気があった、その確かな証がこの映画には刻まれている。

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後に伝説となるほど三島と鋭い激論を闘わせた芥正彦(左)は当時、寺山修司と『地下演劇』誌を発行し、大学除籍後から現在まで演劇陣として活躍する© 2020 映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」製作委員会

『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』予告編。

新作映画
『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』
●監督/豊島圭介
●出演/三島由紀夫、芥正彦、木村修ほか
●2020年、日本映画
●108分
●配給/ギャガ
●3/20(金・祝)より、TOHOシネマズ シャンテほかにて公開
https://gaga.ne.jp/mishimatodai
 

※映画館の営業状況は、各館発信の情報をご確認ください。

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併せて観たい作品①:『ようこそ、革命シネマへ』(2019年)

スーダンに映画文化を取り戻すために、4人の賢人が大奮闘。

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スハイブ・ガスメルバリ監督は70代を迎える4人の先人の反骨精神に喚起され、このドキュメンタリーを撮ることを決意したという。

政治が優先される局面において、個人の表現が制限される事態は過去に何度も繰り返される。『ようこそ、革命シネマへ』の舞台はアフリカ、スーダン。1989年の軍事クーデターを契機に以後30年、政府の介入で映画産業が壊滅的となったこの国に再び、映画館をよみがえらせようとする4人の老フィルムメイカーたちの奮闘記だ。

このイブラヒム、スレイマン、エルタイブ、マナルおじいたちのやり取りがべらぼうにいい。ロシアやエジプトの国立の映画学校で学んだ知識人なのに偉ぶったところは全然なくいつもフフフと笑っている。過去に拘束されたエピソードも他人事のように大笑いしながら語る。いわばスーダンにおける四賢人。iPhoneで子どもみたいに嬉々として映画を撮り始め、廃墟となっていた映画館を探検し、昔の貴重なフィルムを発見し、こっそり夜に近所の人向けにチャップリンの上映会を開き、また笑う。彼らが目指すのは自由に見たい作品をプログラムできる常設の映画館。絶望的な状況に流されないメンタルと、気長に“その時”を待つ粘り強さにとにかく勇気をもらえる!

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4人が上映を目指すのはクエンティン・タランティーノの作品。さて、どの作品を選んだかは劇場で確認を!

『ようこそ、革命シネマへ』予告編。

新作映画
『ようこそ、革命シネマへ』
●監督/スハイブ・ガスメルバリ
●出演/イブラヒム・シャダッド、エルタイブ・マフディ、スレイマン・イブラヒムほか
●原題/Talking about Trees
●2019年、フランス・スーダン・ドイツ・チャド・カタール映画
●97分
●配給/アニモプロデュース
●4/4(土)より、ユーロスペースほかにて公開
http://animoproduce.co.jp/yokosokakumei
 

© AGAT Films & Cie – Sudanese Film Group - MADE IN GERMANY Filmproduktion - GOÏ-GOÏ Productions - Vidéo de Poche – Doha Film Institute - 2019

※映画館の営業状況は、各館発信の情報をご確認ください。

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併せて観たい作品②:『ミリキタニの猫』(2006年)

日系アメリカ人画家と映像作家の、尊い交流の記録。

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カリフォルニア生まれの日系2世のミリキタニは第二次世界大戦中に日系人強制収容所に送られたことから市民権を捨て、反骨の人生を歩んだ。photo by Hiroko Masuike

2001年9月11日、世界貿易センターに2機の飛行機が衝突し、ニューヨークの街は大混乱に陥った。後に世界同時多発テロと名付けられるその事件の日、映像業界で働くリンダ・ハッテンドーフはソーホーのアパートに以前から交流を重ねていたホームレスの老人を招き入れた。その年の1月、彼の描いた猫の絵に惹かれたリンダは購入を持ちかけたところ、あげるから、記録として猫の絵と自分を写真に撮ってほしいと依頼される。スチールカメラを持たない彼女は、ビデオカメラでこの80歳の日系人画家、ジミー・ミリキタニを撮影するようになった。そして9・11を境に、ふたりは5カ月、共同生活を送ることに。リンダはジミーの描いた絵を通して、日系人の苦悩の歴史を知ることになる。

第二次世界大戦中にアメリカ政府が採った日系人の隔離政策、広島の原爆で故郷の親戚を失った過去、このふたつの出来事により、アメリカへの不信を募らせていた老人の会話から過去の痛みを聞き出し、やがてはジミーの社会保障を画策し、いないと思っていた親戚までをも見つけるリンダ。彼女のアパートがジミーの避難所となることで、ジミーのアーティストとしての人生も輝きだし、その軌跡がすべて尊い。私たちもリンダのようなアサイラムを作れるか、ふたりの飄々としたやり取りから学ぶ一作。

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2016年には『ミリキタニの猫』のプロデューサー、マサ・ヨシカワによる短編ドキュメンタリー『ミリキタニの記憶(21分)も製作され、2本の作品はいまも全国で上映されている。© Jimmy Tsutomu Mirikitani

準新作映画
『ミリキタニの猫』
●製作・監督・撮影・出演/リンダ・ハッテンドーフ
●出演/ジミー・ツトム・ミリキタニほか
●原題/The Cats of Mirikitani
●2006年、アメリカ映画
●74分
●配給/湖畔八丁目
●現在、『ミリキタニの猫』と短編『ミリキタニの記憶』(2016年)の2本立てを『ミリキタニの猫《特別篇》』(計95分)として公開中
http://nekonomirikitani.com/

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またこの春、ジミー・ミリキタニの生誕100年を記念して、特別展が開催予定。

『ミリキタニ100
New York "猫"の路上画家ジミー・ミリキタニ生誕100年記念展』

会期:4/28(火)~5/14(木)
会場:こくみん共済 Coop ホール(全労済ホール)/スペース・ゼロ
東京都渋谷区代々木2-12-10 こくみん共済 coop 会館(全労済ホール)
開)11時~19時30分(5/14は15時30分閉館)
会期中無休
入場無料

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texte : YUKA KIMBARA

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