河瀨直美×深田晃司対談 映画祭の未来に向けて。[後編]

特集

前編では、コロナ禍によって失われた2020年カンヌ国際映画祭や、映画祭開催地域とのタッグの組み方について語られた河瀨直美監督と深田晃司監督。後編では、映画祭がもたらす映画作家たちへの影響と映画ファンのエネルギーについて対談は進む――。

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――映画祭に出品することによる、海外でのセールス効果を実感しますか?

河瀨 そうですね。どの映画祭に出していくかで、どのように情報が広まって、どの地域に配給権が売れるか、などはいろんなパターンがある。私のセールスカンパニーはフランスなのですが、北米にも情報を出すためにもサン・セバスティアン(スペイン)だけでなく、トロントでも上映するというのは、彼らから見ると秋口の映画祭の入口としてベストとという判断があります。アジアでいえば、上海国際映画祭ではオンラインでマスタークラスをしましたが、釜山にも参加すると思います。今年の映画祭は開催されるにしても、リアルでの開催が縮小し、ほとんどがオンラインとのハイブリッドだから、何か特徴を出していかなければならない。釜山は、「女性監督のトップ10」的な企画があるらしいのですが、その中に『萌の朱雀』が入ったから来場してほしいと要請を受けています。それに合わせて新作の『朝が来る』も上映したい、と私は思っています。各国の映画祭は、独自企画のパートで特徴を出しながら、監督や作品を手放さないように工夫しているのではないでしょうか。

映画祭での評価が創り手たちに授けてくれること。

深田 カンヌが作家性を打ち出すのにこだわっているのは顕著な例ですが、たとえば釜山国際映画祭では企画マーケットがあって来年撮影予定の『ラブ・ライフ』という企画は、そこで資金集めをしていく予定です。少なくとも、今年カンヌのセレクションに選ばれた今回の状況が、少なからずいい影響があると思う。カンヌが作家性にこだわって後押しをしてくれているからこそ、その作家が次の作品、次の次の作品を作るために、映画祭での実績が大きな影響を及ぼす。

河瀨 『殯の森』がカンヌでグラプリを受賞しているのですが、同じ年に最高賞であるパルムドールを受賞したのが『4ヶ月、3週と2日』を撮ったルーマニアのクリスティアン・ムンジウ監督。彼もルーマニアで映画祭を運営していて、ティエリー・フレモーと連携してカンヌの作品を首都ブカレストに呼んでいるのですが、長い間、河瀨直美特集をやりたいと言ってくれているんです。監督でありながら、自分のライフワークとして自国や街に、映画の「現在」を広める役割を果たそうとしている。私の世代は、そういう映画産業への貢献をする動きもありますね。

深田 映画監督だから映画を作っていればいいというだけじゃなくて、映画が作りやすい環境づくりに関わっていくことも監督としての大事な仕事じゃないか、と思います。昨年、台北映画祭に呼んでもらった時、アテンドしてくれたのが日本語が少し話せる台湾芸術大学3年生の女性だった。彼女に、台湾の映画製作助成金や労働法についてなど私はいろいろ質問したのですが、学生という立場であっても彼女はすべて答えることができた。学校で教わったんだそうです。考えてみれば、日本で映画学校に通っている20歳そこそこの学生にそんな質問をしたらまず答えられない。私も学生時代に教えてもらった記憶もないし。スタートラインですでに違うと感じました。

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映画好きな観客のエネルギーを舐めてた?

河瀨 環境ということでいえば、4月、コロナ禍で、深田くんがミニシアター・エイド基金(※)を立ち上げて、映画に関わる人たちをまとめて成果を上げた。奈良の大仏について、こういう話があるんです。大昔、天然痘が流行った時に、聖武天皇が全国に勅を出して、みんな一握りの砂と枝を持ち寄って大仏を作ろうと呼びかけた。聖武天皇は、自分の政治が悪いからこんな世の中になってしまったんだろう、だからみんなの力が必要だ、と。いまでいうクラウドファンディング的な考え方で、資材を国中から集めた。ひとえに時の権力者が作ったものは、次の権力者が現れた時に潰される運命にある。でも、奈良の大仏はそのような過程で作られたものだから、1000年経っても残っているんじゃないか、と私は思っているんです。きっと深田くんたちがやったことは、それと同じ精神なんだろうな、素晴らしいな、と思って見てたんです。
※ミニシアター・エイド基金は、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令され、政府からの外出自粛要請が続く中、閉館の危機にさらされている全国の小規模映画館「ミニシアター」を守るため、映画監督の深田晃司・濱口竜介が発起人となって有志で立ち上げたプロジェクト。

深田 ありがとうございます。キックオフの時、河瀨さんから真っ先にコメントいただきまして、大きな弾みになりました。

河瀨 2日間で1億円集まったんだっけ?

深田 2日半ですね。3日間かからずに1億円達成しました。

河瀨 それって予想してました?

深田 いやいや、全然していなかったですね。MOTION GALLERYというところのクラウドファンディングを使ったんですけど、そこでの過去のクラウドファンディングの最高額が7千万円だった。7千万では全国の映画館の館数を考えると少なすぎるので、長い時間かかってもいいと、目標金額を1億円に決めた。でも、結果は私たちが考えていた以上の支援をいただけた。映画ファンを舐めていたな、申し訳なかった、と。

河瀨 夜中に深田さんがコメントくださいってかなり興奮して、事務所に電話くれましたよね。

深田 ええ、1億円を超えたからリリースを出さないといけないのだけれど、あまりに早く目標金額が達成されてしまって、準備が間に合っていなかった。翌朝にはリリースを出そうと、夜に電話してました。

河瀨 結局、3億円集まったんだっけ。すごいね。

深田 3億3千万円ですね。100館以上の映画館に、それぞれ250万円〜300万円くらい渡りました。

河瀨 確かに、映画ファンを舐めていたな、というのはありましたね。金額で評価するわけじゃないけれど、これだけミニシアターをなくしちゃダメだと思っている人たちが多くいた。深田くんや濱口(竜介)君の訴えが、人々にとって他人ごとではなく、“自分ごと”だったんだと思う。それが真っ当なことだったと思うから。あれだけの支援があったんだろうなと思う。

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深田 でも、これは4月半ばからの緊急事態宣言で休業になった小規模の映画館を守るために立ち上げたプロジェクトですが、5月末の緊急事態宣言解除後も座席制限があり、客席を半分しか使えない。このまま対策しないと1年後には、潰れる映画館も出てきてしまう。そんな恐怖感がありますね。
※対談が行われたのは2020年7月末。2020年9月19日より映画館は全席使用可能になった。

河瀨 Netflixの売り上げがコロナ禍で何倍にもなったと聞きますけど、いっぽうミニシアターが1年後にはまたやばい。何か方法を考えていかなきゃいけないんだと思います。私も自分の中で考察しているけれど、スクリーンでの映画体験にまさるものは、やっぱりないと思う。映画は匂いはないけれど、同じ空間での共有体験というのは匂いがあるような感じがする。そこが配信で観るのと映画館で観るのとでは明らかに違うと思う。

深田 ミニシアターへの援助の動きが高まったのは、3月になって映画館を取り上げられた映画ファンが、映画館に行きたいと強く思ったから。でも、単純にシネコンがビッグシアターで、小さい映画館がミニシアターというサイズの問題ではなくて、そこで果たしている役割が違う。たとえば、ワン・ビン監督の9時間のドキュメンタリー映画なんて、シネコンじゃ絶対にかからない。たぶんコロナ禍で、ミニシアターが背負っていた役割に気がついた人も多いんじゃないかなと思う。なのでコロナ禍のあるなし関係なく、ミニシアターや映画祭を支援するような流れのほうに行けるといいなと思いますね。ミニシアターの危機は、時代によって淘汰されるというよりは、資本主義によって淘汰されてしまうかもしれないということ。河瀨さんがすごいなと思うのは、なら国際映画祭という取り組み。金儲けのことを考えたらできない。でも、奈良はあれだけ歴史ある県だけれど、映画館がないんですよね。

河瀨 ないんです。

なら国際映画祭で発信していくこと。

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「なら国際映画祭」オンライン記者会見時。エグゼクティブディレクターを務める河瀨直美監督(左)と、中野聖子映画祭理事長(右)。

深田 そんな中、映画祭が開催されることで、奈良でしか観られない映画があるというのはいい。それこそ、映画祭が担っている役割ですよね。

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河瀨 実は、先日、なら国際映画祭のプレイベントとして、尾花座復活上映会をしたんです。ホテル・サンルートという――深田君が来てくれた時泊まったかな——メイン会場のあるホテルなんですが、コロナ禍中にホテル尾花という名前に変わった。もともと尾花劇場という奈良の映画館だった場所で、その前は芝居小屋だった。『カツベン!』という周防(正行)監督の映画があるでしょう。周防さんが現地に取材に来て参考にしてくれた場所で、その社長が、なら国際映画祭の理事長です。その中野聖子理事長が、尾花という名前に戻して、地域に根ざしたホテルにした。リニューアルしたその広間を、ミニシアターのように「尾花座」として、『カツベン!』を上映したんです。普段だったら70名くらい入れるところを30人の席。チケットはインターネット予約制で、名前も明記してもらい、必ずマスクもしてもらうというコロナ対策をして。ほぼチケットは完売しました。上映の際には、永瀬(正敏)さんがZoomで登場してくれて、お客さんと対話してくれました。ほかは『人生フルーツ』など、奈良の人たちにも観てもらいやすい映画を上映した。
HIKARI監督の『37seconds』は奈良では宣伝してなかったから、最初はチケットも売れてなかった。でも、出演していた女優の渡辺真起子さんらがZoomで登場してくれるとなると、売れ始めて最後には完売。噂が噂を呼んで素晴らしい映画だということが広まった。主人公を演じた障害を持つ女性・佳山明さんやアメリカに住んでいるHIKARI監督もZoomで参加してくれた。普通、HIKARI監督を呼ぼうと思ったら、飛行機代や宿泊代がかかるけれど、Zoomで監督と観客が直接対話できる。なら国際映画祭も、開催される頃には状況が変わっているかもしれないですが、ハイブリッドで開催すれば来てもらえる人の数は減っても、世界中の人たちが集える。

深田 ワクチンがどうなるのかもまだわかっていないので、迂闊なことは言えないのですが、コロナ禍の中で映画を作ろうとすると、通常よりも対策面など製作費がかさむのは間違いない。そうなってくるとアート映画はいま以上に、足場を固めないといけない。映画祭の役割はいま以上に重要になってくるのではないかと思います。いままでやってきたように、アート映画に対して映画祭が評価を与えていくことは重要になっているのではないかと思います。

河瀨 映画を作るのも人ですが、人と人との関係を創出できる場として映画祭は大事。何かを頼まれても、まったく知らない人からオファーされるのと、一度でも会ったことのある人とでは、信頼度が違う。コロナ後、配信はどんどん進むと思うし、オンラインでのトークなども定着するかもしれないけれど、直に人と人とが繫がることで広がることは、確実にあります。

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深田 第二次世界大戦以来初めて、これだけ同時多発的に世界中の国がひとつの災禍に遭ってしまった。コロナ後は、第二次世界大戦後のようだと思う。観る人も作る人もその記憶を引きずっているわけで、それは作品に反映されていくのだろうなと思います。そのいっぽうで、これからコロナ大喜利みたいに、世界中でどうやってコロナを描くかという競争が始まるかと思うと、それは憂鬱ですね……コロナにちなんだものも増えるだろうし。どうやってそこに入っていくのか、あるいは距離を置くのか、考えているんですけど。現場については、どんな現場でもどうやって安全を守っていくのか、ということは、時代によって変わっていくわけで、徹夜撮影をやめようとか、時代に沿って変わっていく。そこに新たなフィルターが加わったくらいに考えるようにしています。描くべきことは、そんなに変わらないと思っています。キスシーンにしても、絶対にできないわけじゃなく、俳優たちに同意をとりながら行うというのならできる。性的なシーンについては、コロナ禍以前でも同意が必要だったわけだし、そこにさらにフィルターが加わるようになるだけですからね。

河瀨 外出自粛中、Netflixの韓国ドラマ「愛の不時着」を観ていたんです。あれが全世界に配信された。みんな、ヒョンビンとソン・イェジンは出会ってほしいと思うんですよ。どれだけの人が、この分断をなくしたほうがいいと思ったことか。それが物語の力。配信によって、世界中の人々が、一度に、同じ物語に共感する。そう思うと、国ごとに配給している映画のスピード感とは違い、一瞬にして同じ感覚をもたらす何かに、人は傾いていくのかもしれないと思う。でも、いっぽうで人間は生身でも感じたい。その感覚がないと、配信も楽しめない。人がリアルな感触を求めることは、ずっと変わらないと思います。

映画の未来対談、前編はこちら! 

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texte : ATSUKO TATSUTA

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