「夫婦別会計」が、長続きするカップルの秘訣?

Culture 2021.03.30

フランスでは資産や家計をバランスよく管理できるとして、別々にお財布を持つカップルが増えている。夫婦の形が進化し、離婚件数が増加する昨今、特に女性にとって夫婦別会計は経済的自立の保障になる。ただし、情報開示が重要なポイントだ。

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30代、40代で、お財布を分ける傾向が進行中。 photo:DragonImages

今日は彼女にとって「ウォッカをあおりたい気分」が猛烈に湧き上がる日。これから待ち受けていることを忘れるためのワンショット! 1年に1度、カミーユは有給早退を取る。夫も同様だ。夫婦水入らずの旅行ではない。この40代のパリジャンカップルが待ち合わせをする理由は、家計の決算というロマンティックには程遠い目的のため。夫はエクセルを、妻はノートを開く。

「この日は憂鬱。お金の話をするのは好きじゃないから」と話すカミーユは42歳のコンサルタント。子どもはふたり。起業家の夫バティストは理数系。彼にとって会計収支の計算など造作もないこと。1年間で誰が何にいくら払ったか、どちらが多く払ったかをぱっと算出する。「たいてい彼の方が多く負担しているから、差額を計算して精算します」とカミーユ。これで来年の決算日まで、カミーユは穏やかな気持ちで暮らすことができる。

細かい金銭問題での諍いを避けるために、ふたりは夫婦別会計を取っている。それぞれに銀行口座を持ち、各自の出費はそれぞれ自分で支払う。バティストはカミーユの2倍稼いでいるので、ベビーシッター費、固定費、私立学校に通う子どもたちの学費は彼の担当。カミーユはハウスキーパー費、食費、衣類をまかなう。それからアパルトマン購入時のローン返済もある。夫の負担分はすでに返済が終わっている。

「わが家の家計はこのやり方でとてもうまくいっています」とカミーユは話す。「家ではお金の話はほとんどしなくなりました。例外は、それぞれの収入に比例した分担額を精算する年に1度の決算日だけ。私にとって、経済的な自立や、自由に使えるお金があるのは大事なこと。毎日これからも彼と一緒に暮らしていきたいと思えるのはそのおかげです。もし無駄遣いをしても、バティストに非難されるのは嫌。私の方も、彼が趣味の自動車レースに結構なお金を使っていることに、絶対に文句は言わない。私たちのこのルールは変更の余地のないものです」

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タブー扱いされがちな、カップルの「お金」の話題。

いまや、夫婦でひとつの財布を持つことがいい夫婦の条件とは限らない。もはや愛し合うことは、すべてを共有することとは違う。「私のものはあなたのもの!」という時代はもう終わったのだ。特にフランスではこの傾向が近隣諸国に比べて顕著だ。国立統計経済研究所が2015年に公表した調査によると、ヨーロッパ全体で見た場合、夫婦別会計が占める割合は5~10%と低く、フランスとオーストリアだけが16.5%、19%と高い数値を示している。フランス国内ではふたりの収入をひとつの財布にまとめて管理するカップルが63%で、同一会計が主流を占めているが、ヨーロッパ諸国の中では、この数値は最も低い方なのだ!

財布を別々に持つ傾向は、30代、40代でとくに顕著だ。「この世代は独立意識が強い。自分で自分の生活費を稼ぐ若い女性たちは収入を別々に管理したいと望んでいます」と、『カップル、愛、お金』の著者で社会学者のカロリーヌ・アンショ(1)は言う。

「母親が夫に金銭的に依存し(編集部注:フランスで女性が夫の許可なく銀行口座を開設できるようになったのは1965年)、余計なものを買ったと夫に叱られる姿を見てきた人もいます。彼女たちは自分は同じことを繰り返したくないと思っています」

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カップルでお金の話をする。それは記憶を呼び覚ますことでもある。クリスマスの貯金箱にちゃりんちゃりんと小銭を貯めた思い出、両親が自分のために積み立ててくれた預金、“1円は1円”という節約の教え、月末の苦しい家計のやりくり…。こうしたお金にまつわるデリケートな話題の裏にはつねに、家庭の教育方針という問題が控えている。倹約家の家庭では、贅沢は一切禁物。浪費家の家庭では、何でも豪勢。摩擦やストレスの元になることもあれば、ときに成功や快楽のシンボルとなり、ときに悪者にされる「お金」。お金の話題は共同生活をするカップルにとって、依然としてタブーだ。

「夫婦生活は信頼と連帯の上に成り立っていると考えられています」と前述のアンショは続ける。「一方で、お金はエゴイズムや打算といったベクトルで捉えられており、愛情や家庭という価値観と相入れないもの。お金の話を持ち出したときに愛は終わるという見方もあります。できればお金の話は避けたいと思うのはそのためです」

カップルでお金の問題に取り組むには、どんなお金の使い方を手本とするか、ふたりで考えることも必要になる。それぞれの育った家庭環境が違う場合、意見を一致させるのは必ずしも簡単ではない。夫婦別会計なら、不公平にならないようバランスを取りながら、それぞれの家庭の歴史や教育方針と両立できる。さらに、そもそも現状が完全に公平なわけではないという場合は、別会計を導入することでバランスを見直すことにもなる。こうした小さな調整を通して、夫婦の絆がより強くなるはずだ。

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お互いがペイし合うという戦略。

子どもの頃はかなり甘やかされたというジュリアンは、倹約家の両親のもとで育ったエリーズと一緒に暮らしている。弁護士の父と歯科医の母を持つ40代の彼は、バカンスはクラブメッド、洋服はブランド品という、黄金の1980年代を過ごした。エリーズも不自由をしたわけではない。商売を営む両親は「家計をやりくりしながら」商業学校の高い授業料を払ってくれた。ジュリアンは営業マン。エリーズはマーケティングの仕事を探しているところだ。ふたりは出会って以来ずっと別会計。

「サーフボードを買うなど、趣味や遊びの出費はジュリアンの方が多い。私は節約モードで暮らしています」と言うエリーズ。「お財布を一緒にして彼の世話になりたいとは思いません」。3歳になる息子がいるふたりはおおまかに戦略を練り、家賃はジュリアン、買い物は折半、衣類と臨時の出費はエリーズが担当する。「暖房器具のメンテナンス費などは私が持ちます」

週に3日、子どもが託児所に行かない日に家で面倒をみるのも彼女の役目だ。「いやいやしているわけではありませんが、仕事だと思っています…」ゆえにこれも家計負担として計算に入れる。財布を別々にすることは、貯蓄も別々に管理するということ。「ジュリアンは企業年金に加入しています。私は自分で貯金しています」

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オッドBHFのシニアプライベートバンカー、アリクス・ドゥ・ランティへの3つの質問

Q. 2016年に女性の顧客を対象にしたサービス”The Ladies Bank”を立ち上げていらっしゃいます。女性に資産運用への関心を持ってもらうにはどうすればいいでしょうか?

A. 私たちは、面談に来るお客さまの80%が男性であることを不思議に思っていました。全体の45%が女性顧客なのにです! The Ladies Bankの無料サイトには、いくつかのプロフィールを作りました。たとえば、離婚に伴うお金の出入りを管理しているジュリエット、投資を始めようと考えているやりくり上手のソフィ…といった例です。また、それぞれに、「勤務先から株式を譲渡されたのだけど、どうしたらいいの?」「デュトレイユ協定を利用して自社の事業継承を行いたい」といった具体的なケースに例をとってアドバイスを提供しています。お金や投資がもっと気軽で、身近なものになるようにという思いで活動しています。

Q. カップルもお金の話をしたほうがいいとアドバイスされていますね。

A. 将来も円満な家庭生活を送りたいなら、お金について話しておくべきです。ボーナスが出たらどうする? どちらかが職を失ったらどうする? 一方が家計を多く負担したら、後でその分を精算するのか? こういったデリケートな話題についても話し合っておきましょう。子どもが生まれる、アパルトマンを購入するなど、ふたりで力を合わせて取り組む課題ができたら、結婚の時に結んだ夫婦財産契約や各自の生命保険の内容を改めてよく把握することも重要です。誰が何を持っているのか明確にするわけです。

Q. 自立の欲求が高くなってくると、なかなか簡単ではありません。

A. パートナーの財政状況を知るのはぜひとも必要なことです。どの銀行を利用しているか、どんな保険に加入しているか、どんな投資をしているのか。時間が経てば経つほど、よけいに話しづらくなってしまいます。当行では、カップルのお客様には、一緒に相談に来るようアドバイスしています。資産運用、年金、将来のライフプランなど、総合的に診断します。情報を共有することは大事、お金は戦いの肝だと言いますから。

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お互いを支え合う、連帯管理という意識。

互いに支え合うカップルが自立への意志を持ち始めているいま、カップルそれぞれのプライベートはどうなるのだろうか?ふたりで生きていく時、個人が大事、と思うものだろうか?『家族、お金、愛』の著者のひとりで精神分析家のベルナール・プリウール(2)は独立採算制を取るカップルにはある種の「慎重さ」があると言う。「この方式には互いへの批判を避けられる利点があります。それぞれが自分のお金を自分が納得する形で自由に管理していいわけです」

「”自分は自分”というこの姿勢によって、カップルの絆が脆くなることもあります。自分は財政が苦しいのに、パートナーが高価な買い物をしていたら、見捨てられたような気持ちになってしまうかもしれません。どちらかが相手に対して、家計にあまり協力していないと不満を持った場合、信頼心ではなく敵対心が芽生えることにもありえます」とプリウールは話す。確かに。

しかし今回の取材で出会ったカップルたちは「自分たちは大きな信頼で結ばれている」と口を揃える。大きいどころか、絶大だ。愛情や子どもが彼らの信頼関係を支えている。「結局のところ、相手の金銭的自立を受け入れることは、信頼関係が築けている大きな証拠ではないかしら?」とカミーユは言う。「困った時は、相手が助けてくれるとお互いにわかっています。家計は別々ですが、結束は固い」

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もちろん、子どもが生まれると何もかも変わる。フライトアテンダントのローラはやはり客室乗務員のパートナー、アントワーヌとの間に赤ちゃんが生まれたばかり。南フランスの瀟洒な一戸建てに住む彼女は、パートナーに月250ユーロの家賃を払っている。子どもを持つ若いカップルの多くと同じように、それぞれ自分の口座を持っている彼らは、しだいに普及しつつあるミックス管理の道を選択した。

つまり、ふたりで使うお金を管理するために第3の口座を開設したのだ。それぞれが口座へ入金し、買い物、固定費、映画やレストランなどの娯楽費をそこから支出する。あとはそれぞれ好きなようにしている。不動産投資もするアントワーヌは、ハンドバッグを集めるのが趣味というローラが「50回かけて使う」額を1度の買い物に注ぎ込むこともある。最近はスクーターを購入した。彼女にとって、お金の使い方はプライベートに属す事柄だ。

「ザラで大人買いしたくなったら、いつでもできる。残高がマイナスになったことは一度もない。でも束縛感なしで自分の好きなものを買えるというのが大事。それに明日どうなるかは誰にもわかりません。もし万が一いつか別れることになっても、それぞれ自分の分を引き取るだけで済む」

2組に1組のカップルが離婚しているフランスでは、結婚しても必ずしも将来安泰とはいえない。そのため、特に若い女性たちの間で「夫婦別会計」が好まれている。将来に備えて貯蓄をしている富裕層の女性たちは結婚時に別産制を選ぶことが多い。「必須の防衛策だ」と公証人のナタリー・クジグ=シュアは強調する。

「結婚の時に共通財産制を選択した夫婦の場合、それぞれが別の口座に資産を保有していても、離婚時にそれらは夫婦の共有財産とみなされます。3万ユーロの貯蓄がある女性が相談にいらしたことがあります。夫は競馬が趣味で、夫の負債を彼女も負担しなければならなくなってしまったのです」

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リスクに備えるという面も。

別会計にするなら…情報の共有がいよいよ重要になる。『娘たちよ、お金の話をしよう!』の著者のひとり、ティエリー・オアヨン(3)もその点に注意を促す。資産運用専門家のオアヨンは財産を完全に分けた場合の離婚時のリスクについても指摘している。

「一般的に男性になりますが、収入の多い方がパートナーに対して支配的な地位を維持することもありえます。クライアントの中にも、夫の年収が40万ユーロで、複数の銀行口座を保有していることを離婚の時に初めて知った女性がいました。彼女には財産分与を請求する権利は一切ありませんでした」

子どもが生まれ、子育てが始まると仕事にブレーキをかけることになる女性の場合、そのリスクは大きくなる。また、一方が家のローンを負担し、他方が買い物や雑費を負担するという分担の仕方も、「絶対に避けるべき」と、オゼイユ・エ・カンパニー創業者のエロイーズ・ボルは警告する。資産運用専門家のボルによると、それよりもむしろ共有口座をふたつ開設するといいと言う。ひとつは生活費のための口座で、それぞれが収入に応じて分担額を入金する。ふたつめは住宅ローン返済用にするといい。

「いまだに、カップルのどちらかが家の財政状況を知らないという家庭があまりに多い」とボルは言う。「最終的に、もし別れることになったら、家を取るのはどちらだと思いますか?」

(1)Caroline Henchoz 著「Le couple, l’amour et l’argent」l’Harmattan出版刊

(2)Bernard Prieur, Nicole Prieur 共著「La famille, l’argent, l’amour」Albin Michel出版刊

(3)Thierry Ohayon, Catherine Lott-Vernet共著「Les Filles, osons parler argent!」Dunod出版刊

texte:Marie Huret (madame.lefigaro.fr)

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