親に嘘をつかれた子は、親に嘘をつく大人になる?

Culture 2021.04.13

From Newsweek Japan

子どものときに親に嘘をつかれたことが多い人ほど、大人になって親に嘘をついたり、心理的な問題を抱えることが多い傾向にあることが明らかになった......。

iStock-1033511400-thumb-720xauto-172221.jpg

子どものときに親に嘘をつかれたことが多い人は...... photo:Pekic-iStock

文/松丸さとみ

子育てでのちょっとした嘘が、子どもの心理に影響。

「良い子にしないとお巡りさん呼ぶよ」「早く来ないと置いて行っちゃうよ」などなど、親として、子どもに言うことを聞かせようとちょっとした嘘をつくこともあるのではないだろうか。逆に、自分が子どもの頃に親にこんな些細な嘘をつかれた経験もあるかもしれない。

しかしシンガポールの大学でこのほど行われた調査により、子どものときに親に嘘をつかれたことが多い人ほど、大人になって親に嘘をついたり、心理的な問題を抱えることが多い傾向にあることが明らかになった。

調査は、シンガポールのナンヤン工科大学(南洋理工大学、NTU)が、カナダのトロント大学と米カリフォルニア大学サンディエゴ校、中国の浙江師範大学との協力で行ったもの。結果は、児童心理学専門の医学誌「ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・チャイルド・サイコロジー」に掲載された。

379人のアンケートと自己診断を分析

NTUによると、シンガポールで18〜28歳の379人に、オンラインで2種類のアンケートに答えてもらった。1つ目のアンケートは、子どもの頃に親にどんな嘘をつかれたかを聞くもので、食事に関するもの、ある場所から去るまたはとどまることに関するもの、行動の良し悪しに関すること、お金に関することの4カテゴリー、16パターンの嘘だ。

例えば、何かおねだりをした時に「今日はお金を持ってきていないからまた今度ね」などで、それぞれの嘘のパターンに対し、自分が親につかれた嘘に当てはまるか否かで「はい」「いいえ」「覚えていない」で答えてもらった。

2つ目のアンケートは、大人になった今の自分は親にどのくらい嘘をついているか(自分の行動についての嘘や、他人のためにつく嘘など12パターン)を聞いた。それぞれの嘘のパターンに対し、1(まったくない)から5(非常によくある)の点数を入れてもらった。

参加者はさらに自分について、外在化された問題(攻撃性、規則破り、過干渉など)と内在化された問題(心配やうつ、引きこもりなど)について自己診断してもらった。

これらの回答を分析したところ、子どもの頃に嘘をつかれたことが多い人ほど、大人になって自分も親に嘘をついていると回答した。また、攻撃的になったり、規則を破ったり、過干渉な行動を取ったりするなど、社会的に好ましくない問題を発達させてしまうリスクが高くなることも分かった。

---fadeinpager---

矛盾したメッセージで子どもの信頼を損ねる

調査の主執筆者であるNTUのペイペイ・セトー准教授は、子どもに何かをさせたい時に、嘘をつく方が簡単だと思えるかもしれないが、親が子どもに「正直でいることが一番」と教えているにもかかわらず、自分が嘘をついて正直でないところを見せてしまうと、子どもに矛盾したメッセージを発することになると指摘。子どもの信頼する心を損ない、正直さを欠いてしまう可能性があると説明している。

また、親がつく嘘の種類によっても、子どもへの影響の度合いは異なるようだ。

子どもに言うことを聞かせるためにつく嘘(キャンディが欲しいとおねだりした子供に対し、「あのお店にはキャンディはないよ」など)と比べ、親の権力を行使するための嘘(「良い子にしないと、あんたを海に放り投げて魚に食べさせちゃうよ」など)の方が、子どもの心理的な問題を引き起こす可能性が高いとセトー准教授は説明する。

子どもに対して親が権力を使おうと嘘をつくことで、子どもは自主性を持ちにくくなったり、拒絶されたと感じたりする可能性もある。そのため究極的に、子どもの情緒面での健康が損なわれるのだという。

セトー准教授は、子育てで嘘をつくと、子どもが大きくなったときにネガティブな影響が出ることが今回の調査から示唆されたと話し、嘘をつく以外の方法を考えるよう促している。例えば、子どもの感情に理解を示す、情報を提供する、選択肢を与える、問題を一緒に解決するなどだ。

また今後の調査について同准教授は、嘘の質や、親が何を目的に嘘をつくのかなどを調べ、つくべきではない嘘のタイプが分かるようにしたい考えを示した。

0e123ac85a74225410c5c6f32b0ba4809aea2460.jpg

 

texte:SATOMI MATSUMARU

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
パリとバレエとオペラ座と
世界は愉快

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories