「子どものためにお金の話をしない」は大きな間違い。

Culture 2021.04.27

いまのような不安定な時代こそ、子どもにお金の教育をすることが大切。子どもを不安にさせることなくお金の価値に関心を持たせるにはどうしたらいいのだろう? 臨床心理士、ベアトリス・コペール・ロワイエが回答する。

article.jpg

子どもを不安にさせることなくお金の価値に関心を持たせるにはどうしたらいいのだろう? photo:Getty Images

キラキラペン、初めてのスニーカー、テレビゲーム……買ってほしいものがある時、小中学生の子どもたちは親の財布を緩ませる方法をよく知っている。唇を震わせ、アニメ『長靴をはいた猫』のように潤んだ瞳でじっと見つめる。これで親はいちころ。大人になってからキリギリスにならないために、どうやってお金の価値を子どもたちに教えたらいいのだろう? ときどきお小遣いをあげて貯金箱に貯めさせる?それとも子ども名義の銀行預金を作り、成人したら好きに使っていいと約束する?

経済の停滞が続くなかで、近い将来直面することになるお金の問題から、できるだけ長い間遠ざけておくことが子どものためと考えて、家計の話題に触れない親もいる。児童・青少年の心理を専門とする臨床心理士のベアトリス・コペール・ロワイエによると、これは大きな間違い。子どもが10歳になる頃には、お金についてきちんと教育するのがいいと説く。

---fadeinpager---

――お金の教育とは具体的にどういうことでしょうか?

子どもにお金という概念について説明し、お金も他のことと同じようにそっちのけにできない現実の問題だと教えることです。ある程度の年齢になったら、子どもたちも、人は「愛と水だけで生きている」のではなく、毎日の生活にはお金がかかり、各家庭はそれぞれの予算で生活を賄っていると理解する必要があります。

――子どもたちにお金に関心を持たせることはなぜ重要なのでしょうか?

お金の教育は親の責任。話をするだけでなく、子どもによい手本を見せるのも大切です。家計のやりくりに窮している大人は多い。毎月末に赤字になる人は(フランスでは)人口の4分の1に上ります。なかには消費者金融を利用して、多額の負債を抱えてしまう人もいる。小さい頃からやりくりを身につけることは、将来長いタームでバランスの取れた生活を営むことにつながります。

---fadeinpager---

――新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから1年経ったいま、お金の教育は以前にも増して重要なのでしょうか?

もちろんです。お金の問題と無縁でいられる人はいません。家計が困難な状況に陥ることもあると教えるのはとても大切です。こうした問題で子どもたちを悩ませないことは非常に立派な考え方ですが、何もかも隠すのはよくありません。特にコロナ禍で仕事に影響が出ている親たちは不安を抱えています。親の不安は子どもにも伝わるもの。といっても、事実を強調しすぎないように気をつけて。小さい子どもの場合は特に、いたずらに不安を掻き立ててしまいます。患者の中に離婚審議中の女性がいました。彼女は9歳の娘に「橋の下で寝るようなことにならないといいけど」と言ってしまった。娘はその比喩を文字通り受け取り、とても苦しみました。低年齢の子どもたちには、贅沢品が何でも買えるわけではないけれど、生活に必要なお金はあるから心配しなくて大丈夫と伝えるといい。

――お金の「教育」は何歳から始めるべきですか?

10~11歳が適当です。それ以下の年齢の子どもにとって、お金の概念はまだ抽象的です。幼い子どもたちは充分に自立しておらず、まだひとりで学校から帰宅したり、買い物をする権利がありません。子どもがもう少し大きい場合は、責任感を育てるためにお小遣いを与えるのはとてもよい方法です。欲しいものを買う喜びだけでなく、大人がよく知っている、お金には限界があるという事実も発見します。予算を超えるものはすぐには買えず、フラストレーションに耐えなければなりません。またお小遣いの管理を通して、親の個性とは違う、子ども自身の個性が見えてきます。浪費家もいれば、貯めるのが好きな子もいる。あればあるだけ使うキリギリスタイプもいれば、何事も計画的に進めるアリさんタイプもいます。

――お小遣いを渡すときはどんなルールを設ける必要がありますか?

金額は年齢や必要に応じて、両親が相談して決めること。小さい子どもには週に1度ずつといったようにこまめに分けて。大きくなったら毎月1回決まった金額を渡します。お小遣いをどう使うかは子ども次第。すぐにお金がなくなってしまっても、むしろ子どもにとっては有意義な授業です。そのまま本人に任せておけば、そのうち子どもは財布に穴が空いていることに自分で気づきます。親が痺れをきらして穴を埋めることは絶対にNG。思春期の子どもにとって、この月々のお小遣いは大人の生活への第一歩となります。ある意味、お給料のようなものです。お金の遣い方があまりに荒いようなら、子どもと話してみるのもいいでしょう。自分に特別な贈り物をするためにお金が貯まるのを待つことは、あまり興味のないものを衝動的に買うよりずっと大きな喜び、と説明するわけです。交通費や昼食代も渡して、さらに多くの責任を負わせるのもひとつの方法です。

---fadeinpager---

――家計に余裕がないけれど、子どもにもっと好きなものを買ってあげたいという場合はどうしたらいいでしょう?

子どもが話を理解できる年頃、つまり10~11歳ならば、話し合いましょう。いまは家賃や食料品、衣類など生活に必要なもののためにお金を節約しなければならないと説明します。子どもがそれでも、たとえばゲーム機が欲しいとねだるようなら、誕生日に祖父母や代父母からお小遣いがもらえるのを待ってみたらと言うのもいいでしょう。可能性を閉ざしてしまうのはよくありません。少し希望を持たせることが肝心です。

――お金の話題は家庭ではタブーとされることもありますが?

これには文化が深く関わっています。お金に関して、フランス人にはアメリカ人のような気楽さはありません。この慎重さはもちろん、お金の話をするのは卑俗なことであり、高尚な話題ではないと考えていたユダヤ・キリスト教的な教育と関係があります。歴史的に貴族階級出身の人は、金銭的な利益より勇気という倫理的な徳を重んじる傾向がありました。こうした価値観は現代の社会状況と非常に矛盾しています。私たちは消費社会に生きており、子どもはその重要なアクターであるわけですから。

――銀行口座を開設することは、無駄遣いをしないよう、お金の管理の仕方を学ぶのに有益ですか?

はい。いまの子どもたちはとても要領がよく、オンラインでの買い物も自分でさっさと注文します。ただ思春期になっても責任を持って行動することができない子どももいます。まだ親の銀行カードを使っている年齢ですから、自分の買い物が家計にどんな影響を与えるかを具体的にイメージできるわけではありません。フランスの銀行はこうした時代の要望に対応して、当座貸越の利用できない口座など、10~12歳の子どもたち向けのサービスを提供しています。スマートフォンのアプリケーションを使って銀行の明細を調べたり、支出を日々チェックすることができます。自分の口座と連携した銀行カードも利用できるので、カード決済という大人が利用するこの抽象的な支払い方法の仕組みがようやく理解できるようになります。何か購入するたびに、銀行明細書に金額が記載され、そのぶん残高が減るのだと。

――いい成績を取ったり家事を手伝ったらお小遣いをあげる、と子どもと取引をする親もいます。これはいいアイデアですか?

家事に関しては、私はこの考え方に賛成しません。食器を片付けて食器洗い機に入れるのに、報酬は必要ありません。こうしたことは家族の連帯の一部です。家族とはお互いに助け合うもの。家事の分担は家族の結束を高めます。その代わり、もし子どもが学校でいい成績を取ったら、ご褒美をあげるのは構わないと思います。お金より現物のプレゼントのほうがさらによいと思いますが。ただし、いい成績を取らせるために毎回ニンジンをぶら下げるのはよくありません。報酬システムを常に稼働させることになり、子どもを絶え間ない脅しと取引の連鎖に引きずり込むことになります。

――思春期の子どもが儲かるという理由だけで将来の仕事を考えるのは、心配すべきことですか?どうすれば「お金があれば幸せになれるわけではない」ということを端的に伝えられますか?

腹を立てる必要はありません。そうしたこともモチベーションのひとつです。勉強を続ける中で発展していくかもしれません。親として適切な反応は、理想は高収入を得たいという望みと仕事がもたらす喜びとを両立させることだ、と子どもに説明することです。仕事は毎日、毎年繰り返し行う活動ですから。ただ、こうした会話を通して、楽しみや喜びは必ずしも過剰な消費や物質的な豊かさから得られるわけではないと伝えるといいでしょう。お菓子を作る、音楽に合わせて踊る、ボードゲームをするといったことも、喜びをもたらしてくれますし、それにお金もかかりません。

texte:Tiphaine Honnet (madame.lefigaro.fr)

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

清川あさみ、ベルナルドのクラフトマンシップに触れて。
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
2024年春夏バッグ&シューズ
連載-鎌倉ウィークエンダー

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories