外出制限解除に戸惑い、憂鬱を感じるフランス人たち。

Culture 2020.05.26

外出制限が解除されても、ちっともすっきりできない。一変した外の世界に直面して動揺し、不安を覚え、未来を悲観する人たちがフランスにはいる。証言を集めた。

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外出制限中の生活が自分には合っていた、現実に戻るのが怖い、そう思う人たちもいる。photo : iStock

5月11日夕方、30歳のパリジェンヌ、マリオンはさっそく友人たちとアペリティフをする予定だった。55日間に及んだ外出制限生活の終了を祝う「本物の」アペロ。外出時に必携の証明書も、1日60分以内に制限された散歩も、身近な人たちに会えない生活ともこれでようやくお別れ。しかしマリオンはこの日は参加しないことにした。理由は? 気分が乗らないから。カメラマンアシスタントである彼女は、外出制限解除を盛大に祝う気になれなかったひとり。外出制限中の最後の数日間も、また自由にあちこち行けると考えて心躍ることもなかったし、当日もそれほど喜びは湧いてこなかった。ただ憂鬱な現実が戻ってきただけだ。

「以前ほど外に出ていません。外出制限中と同じように、毎日30分歩いています。少しずつ慣れていきたい」とマリオンは話す。フランスでは外出制限は事実上解除されたが、彼女の頭のなかではまだのようだ。

突然、現実に引き戻されて。

外出制限生活を満喫した人ほど、急に現実に引き戻されて、ブルーな気分になるようだ。行動の自由が制限され、日常生活のさまざまな混乱に対応しなればならなかったこの期間に、生活環境を変えた都市生活者も少なくない。3月16日、31歳のイネスはノルマンディーで隔離生活を送るためにパリ9区の住まいを後にした。それからは海まで徒歩2分、150平方メートルの庭付き一軒家で、鳥のさえずりを聞きながら2カ月間過ごしたという。都市で暮らす人たちにとってはまさに夢物語だ。「幸せでした。食べ物は美味しいし、夜もよく眠れました。もともと向こうのリズムは気に入っていましたが、ヴァカンスの間だけでなく、これが自分にとって快適な生活スタイルなのだとつくづく思いました」

パリに戻ると、冷水を浴びたような気分になった。「公共交通機関を避けてレンタル自転車で移動しようとしても、4台試したけれどまともに乗れるものは1台もない。車のクラクションはうるさいし、街には貧困があふれている。都市は暴力的で、私には合わないと気づきました。私が都市に合わせないといけないのだと」

目まぐるしい日常のなかで自宅隔離が息抜きになり、ひと息つくことができたという人もいる。ストラスブールでジャーナリズムを学ぶ27歳の学生のアンナは、この2カ月間「ほっとした」気分だったという。「もう誰からも何も期待されないで済む、って。学校の課題、研修先探し、運転免許の試験、あらゆる義務から解放されてすっきりしました」とアンナは打ち明ける。マクロン大統領の演説で5月11日の外出制限解除が発表されると、彼女はストレスに襲われ、夜も眠れなくなった。「ベッドでつまらないドラマを延々と見て、余計なことを考えないようにしていました。ラジオを聴く気にもなれませんでした。“外出制限解除”という言葉を聞くだけで、胃に重いしこりができたように感じました」

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ノスタルジーとこみ上げる悲しみ。

自宅隔離生活を快適に過ごした人たちは、外出制限解除にヴァカンスの終わりや友人との別れに近い感覚を味わっている。「ノスタルジーを感じます」と前述のマリオンは打ち明ける。「自宅隔離の間は、みんな一緒に同じ船に乗っているような感じでした。頻繁に電話を掛け合うようになった友人や家族とも、近所の住人とも、みんながひとつの大きな流れに乗っているように感じました。いまは、みんな離れ離れになって、前よりもっとコミュニケーションが難しくなってしまう気がします。昨日も夜8時に医療従事者への拍手を聞いていたら、涙があふれてきました。日に日に拍手が小さくなっているのです」

外出制限が実施されてから部分的失業者となったイネスは、仕事に復帰することが想像できないという。「“パーティはおしまい。明日からまた9時30分に出社して、8時間デスクに座っているように”と言われる日が来るのは怖い気がします」

こうした発言は社会的に不適切ではある。自宅隔離生活がよかったなんて? 55日間、常に自由を制限され、ひとりきりで狭い生活空間に閉じ込められていた人だっている。そんな生活が終わったのに文句を言うなんてありえない。「外出制限が解除され、自由が戻ってきたことを喜ばないといけない雰囲気がある」とアンナは言う。「でも私にはその喜びが感じられない! 1日1時間、日光を浴び、買い物をするために外に出る、そういう生活が私には合っていたのです」

ギスギスした外の世界。

周囲に警戒の眼差しを向ける人々、マスクをした人々。手袋を着けて、もしくはティッシュで指を覆って入り口のドアコードを押す人……。 どう喜べばいいのだろう? 外出制限が解除されたからといって2カ月前の世界に戻れるわけではないのに。外に出ても寛げるわけではないのに。前より条件の悪い契約書にサインをさせられたようなものなのに。「いちいちアルコールジェルで消毒する、マスクをする、公共交通機関を使うのが心配な時は、代わりの移動手段を見つけないといけない……すべてがストレス。煩わしいことだらけです」とイネスは嘆く。

「数日前、視能訓練士の診察を受けに行ったのですが、マスクのせいで訓練士の言っていることが何もわかりませんでした。彼女が自分の担当訓練士かどうかも見分けがつかない。眼の前にいるのが誰なのかさえよくわかりませんでした」と語るのは40歳のジュリアンだ。「職場に復帰しても、エレベーターには3人まで、床のマーキングに従って歩く、デスクはひとつずつ離して配置、そんな状況が待っていると思うと憂鬱です」

新型コロナウイルスが消滅していない以上、いまの方が自宅隔離期間よりも落ち着かないという人もいる。どんな行動も身振りも軽々しくするわけにはいかない。あらゆる決断が重大な結果につながる可能性がある。友達みんなと再会するのか、それともリスクを減らすために行き来を制限するべきか? マスクをするかしないか? 自分が他人の命を危険にさらす可能性があるから自宅隔離を強いられたのに、どうやっていまさら心も体も軽やかに外に出られるだろう? 再び野に放たれても、肩に負わされたこの重荷はどうしたらいいのか?

「乱暴だと思います」とジュリアンは言う。「自分が人に感染させるかもしれないし、自分自身が感染するリスクもあるから外に出てはいけないと言っていたのに、経済が壊滅状態となると今度は、“全員外へ出なさい、ヴァカンスへ行きなさい”。こう振り回されると、気持ちも落ち着きません」

受け入れ難い新しい日常に直面して、自宅隔離を続けた方がいいと考える人もいる。「外出制限解除は場当たり的だった気がします。証明書を持たずに外出できるようになりましたが、それ以外に何が変わったのでしょうか? 先週と何が違うのでしょう?」と24歳の編集者のエマは問う。「私の頭のなかでは何も変わっていません。また人が外に出るようになったので、余計に不安です。軽率な行動がますます増えるのではないでしょうか? また医療機関がパンクしてしまわないか心配です」

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外出制限解除と幻滅。

感染を危惧するいっぽうで、彼らは外出制限解除後の人々の行動を目の当たりにして、厭世的な気分にもなっている。変化への強い意志を抱いてノルマンディーからパリに戻ったイネスは、コロナ禍を経験して市民の自覚も高まったに違いないと確信していた。ところが外出制限が解除されるや、衣料品店の前には行列ができ、サンマルタン運河やサクレ・クール寺院前の階段に集まった人々が警官に退去させられる光景が。楽観的な気持ちが一気に吹き飛んだ。「たった1日でこれまでの消費行動に戻ってしまった。前とまったく同じ日常がまた始まる。人はいいことしか覚えていません。人類に失望した気分です」

エマも同じ気持ちだ。「外出制限解除の目的は、フランス国民が仕事を再開することであって、以前の習慣に戻ることではないはず。友人たちが前のようにまたアペロをしているのを見ると、部分的解除という考えがあってもよかったのでは、と思ってしまいます」

未来が不確実で、これからどうすべきかが見えてこないと、不安や心配は募っていく。「これからのことを考える時、この先の政治はどうなるのか、次回の選挙で国民は誰に投票するのか、どんな社会がやって来るのか、次々に疑問が湧いてくる」とジュリアンは言う。

世界を変える前に、まず自分の世界を変えると決心したマリオンは、自宅待機中に定着した習慣をこれからも続けるつもりだ。「裁縫をしたり、片付けをしたり、家の中のずっと手をつけていなかった部分を整理して、自由な気持ちになりました。毎日創意工夫をして楽しかった」とマリオンは満足そうに話す。「自分を幸せにしてくれるこうした習慣を手放してしまってはいけないと思っています」

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texte : Ophélie Ostermann (madame.lefigaro.fr)

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