自宅待機中のカップル、愛を再発見?

Culture 2020.05.17

外出制限はカップルにとってふたりの関係を見直すいい機会だと、精神分析医たちは言う。日常生活にときめきを取り戻す秘訣とは?

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一緒に過ごす時間が、愛を取り戻すきっかけに? photo : iStock

フランスで外出制限が始まってすぐの頃、SNSのこんな投稿がたくさんの笑いを巻き起こした。「外出制限3日目。ちょっとその辺を散歩してきてと妻に言われた……罰金は私が払うから、と」。フランスで55日間続いた外出制限で、国家はどれだけ罰金を稼いだだろう? 生涯を誓ったパートーナーとの自宅隔離生活に不安を抱いていた人は多い。外出が許可された中国で離婚申請が急増、というニュースもすぐに伝わってきた。

「たとえ好きな人でも、一日中一緒に暮らしていると、それまで一度も直面したことのなかった問題や、普段は考えもしないような問題が生じるものです」と哲学者のファブリス・ミダルは言う。「カップルの関係を一から考え直す必要が出てきます。そのためにはまず、ひとりになれる自分だけの空間で、何も言わず黙って過ごす時間を作ることが大切です」

この点について、心理学者もライフコーチも哲学者も意見は一致している。一緒に自宅待機生活を送るカップルにとって、ひとりになれる空間を作って内面を見つめることはとても重要なのだ。家が狭い場合は、本やヘッドホンがそうした空間の代わりになる。

現代のカップルにとって、これはいままでなかった経験だ。「長い間、“伝統的な夫婦”は、社会生活も家族生活も外出も、何もかも一緒に行動するものでした」と精神科医で精神分析医のセルジュ・エフェズは語る。「現代では、自分が好きなスポーツをそれぞれに楽しむのは普通ですし、別々にヴァカンスを過ごすこともあります。一心同体というより、ふたりの個人が一緒に生活を営んでいるというほうが近い。ですから、まったく新しい形を作り出す必要があるのです」。

ここまでは理解できた。では一体、何を作り出せばいいのだろう?

インターネット上にはさまざまな解決策が並ぶ。そのひとつで、現在思いがけず活況を呈しているのが、既婚者専用の出会い系サイト兼アプリ「Gleeden(グリーデン)」。チャットやメールを通して、既婚者がバーチャルなアバンチュールを楽しめるサービスだ。既婚カップルが自宅から出られなくなれば、当然利用率は低下するとグリーデンは予測していた。ところが、外出制限とともにサイトの利用率は260%増を記録し、登録者数は170%増えた。

だが驚くには当たらない、とエフェズは言う。「性的幻想は隔離生活につきものです。付き合いが長く、ときにはセックスレスのカップルの場合、逃避したくなることもあります。こうしたバーチャルな関係を利用すれば、頭の中で自宅の外へ出ることができます。なかにはプレッシャーやストレスと闘うひとつの手段と捉えている人もいます」。隔離生活を送るカップルについての本格的な研究はないとしながらも、元人質の監禁中の体験が参考になるとエフェズは語る。「彼らの体験談や証言からは、夢想力や心地よい体験を想起することの重要性が浮かび上がってきます。それができれば、催眠にかかったように、癒し効果があるトランス状態に入ることができます」

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セラピー・バージョン2.0。

愛情の再発見ということでは、外出制限の初期からカップルたちは無数の解決策を編み出している。39歳のセレスト(仮名)は、結婚14年になる夫のトマと10歳と7歳の子どもと4人で隔離生活を送っている。「ここ3年、夫婦関係がぎくしゃくしています。家事の分担やお互いの仕事との折り合いを巡って対立しているのです」。比較的広めのアパルトマンとはいえ、監禁状態で口論はますますヒートアップ。トマは数百人もの顧客の要望にリモートワークで対応する銀行員で、一日中仕事にかかりきり。セレストは経営者としてイベント会社の運営を切り盛りしながら、子どもたちの「超過密な」自宅学習の面倒を見る。

「彼も仕事の電話の合間に子どもたちの宿題の手伝いをしてくれますが、学校の先生と連絡を取るのに10分もかかろうものなら、怒鳴り声を上げておしまい」。夫婦のいさかいは増える一方だ。セレストは一計を案じ、「友人たちに相談して、スカイプでカップルカウンセリングをしてくれる臨床心理士の電話番号を教えてもらいました」。電話してみようとしたことはあるが、これまでのところ、まだ実行には至っていない。

外出制限で家庭内暴力の問題も深刻化している。家庭内暴力の被害にあった女性や子どもを支援する機関「Women Safe」では、1日の相談件数が急増しているという。いっぽうで、連帯の声もこれまでになく多く寄せられている、と創立者のひとりであるフレデリック・マルツは話す。「私の元には、フランス各地から1日に何本も電話がかかってきます。みなさん広い家を所有している人たちで、暴力被害者の女性たちのために緊急宿泊所を提供したいという内容です。このようなことはこれまでは一度もありませんでした」

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考え方を変える。

なかには、自宅待機をきっかけに状況が好転したカップルもいる。ゾエもそのひとりで、自分でも変化に驚いているという。「付き合って20年、7歳と8歳の子どもがいます。1年前、夫がひどいうつ状態になり、夫婦仲もこじれていました。言葉もろくに交わさない、肉体的な触れ合いもない状態です。私にとっては仕事に行くのが逃げ道でした」。外出制限が発令され、彼女はパニックに襲われた。しかし最終的に取った振る舞いは、いままでになく賢明なものだった。

「緊急事態ですから、相手を非難しないことにしました。初めて本当の意味で謙虚になろうと決めたのです。以前は夫がずっと電話をしているとイライラしました。いまは、『それぞれ自分だけの空間と時間を持つ必要がある』と考えるようにしています。自宅待機で夫婦関係は悪化するどころか、むしろ落ち着いてきています」

想像力が解決策をもたらしてくれる場合もある。「10年前にラスベガスで出会ってすぐに結婚しました」と語るオロールは、65平米のパリのアパルトマンで夫とふたりの子どもと隔離生活を送っている。「自宅待機以来、山あり谷ありの毎日です。夫婦ともにフリーランスですが、コロナ騒ぎで仕事がなくなり、今後どう生活していったらいいか頭を抱えています。でもこういう時こそ、家族の結束が大切です。外出制限の発表を聞いて、アパルトマンを模様替え。各自が自分の仕事場や隠れ家を持てるようにしました」

やがて、娘のローズが8歳の誕生日を迎えた。オロールがアパルトマンの掲示板に娘の誕生日を知らせる張り紙をしたところ、毎晩19時にバルコニーで音楽を演奏している隣人が、ローズに捧げる曲を添えてくれ、数十人ものお隣さんが窓辺に出て「ハッピー・バースデー、ローズ!」と合唱してくれた。数日後には、オロールとリシャールの結婚記念日が待っている。「恋人気分で豪華ホテルに泊まる計画は取り止めましたが、とっておきのディナーでお祝いすることにしました。子どもたちはサービス係。蝶ネクタイを締めて、白いナプキンの代わりにキッチンペーパーを腕から下げて給仕してもらおうと思います。心配ごとの尽きない日々ですが、ふたりで支え合っています。子どもたちに不安な顔は見せられません。子どもたちは明らかに、人生でいちばん楽しいヴァカンスを過ごしているようです!」

証言を集めるなかで、型破りな関係を築いた人たちにも出会った。ガブリエルとエロディはセーヌ=サン=ドゥニの庭付き一軒家に住むカップルだ。隣りに所有するステュディオには3年前からエロエが住んでいる。「少しずつコミュニケーションを取るようになり、夕飯に招待したりするうちに、3人で付き合うようになりました。いまのところほぼ順調です。一日中一緒に過ごしていますから」

そこまで珍しくはないが、ソフィのような例もある。娘の父親である、5年前に別れた元夫から、娘と一緒に両親の家で外出制限期間を過ごすことにしたから、一緒に来ないかと連絡があったのだ。彼女は元夫の提案を受け入れた。うまく行っています――そう打ち明ける彼女も少し驚いている風だ。「いざこざもありますが、おもしろいこともあります。昨日は彼がジムのレッスンをしてくれました。夕飯が終わると夜はそれぞれ自分の部屋に戻ります。私はいまの彼に電話します。元夫には話していません。彼に恋人がいるかどうかは知りません。お互いそういうことは聞かないようにしています」

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前向きな姿勢。

こうした経験から、最後に何が残るのだろうか? ペリーヌとフロリアンの例がヒントを与えてくれるかもしれない。36歳と44歳のアーティストカップルは、2015年11月13日にパリで起きたテロで友人を数人失った。バスルーム以外に仕切りのない50平米のワンルームで隔離生活を送るふたりだが、新型コロナウイルスによる危機の影響でふたりとも仕事を続けられなくなり、子どもを作る計画もアパルトマン購入の話もストップしてしまった割に、明るい気持ちで過ごしている。ペリーヌはこう分析する。「テロの時に、警戒本能が鍛えられました。情報に依存しすぎない、複数の情報源にあたる、団結する、不安や悩みは打ち明け、安心させ合う、そして行動する。仕事でも、すでに“その後”を考えています。あの頃の試練で、私たちは柔道でいえば黒帯に昇級していたのでしょう。心構えができていたのです」

しかし心理学者のエフェズは、この深刻な危機を乗り越えた後、私たちの生活が根本的に変わるとは考えていない。「とはいえ、こうした経験は誰にとっても初めてのものですから、間違いなく心理的な影響はあるでしょう」とエフェズは付け加える。「この期間を不安な気持ちで過ごしたり、暴力を受けたりした人にはトラウマになるでしょうし、絆を強めながら愛情を持ってクリエイティブに過ごした人は、たとえまた月並みな生活に戻るとしても、自分のなかの能力を忘れないでしょう。それはとても大事なことです」

新しい愛の語らい。

『ニューヨーク・タイムズ』紙は、自宅待機生活中のカップル読者に向けて、アメリカ人心理学者アーサー・アーロンがかつて考案した有名なアンケートを紹介している。“36の質問にふたりで答えると(再び)恋に落ちる”、というもので、つまりお互いの夢や内面的な問題、世界観に関わるかなり深い内容の質問に答えながら意見を交わし合うことで、短い時間で親密な関係を築くというわけだ。要するに、互いに自分をさらけ出して距離を縮めることが大切なのだ。

心理学者のエフェズはさらにいくつかの基本的なルールを挙げる。「非難の言葉、指示や命令は避け(たとえば『そんなことしないでよ!』)、『疲れちゃった』『心配なの』といった、自分が感じていることだけを表現する」。いい時もあれば悪い時もある、そう割り切って、この機会にカップルを描いた小説を読むのもいいだろう。たとえば、ジェフリー・ユージェニデスの小説『マリッジ・プロット』や、レイチェル・カスクの『余波』、バルザックの『結婚の生理学』あたりがおすすめだ。

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texte : Sonia Desprez (madame.lefigaro.fr)

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