妊娠初期でも周囲に伝えていい。その理由は?

Culture 2021.05.05

妊娠して最初の3ヶ月は周囲に話さないという不文律は、女性にとって重荷になることもあり、流産にまつわるタブーが根強く残る原因の一つにもなっているよう。実際はどうなのか? 体験者の声を集めた。

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妊娠初期の3ヶ月は妊娠していることを人に言えない。気の重い日々を送る女性たち。 photo : Getty Images

妊娠初期の3ヶ月間は妊娠を周囲に伝えないという慣習がある。「万が一の場合」を考えての沈黙。つまり、万が一早期流産してしまった場合、という意味だ。流産は妊娠初期の3ヶ月間に起こりやすい(妊娠した人の10~15%)。

実際に、妊娠4ヶ月に入るまでは周囲に打ち明けないほうがいいと考える女性やカップルもいる。「そういうことはしないもの」だから、あるいは単にプライバシーに関わることだからと。しかし中には、この沈黙の掟のために3ヶ月(も!)の間秘密を抱えることを重荷に感じる人もいる。

32歳のフレデリックは、ストレスと「じりじりする」ような不安の中で送った12週間だったと語る。現在妊娠5ヶ月の彼女にとって、妊娠初期は苦い思い出だ。友人たちに公然と嘘をついているような嫌な気分になり、パーティやアペロでも隙を見せるわけにいかず、緊張しっぱなしだった。「おかげで、ちっとも楽しめなかった」と彼女はいう。「病気のふりをしたこともあった。あらゆる場合に備えて策を練らなければと思うと、パーティに行くのがおっくうだった」

とくに悩ましいのがアルコール。パーティにはノンアルコールビールを事前に購入して持参したが、毎回、事前にケースはゴミ箱に捨て、瓶のラベルをこすってノンアルコールの表示を削り取る。「現場に着いたら冷蔵庫に直行して一番奥に瓶を押し込み、その場で中身をグラスに注いだこともあった」と語る。

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精神的負荷

多くの場合、妊娠に気づかれないための工作にはそのうち熟練するが、これを続けるのは苦しい。フレデリックは「精神的負担」と呼ぶ。

そうでなくても妊娠初期は疲れやすい。「妊娠初期の3ヶ月は、感情面で妊婦の精神構造がもっとも変容する時期です」と、周産期専門心理学者のナタリー・ランスラン=ユアン(1)は説明する。「最初の妊娠の場合は特に、体に起こるさまざまな変化によって気持ちも揺れ動きやすく、あれこれと思い煩いがち。妊娠を周りに告げていない場合、大きな孤独の中で悩みや不安と向き合わなければなりません」

妊娠を隠すことは「女性から妊娠初期の3ヶ月を体験する機会を奪うこと」とランスラン=ユアンは付け加える。いますぐ皆に妊娠を告げて回りたいというカップルにとっては、水を差されたようなもの。ゆえにフラストレーションがたまる。まだ喜んでは「いけない」のだ。

「トラウマとは違いますが、流産のリスクを想定することで、最初から妊娠が否定的な文脈に置かれ、高揚した気持ちにブレーキがかかる」と、妊娠4ヶ月目に入ったばかりの29歳のルイーズは話す。「みんなに言いたいのに、喜びを抑えなければならなかった。それって、変な話ですよね」

確かに矛盾している。実際に取り組む前から子どもを作る計画について話したり、避妊をやめると友人たちの前で宣言したりすることもある時代なのに。「それだけに沈黙が余計にこたえるのです」とランスラン=ユアン。「妊娠の診断ができるタイミングが早くなっているためです。今は排卵検査薬もあって、血液検査やエコー検査を受ける前に妊娠判定ができ、妊娠の経過を日々確認することもできます」

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裏切っているような気分

周囲に妊娠を告げていないこの時期、特に職場で困った状況に陥ることもある。43歳のアガト(仮名)は4年前、第2子の妊娠と昇進の話を同じ週に知った。仕事の成果が実って誇らしさと嬉しさを覚えたのも束の間、罪悪感が彼女を襲った。「上司に感謝の気持ちを伝えましたが、心の中では上司を裏切っていると感じていた」と彼女は打ち明ける。「1年で一番重要な時期を数ヶ月後に控えて、上司は私の働きを期待しているのに、その頃は産休中だと自分では重々承知していました。申し訳ない気持ちでした」

第1子のときも、妊娠を伏せていたために、だるさを感じながらも任務を引き受けざるをえなかった。ジャーナリストの彼女は原稿に追われた当時を振り返る。「その頃、私は2つの部署の仕事を掛け持ちしていました。あちこちに取材へ出かけ、やってもやっても終わりが見えなくて、夜も週末も働いて疲れ切っていました。24時間ぶっ通しで眠りたかった。職場のデスクの下でこっそり15分程度の仮眠を取っていました」

こうして当時の経験を振り返り、苦労話をするアガトも、今では、あれほど骨を折るかいがあったとは思えないと言う。どんなに苦しい状況でも、何が何でも隠さなければ、というのは「ばかげた」ことどころか、身体にとって危険なのではないかと。そもそもなぜ3ヶ月たつまで打ち明けてはいけないのか? この沈黙の掟はどこでどうやって生まれたのか? そう彼女は問いかける。

歴史は相当古そうだ。「かつて妊娠は、初期の段階で打ち明けることはほとんどありませんでした。多くの場合、5ヶ月目に入るまで妊娠しているかの確信が持てなかったからです」と話すのは、ピカルディ・ジュール・ヴェルヌ大学の歴史学者で母性とジェンダーを専門とするエマニュエル・ベルティオ。「つまり、禁忌のようなものが存在したことは一度もない。この沈黙の理由は、そもそも不確実さのせいでした。また、子どもに不運を招かないように縁起を担ぐという意味合いもあったでしょう。最初の3ヶ月間に妊娠が中断するのはよくあることだと知られていましたから」

20世紀後半になって、ホルモン検査やエコー検査が登場すると、流産のリスクが心と身体により深く根を下ろすようになった。妊娠初期の3ヶ月は特に危険が高く、流産しやすい時期だけに、周囲の人に話した場合、流産したときに不幸な出来事も知らせなければならない。ゆえに妊娠を人に告げない、あるいは告げるのをためらう人も現れた。「これは、自分自身と他者を死から守るためです」と前述した心理学者のランスラン=ユアンは言う。「感情的な落ち込みを予想して不安を先取りするのです。人に自分のつらい話をすることや、周りに気を使われたり、不用意な言葉を掛けられる状況を回避するわけです。また、死について言えば、世間には少しなら構わないが、あまり多くは勘弁してほしい、という意識があることも忘れてはなりません」

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女性を孤立させる沈黙

したがって妊娠初期に事実を伏せることは、流産にまつわるタブーがなかなか消えない理由のひとつでもある。「女性の性や身体に関わる事柄は口にするべきではないとされています。たとえば生理や産褥期の出血、そして流産も話題にされることはありません」と、法学者でフェミニストのマリーエレーヌ・ラエは語気を強める。彼女は2016年に自身のブログMarieaccouchelaで「流産のタブーを終わりにする」というタイトルの記事を掲載し、いち早くこの現象に光を当てている。

彼女は言う。この沈黙は女性を孤立させ、女性を孤独に追い込んでいる。もっともだ。誰も妊娠を知らないなら、妊娠が中断してしまったとき、いったい誰にサポートを求めればいいのだろう?

「流産の体験は、大きな孤独を感じさせるものです。しかしこれは珍しいことではなく、女性の人生の一部なのです」とラエは強調する。「結局、話せる唯ひとりの相手は病院の医師ということになります。必要なのは感情的なサポートなのに、対応するのは医療のシステムなのです」

もちろん妊娠の報告は、女性やカップルがしたいときにするものだ。慣例に従うことを拒否する女性たちも出てきている。流産してしまったときに「監獄の中にひとりで閉じ込められたような気持ち」にならないように、と28歳のアメリは説明する。彼女は妊娠検査薬で陽性判定が出たその直後に、何人かの親しい人たちに妊娠を伝えることにした。

「もし何かが起きたときに、誰も私が妊娠していることを知らなかったら、パートナー以外にそのことを話す相手がいないと考えたのです。彼に自分の気持ちをありのまま話せるのか、彼の前で気のすむまで泣けるのか自分でも自信がない」と彼女は話す。「むしろ女友だちに話を聞いてもらいたくなると思います。彼は私を慰めて、“これも人生、もう一度やり直せばいい。心配しなくていいよ”と言ってくれるでしょう。でもそれがその時に私が聞きたい言葉なのかどうか、私は確信が持てません」

彼女の周囲では、軽率だと非難する人も、流産のリスクがあるから気をつけるようにと忠告する人もいなかった。「妊娠を打ち明けたとき、むしろ私のほうが“まだほんの初期だから”と言っていたくらいです」。現在妊娠4ヶ月半を迎えた彼女は、自分の選択は間違っていなかったと思っている。「従姉妹は妊娠をこんなに早く教えてくれて嬉しいとも言ってくれました。もし何かあっても、知っていれば一緒にいてあげられるからと」

(1)Nathalie Lancelin-Huin著書に『Traverser l’épreuve d’une grossesse interrompue – Fausse couche, IMG, mort fœtale in utero』Josette Lyon出版などがある。

texte : Ophélie Ostermann (madame.lefigaro.fr)

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