フランス流、楽しい食卓が子どもを賢くする。

Culture 2021.05.27

From Newsweek Japan

文/船津徹

iStock-944585246-article.jpgphoto:iStock

論破することが目的ではありません。人の意見を理解し自分の考えを伝える食卓での議論は、子どもの「自己を明確」に。そして賢くするものです。

1日平均2時間13分。何の時間だか分かりますか?

これはフランス人が1日の食事に費やす平均時間(OECD)です。堂々の世界一です。フランス人にとって食事は「栄養補給」だけが目的ではありません。家族のコミュニケーションを密にし、信頼関係を深める時間を兼ねているのです。家族全員が食卓で顔を合わせて、食事を食べながらその日にあった出来事を話し合うのはフランス文化の一部です。

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食卓でアイデンティティを磨く

フランス人はディベート好きで自分の考えを絶対に曲げないことで有名ですが、その気質は食事中の会話によって育てられるといっても過言ではありません。食事を食べながら、身近なトピックや時事問題など、様々な出来事について互いに意見を言い合うのはフランスではごく当たり前に見られる風景です。

でも口論をしているわけではありません。議論で感情的になるのは「食事を楽しむ文化」があるフランスでは御法度です。食事中の議論は相手を論破しようというものではありません。他者の意見を尊重しつつ、自分の考えもしっかり伝える。納得できないことや疑問に思うことは放っておかずにきちんと相手に質問する。家族と言えども、人はひとりひとり異なる価値観や個性を持つユニークな存在であるという前提で「議論のプロセス」を楽しんでいるのです。

食卓は子どもが人の話を聞いたり、自分の意見を言葉で分かりやすく表現する訓練の場にもなっています。フランス人の子どもたちは、親、兄弟、ゲストと食卓で議論を交わしながら成長するので、大人相手でも物怖じせず会話ができ、自分の意見を堂々と発言できるように育ちます。

小さい時から自分で考え、自分で答えを見つけ、自分の言葉で伝える経験を積み重ねると、自分は何が好きで、何を大切にし、どんな人生を歩みたいのか、アイデンティティが明確になっていきます。フランス人は良くも悪くも「我が道を行く国民」と言われますが、その本質は「自己が明確」ということなのです。

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食事の中でマナーやしつけを伝える

食事は子どもに自立やマナーを教える場でもあります。フランス人家庭では、幼い子どもにも家事の役割が与えられます。朝起きてテーブルにお皿とナイフを並べる、バターやジャムを冷蔵庫から出す、戸棚からパン(バケット)を出す、食器を片付けるなど、子どもも家族の一員として役割を担うのです。

フランス人は、朝、昼、晩と食事をとるのが一般的です。つまり家事の中でも食事に関わる雑用が圧倒的に多いのです。母親ひとりに家事の負担がのしかかることがないように家族全員が分担することで、家族の一員としての自覚と責任を理解すると同時に、自分のことは自分でできる自立した子に育ちます。

フランス人は平日は質素な食事で済ませることが多いですが、週末になると豪華な食事を楽しみます。前菜からデザートまでフルコースを作り、ワインを飲みながら時間をかけて家族や友だちと昼食を食べるのです。自宅に友人を招いたり、友人の家に招かれたり、お互いの家を行き来し合い、一緒に美味しい食事をとることに喜びと幸せを感じるのです。

もちろん子どもたちも大人と一緒に料理を食べます。フランスでは子どもも原則大人と同じ食事をとります。子ども用のメニューを用意するのでなく、大人と同じモノを自分の食べたい量だけ食べるのも食事のしつけの一部です。

子どもは時間をかけてコース料理を食べる中で、フォークやナイフの使い方などのマナー、季節の食材や飲み物についての知識(地産地消へのこだわりが強い)、食器や盛りつけ方法などについての美的感覚を身につけていきます。

食事を食べながら会話を楽しんでいると時間があっと言う間に過ぎ、昼食が終わったら夕方になっていることも珍しくないと言います。食を通して家族や友人との交流を深める中で「美食の国フランス人」としての食文化への誇りが形成されていくのです。

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食事中の楽しい会話は子どもを賢くする

食事中の楽しい会話や何気ない問いかけは、子どもの考える力を育てます。地頭力の強い子どもは、多くの場合、家庭での普段の「会話」によって当意即妙の発想力、言語力を獲得していきます。

一方で食事中の会話が「宿題やった?」「学校で何を勉強した?」「誰と遊んだ?」「テストは何点だった?」という尋問中心になると、子どもは親の話に聞く耳を持たくなります。それどころか食事の時間そのものを嫌がるようにさえなってしまうので注意が必要です。

親との会話が楽しければ、子どもはリクエストされずとも自ら話題を提供するようになります。子どもが勉強や人間関係などの悩みを何でも親に相談できれば、ストレスを溜め込むことが少なくなります。また、勉強面でもわからないことを放っておくことがなくなり、学習の消化不良に陥らずに済むのです。

ベネッセ教育研究開発センターが行なった調査によると、家族そろって食事を楽しんでいる家庭の子どもほど家族関係や友人関係が良好なことが分かっています。アメリカのコロンビア大学が行なった調査では、週に5回以上家族で食事をとる家庭の子どもは、成績が良好で、問題行動が少ないことが分かっています。

食事中の楽しい会話は、子どもの思考を深め、知識を高め、好奇心を刺激し、表現力を豊かにしてくれます。この積み重ねが子どもの学力の土台となり、成績向上につながっていくわけです。

食事中の会話に、親の仕事の話、政治や経済の話、環境や社会問題など、学校の授業では聞くことのできないトピックが多いほど、子どもはたくさんの知識を吸収し、様々な事柄について「考える力」を伸ばしていくことができます。

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好き嫌いは「楽しさ」があれば解決する

子どもの食べ物の好き嫌いを直そうと躍起になっている親がいます。もちろん安全で栄養バランスのとれた食事を子どもに与えることは大切です。しかし「残しちゃダメ」「野菜を食べなさい!」「魚を食べなさい!」と無理に食べさせようとしていると、かえって子どもの偏食を長引かせることにつながります。

好き嫌いを直すには、まず食事中の雰囲気を改善することに目を向けてみてください。食事の見た目を楽しくし、楽しい会話を心がけるのです。「食事の時間=無理やり野菜を食べさせられる時間」ではなく「食事の時間=家族の楽しい時間」にしてください。

親が楽しい会話を心がけていると、子どもは楽しさにつられて、いつの間にか何でも食べるようになっていきます。反対に親が栄養面や食事のしつけにこだわりすぎると、子どもは食事の時間を楽しめず、食べることに対しての興味までもが薄れてしまうのです。「食事は楽しく!」これは日本人が見習いたいフランスの素晴らしい文化です。

また母親ひとりが食事の準備をするのでなく、子どもにも料理を手伝ってもらいましょう。自分で作った料理は格別に美味しい味がするものです。野菜を洗ったり、食材を切ったり、フライパンでいためたり、味付けをしたり、失敗するかもしれませんが、それも子どもにとって良い経験です。

子どもに手伝ってもらう時は「悪いけど、お願いできる?」「手伝ってもらえると助かるわ」と頼むことを忘れずに。そして手伝ってくれたら抱きしめて「助かったわ。ありがとう」と感謝を伝えてください。食育の基本は「食事を楽しむこと」です。ぜひ取り入れてみてください。

船津徹 TORU FUNATSU
TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

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text:TORU FUNATSU

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