世界のセレブが注目する技術革新、NFTって?
Culture 2021.05.26
モデル、アーティスト、テック業界の教祖たち。誰もかもがNFTに夢中だ。唯一無二の鑑定書付きバーチャル芸術作品の売却を可能にする技術革新、NFT。新しい暗号資産は、実入りの多い最旬トレンドだ。
エミリー・ラタコウスキー。2020年のオスカー、「ヴァニティ・フェア」誌のアフターパーティにて。(ビヴァリー・ヒルズ、2020年2月9日)photo : AFF / ABACA
デジタルデータとしてものを所有する。それがいま取り入れるべき最新トレンド。
世界中のセレブがNFTを始めている。略語もそのコンセプトもミステリアスなNFTは、一言でいえば、入手して所有できるデジタル作品。絵画や彫刻との違いは、鑑賞するにはスクリーンを介さなけれならないという点だけだ。
NFTとは「Non Fungible Token」つまり「非代替性トークン」の略語で、ブロックチェーンと呼ばれる技術を活用してこの世にひとつしかないことが保証されたバーチャルな作品。ブロックチェーンとは、データ化された署名のようなもので、個体性を付与すると同時に、真贋を証明する鑑定書でもあり、作品を偽造不可能な状態にするものだ。
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アートとテクノロジー
NFTが最初に活発にやりとりされるようになったのはコンピュータゲームやスポーツの分野(仮想世界ゲームや、サッカー選手のトレーディングカードがその一例だ)だが、最もお金が動いているのはアートの世界だ。彫刻家や写真家、造形作家といった様々な分野の芸術家たちがNFTを活用し始めている。
3月12日には、アメリカ人アーティストBeepleによるデジタル作品『Everydays : the First 5000 Days』がクリスティーズのオークションで6930万ドルで落札された。
続いて、NFTをメインストリームに押し上げたのは、テック業界の巨人たちだ。3月6日、ツイッター創始者のジャック・ドーシーは、15年前に投稿したツイート第1号(その興味深い内容は、「アカウント作成中」の一言)を競売に出品した。
just setting up my twttr
— jack (@jack) March 21, 2006
3月23日、ドーシーのツイートは、ブロックチェーン開発関連企業の経営者により、なんと290万ドル(売上げは慈善事業に寄付された)で落札された。落札者は「モナリザに匹敵する価値のあるもの」を入手したと喜びの声を発表している。
取引が成立したとはいえ、今後この歴史的投稿をほかの人が閲覧できなくなるわけではない。「モナリザ」のように、誰でもこれまで通り見ることができる。
しかしルーヴル美術館の「モナリザ」と同様に、落札されたツイートは無数の複製品とは根本的に異なる。NFTという鑑定書が付与されたこのツイートだけが本物として認定され、ドーシーかツイッター社がツイートを削除しない限り、ツイートを売却することができるのは所有者だけだ。
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3月中旬には、イーロン・マスクが自作のエレクトロミュージックをツイッターに投稿し、オークションに出品している。しかしその後マスクは出品を取り下げた。入札額は112万ドルまで競り上がっていたものの、最終的に富豪は「こういうものをこうやって売るのはあまり正しくない気がする」と意見を変えたのだ。
パートナーでミュージシャンのグライムスはそれほど頓着していない。3月1日、スキンへッドの天使が地球や廃墟の寺院の上空を舞うイラストに、彼女自身がバーチャル署名した10点のデジタル作品が競売に出品され、20分で総額580万ドルで落札された。売上げは全額エコロジー団体に寄付された。
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イメージをコントロール
ミステリアス、儲かる、最新技術。これだけそろえばセレブが手を出さないわけがない。
1年前にはパリス・ヒルトンが、慈善事業への寄付を目的に、愛猫マンチキンを描いた素晴らしいデッサンをオークションに出品。推定1万7000ドルで落札された。その後、彼女はデジタル作品販売に特化したインスタグラムのアカウントを開設している。また、リンジー・ローハンは今年3月に自画像を5万ドルで売却した。
ケイト・モスは4月中旬に、アーティストグループMITNFT(Moments in Time NFT)とのコラボレーションで、散歩、睡眠、運転中の彼女の姿を収めた3点の動画を作成した。動画を手に入れした幸運なオーナーはトップモデルの私生活の一コマを「所有」できるし、お望みなら、第三者に見せることもできるというわけだ。
やはり売上げの一部は慈善団体に寄付されることになるが、ケイトはプレスリリースのなかで、NFTは自分にとって、「自分のイメージをコントロールしながら、自分が直接関わることができる新しい芸術媒体」であると述べている。
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”前例を作る”
コントロールを取り戻す。エミリー・ラタコウスキーがさっそくNFTを取り入れたはまさにそのためだ。
昨年秋、女優でモデルのエミリーは、オンラインマガジンThe Cutに記事を寄せ、これまでどれほど自らのイメージが利用されてきたかについて語った。たとえば、アメリカ人アーティストのリチャード・プリンスは2014年に、彼女の許可を得ずにインスタグラムに投稿された画像を使用し、拡大してシリーズ作品『New Portraits』のなかの1点として発表している。
Buying Myself Back: A Model for Redistribution. This NFT will be available at auction @ChristiesInc on May 14. https://t.co/lyiHPpG8EI pic.twitter.com/BLJtHpHZmV
— Emily Ratajkowski (@emrata) April 26, 2021
現在、彼女がNFTという形で売却しようとしているのは、プリンスの作品の前でポーズを取る自らの写真だ。『Buying myself back : a model for redistribution(自分自身を買い取る:再分配の一形式)』というタイトルが付いたこの写真は、5月14日にクリスティーズで競売に掛けられた。こうしたやり方で自分が所有者であると考えているものを再び占有しようというわけだ。
これに関連して彼女は以下のようなツイートを寄せている。「NFTという最新メディアを利用して、ネット上の所有権と女性の権利のために象徴的な前例を作りたい。女性たちが自分自身のイメージに関して権限を持ち続け、イメージの利用や配布が行われた際には、しかるべき代償を受け取ることができるように」
俳優のアーミー・ハマーは、自分自身がNFTの対象となってしまった。今年初めにアーミーは若い女性たち数人から性的暴行を受けたとして訴えられ、そのうえレイプ願望や食人嗜好を明かしたメッセージを公開されたことで、ハリウッドで孤立状態にある。
告発した女性のひとり、アメリカ人アーティストのジュリア・モリソンは、4月23日、このメッセージの数点をNFTとして競売に出品した。アメリカの情報サイトThe Daily Beastの質問に対して、モリソンは、告発を否認し続けているハマーの行為を「事実として認証させる」ためにこの手段に訴えたと語っている。
ちなみにモリソンも、売上げは慈善事業に寄付すると約束している。
texte : Pascaline Potdevin (madame.lefigaro.fr)