Things to Do! 2020 書物を愉しむことを教えてくれる、6冊の本。

Culture 2020.03.27

デジタルで「情報」を知るだけでは得られない悦びをくれる、言葉から装丁まで美しい本といまこそ出合いたい。最果タヒと松田青子が薦める、書物を愉しむことを教えてくれた6冊。

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〉〉松田青子さんおすすめの3冊

#01. 『Bitten by Witch Fever』

イギリスでヴィクトリア朝時代の教会を自宅に改装したご夫婦の家に招かれた際に、当時のまま残っているウィリアム・モリスの壁紙を見せてもらった。この壁紙にはかつて毒性があったけど、いまはもう大丈夫と言われて興味を持ち、その時代の壁紙のパターン集であるこの本を発見。当時の状況の詳しい注釈付き。美しい壁紙の数々にただただ見惚れてしまうけど、危険と知らずにヒ素の使われた壁紙の家に住んでいた人々のことを思うと……。

●ルシンダ・ホークスリー著 テームズ・アンド・ハドソン刊 29.95ユーロ ※1ユーロ=約119円(2020年3月現在)

#02. 『ずっとお城で暮らしてる』

シャーリイ・ジャクスンは、学生時代に英米文学の授業で『くじ』を読み、あまりの結末に衝撃を受けて以来、永遠の愛を捧げている作家だ。『ずっとお城で暮らしてる』は家族が殺されたお屋敷で暮らし続ける姉妹をめぐる物語。タイトルからして完璧でうなってしまう。創元推理文庫から出ているジャクスンの作品はすべて合田ノブヨさんの幻想的なコラージュ作品が表紙に使われているので、あなたは絶対に揃えたくなる(呪文)。

●シャーリイ・ジャクスン著 市田泉訳 合田ノブヨ装画 東京創元社刊 ¥726

#03. 『本にまつわる世界のことば』

世界の「本」にまつわる言葉を集め、作家と翻訳家がその言葉から想起した短編やエッセイを執筆した楽しい一冊。私もアラビア語で詩をつくることを意味する「ナズム」や日本語の「ななめ読み」などを担当している。全ページを自由自在に跳ねまわる長崎訓子さんのイラストにとても贅沢な気分になる。言葉から新たな世界が広がっていく喜びにあふれていて、これまで読んだことのない言語の物語に触れるきっかけが生まれるはず。

●温又柔、斎藤真理子、中村菜穂、藤井光、藤野可織、松田青子、宮下遼著 長崎訓子イラスト 近藤聡=造本 創元社刊 ¥1,760

松田青子
作家、翻訳家。1979年生まれ。著書に小説『スタッキング可能』『英子の森』。訳書にアメリア・グレイ著『AM/PM』、ジャッキー・フレミング著『問題だらけの女性たち』(すべて河出書房新社刊)など。

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〉〉最果タヒさんおすすめの3冊

#04. 『あいうえおの本』

教える、という行為の美しさがそのまま本になったような、そんな書籍です。左側にひらがなが一文字、そして右側にその文字から始まる言葉の絵がひとつ描かれている。どのページも飾っておきたくなるほど、繊細に研ぎ澄ますように描かれていて、教えようとする人の繊細さがそのまま現れたようだと思う。ただ、瞳に映るその瞬間を想像し続けながら描かれたように見えるその絵は、けれど何も強制しない。どう見ようと自由と告げる。

●安野光雅著 福音館書店刊 ¥1,650

#05. 『人間人形時代』

本の美しさというのは、読んでいるとき、それこそが宇宙の中心ではないかと錯覚する瞬間宿るものだ。回転する渦の端っこで、必死に息継ぎをして、渦の意味さえわからずにいた私が、本を手にすることで、すぐそばで、唯一、静けさを宿す軸を、見つめることができる。けれどそれは何かを知ることでも、悟ることでもなく、自分が息をのむ音が聞こえる、というだけだ。人間人形時代。決して自分のものにはならない美しさを宿した一冊です。

●稲垣足穂著 杉浦康平、中垣信夫、海保透=造本 工作舎刊 ¥2,420

#06. 『14歳』

私が装丁というものを強く意識したきっかけの本だ。『14歳』の背には、作品内に登場する言葉が、予言のように掲げられています。そう、予言。本屋さんでこの本が並ぶとき、本棚にさしておくとき。本が読まれないとき、そこにある作品は常に世界の「予言」として存在している。そのことを思い出させるデザインです。「予言」として美しさは、ページを開くことで、『14歳』という作品によって成立する。完璧な存在の仕方だと思います。

●楳図かずお著 小学館刊 ¥2,934

最果タヒ
詩人。1986年生まれ。2008年、『グッドモーニング』で中原中也賞を受賞。15年、『死んでしまう系のぼくらに』で現代詩花椿賞を受賞。近年のエッセイ集に『きみの言い訳は最高の芸術』(河出書房新社刊)、詩集『恋人たちはせーので光る』(リトルモア刊)など。
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Things to Do! 2020
世界はしてみたいコトであふれている。

いよいよ2020年。新しい年にやってみたいこと、目を向けてみたいことがたくさんある。トレンドがガラリと変わるファッションとメイク、新しい旅先や
おいしいレストランの発掘、部屋の模様替え、これから出合う本や映画……2020年という年を楽しみながら、好奇心のままに、まだ見ぬ世界への冒険へと繰り出そう。

 

『フィガロジャポン』2020年3月号より抜粋
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