ジュリエット・グレコ、ミューズ、歌手、恋多き自由な女性。

Culture 2020.10.07

サン=ジェルマン=デ=プレはもうこれっきり。歌手のジュリエット・グレコが9月23日、南仏ラマチュエルで93歳の生涯を閉じた。シャンソンの伝説、政治参加するアーティスト、実存主義のミューズ、恋多き女性。自分を貫き、エレガントに時代を生き抜きながら、必要とあらばその鋭い知性を武器に時代を一刀両断に斬って見せた。

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ロンドンのグローブ座でリハーサル中のジュリエット・グレコ。(1965年11月22日)photo : Getty Images

ネフェルティティの目とクレオパトラのヘアスタイルをもった彼女は、シャンソンの女王と呼ぶにふさわしい風貌の女性だった。やはりブルネットだったバルバラと女王の座を競い合ったジュリエット・グレコ。93歳。日曜日が嫌いだった彼女らしく、水曜日にラマチュエルから、詩人たちの待つ天国へと旅立った。ブレル、ブラッサンス、フェレ、べアール、ゲンズブール、アズナブール、クノー、プレヴェール、ヴィアン……彼女のために詩を書き、彼女が親しく付き合った詩人たちを数え上げればきりがない。生涯を通して、フランスのシャンソンのアンバサダーとして活躍したグレコの言葉はあくまでも控えめだ。「私が舞台に立つのは奉仕するため。私は歌うだけですから」。確かに。ただし素晴らしい歌い手だった。

比類のない歌い手だった。歌手といえば、まずは声。彼女の声は、体温を感じる、温かみのある、熱のこもった、深く、低く、官能的で、肉感的で、物憂げな、ときに愉快な、精神的な……無数の魅力を秘めた声だった。扇情的な『脱がせてちょうだい』、いたずらっぽい『小さな魚と小さな鳥』。デビュー曲の『ブラン・マントー通り』に詩を提供したのはジャン=ポール・サルトルだ。グレコがサン=ジェルマン=デ=プレの女神と呼ばれ、カフェ・ド・フロールに足繁く通っていた頃だ。2008年にはラッパーのアブダル・マリクとのデュオ『ロミオとジュリエット』を発表し、ともにアルバムも録音した。70年にわたる長いキャリアで、グレコは常に現代的な音を求め続けた。

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「私は私」

恋多き女性だった。恋は彼女にとって人生をかけた大事業だった。生涯、自由な女性として生きたグレコ。伴侶とした男性は3人いる。俳優のフィリップ・ルメールとは、ひとり娘のローランスをもうけた。1970年代の伴侶であるミシェル・ピコリとは、政治活動に積極的なスターカップルとして注目された。ブレルの伴奏ピアニストとして知られるジェラール・ジュアネストは、グレコの音楽人生のパートナーでもある。また、映画プロデューサーのダリル・F・ザナック、ジャズミュージシャンのマイルス・デイヴィスとも浮名を流した。こうした奔放さが当時は世間のひんしゅくをかった。何者にも迎合しない彼女は世間の評判など構わず、プレヴェールの『私は私』を歌う。彼女はそういう人なのだ。やましいことは何もない。飽きたら去る、ただそれだけだ。

一流の演技者でもあった。女優としても活躍した彼女は、歌を通して名声を確立した。舞台こそが、彼女にふさわしい場所だった。黒い瞳、真っ赤な唇、白い肌、黒のドレス、彼女のスタイルはいたってミニマル。エレガントな佇まい、無駄な動きはなく、ダンスをしているようなジェスチャー。舞台の奥からは、ピアニストのジュアネストが守護天使のようにいつも彼女を見守っていた。グレコはジュアネストとともに、何度となく世界ツアーを行った。日本へ行っても、世界のどこへ行っても、グレコは大スターだ。彼女はフランスの優れた文化と魅力を世界に伝え続けた。

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黒ずくめの女性たち

ファッションリーダーでもあった。エレガントな女性はみなそうだが、彼女はモードを追うのではなく、モードを自分に引き寄せた。ソニア・リキエル、バルバラ、レジーヌ・デフォルジュらと並んで、彼女も黒を愛した女性のひとり。リトル・ブラック・ドレスを生み出したガブリエル・シャネルのアドバイスに従ったのだ。シャネルのかの有名なスリングバックシューズは、テレビドラマ『ベルフェゴールは誰だ!』で、グレコがルーヴル美術館の通路をカツカツとヒールの音を響かせて歩くシーンで一躍名声を獲得した。グラフィックなデザインを好んだ彼女は中年になって、黒髪に白のメッシュを入れた大胆なバイカラーを取り入れたこともある。独自のスタイルを持った彼女に、デザイナーたちも賞賛を惜しまなかった。彼女がいないいま、サン=ジェルマン=デ=プレはもうこれっきり。まさにそんな心境だ。

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texte : Laetitia Cénac (madame.lefigaro.fr)

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