豪華キャストで贈る、ジャームッシュ監督のゾンビ映画。

Culture 2020.04.02

ゾンビは生者と顔なじみ? 生と死の奇妙な親近感。

『デッド・ドント・ダイ』

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アメリカの田舎町の墓から死者が……。ゾンビも生者と縁続きというジャームッシュ流コメディ。愛しい日常空間がにわかに侵食される、哀切の無常観も。

ゾンビ映画なんて、という人は沢山いる。でも、ゾンビ映画が増えていて、それなりの位置を占めているのは気づいているはず。そうした人にこそ、この映画を。

ホラー映画定番の低く持続する電子音と、能天気なカントリーのメロディと。このふたつの音楽が映画『デッド・ドント・ダイ』の、いや、ゾンビそのものの両義的な性格を象徴しているのかも。

小さな町に突如あらわれたゾンビたち。何とかしようとするビル・マーレイと、アダム・ドライバー演じる警察官コンビ。ストーリーはシンプルといえばシンプル。いまの世紀では、ゾンビにイノセントな人物なんてありえない。何らかの知識があって、対処法も心得ている。それが妙におかしい。最後まで解けない人物なども含め、映画は、ゾンビって何? との問いを投げかけてくる。

ゾンビたちも、かつては名のある誰か、顔見知りだったり。それがべつのものに、「かつて誰々だったもの」になっている。咄嗟に顔をあわせると、あ、誰々だ! とおもってしまう。べつものなのに、生前から抱いていたもの、コーヒーだのチョコバーだのおもちゃだのWi-Fiだのへの執着は変わらない。本能的に人を襲うことはあるけど、他者には関心がない。こんなゾンビたちに、みている人たちは親しみをおぼえる——あるいは、おぼえない? なんか、ちょっと仏教的(そういえば、いかがわしい仏像もでてきたりする)?

「死者は死なない」と歌うスタージル・シンプソンの曲は、ある番組のテーマという設定。どんな番組かは明かされない。映画そのものがその番組だったりして?

文/小沼純一 音楽・文芸批評家/詩人

早稲田大学文学学術院教授。活動は芸術全般を包括する。近著に『音楽に自然を聴く』(平凡社新書)、『本を弾く:来るべき音楽のための読書ノート』(東京大学出版会刊)ほか。
『デッド・ドント・ダイ』
監督・脚本/ジム・ジャームッシュ
出演/ビル・マーレイ、アダム・ドライバー、ティルダ・スウィントン、クロエ・セヴィニーほか
2019年、スウェーデン・アメリカ映画 104分
配給/ロングライド
6月5日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開
https://longride.jp/the-dead-dont-die

*「フィガロジャポン」2020年5月号より抜粋

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