地名を手がかりに土地の物語を辿る、旅エッセイ。
Culture 2020.05.23
日本の地名に刻まれた物語を紐解く。
『風と双眼鏡、膝掛け毛布』
梨木香歩著 筑摩書房刊 ¥1,650
地名を手がかりにその土地の記憶を紐解くように旅をする。なぜその名前になったのか。伝え聞くいわれと目の前に広がる景色の答え合わせをするような足取りに、引き込まれる。姥捨、花市場、無音……日本にはそれ自体が物語を秘めているような地名が、こんなにもあるのかと驚く。著者の小説がそうであるように、それは昔といま、現実と虚構の境界線を、失われようとするものを求めて越えていく試みだと気づかされる。静謐な文体も魅力的な紀行エッセイ。
*「フィガロジャポン」2020年6月号より抜粋
realisation : HARUMI TAKI