日本は? 世界でキッズ・ユーチューバーへの規制始まる。

Culture 2021.06.01

From Newsweek Japan

文/ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

かつてテレビ業界では「子どもと動物を出せば視聴率が取れる」と言われたが、同じことがYouTubeでも起きている?

210527-nw-tensai-04.jpg世界で一番稼ぐユーチューバー、ライアン・カジくん。photo:Ryan's World / YouTube

日本のYouTubeチャンネル登録者数ランキングでは、ベスト3位のうち2つが子ども向けチャンネルだ(2020年10月末時点)。1位の「キッズライン♡Kids Line」の登録者数は1210万人を超え、再生回数も98億5500万回以上という驚異的な数字だ。

いったい何を配信しているチャンネルなのかというと、小学生くらいの子どもふたりがおもちゃやお菓子のレビューなどをしている。このように、いまYouTube界では子どもが活躍するチャンネルが人気を集め、急増している。

YouTubeは始まった当初のように趣味で配信する人ばかりでなく、ユーチューバーはすでに職業のひとつとして認識されるようになってきた。そうすると、"プロ"ユーチューバーの子ども達もお金を稼ぐ子役と同等であり、最近では子役に労働基準があるように、キッズユーチューバーの撮影に規制を設ける国も増えてきた。

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わずか9歳で年収24億円のキッズユーチューバー。

世界でいちばん稼いでいるユーチューバーとして有名なアメリカのライアンくん(9歳)は、年収24億円と言われている。日本でも稼ぐ子役の陰に、両親との金銭トラブルはよくある話だが、アメリカの場合「クーガン法」と呼ばれる、収益を子役本人のために残しておく法律が存在する。

これは、チャップリンの映画『キッド』(1921年)で一躍有名子役になったジャッキー・クーガンに由来するものだ。ジャッキーの稼いだ出演料は全て両親が浪費してしまい、ジャッキーが成人になった頃には1ドルも残されていなかったという。

この事件から1939年よりクーガン法が制定され、子役の報酬の15%は「クーガン・アカウント」と呼ばれる銀行口座に、本人が成人になるまで直接貯蓄され保護される仕組みになっている。それがいまはキッズユーチューバーにも適用されているわけだ。

フランス、16歳未満のチャンネル登録は届け出必要に。

ヨーロッパでもキッズユーチューブチャンネルは人気だが、なかでもいち早く規制制定に乗り出した国がフランスである。アメリカのクーガン法同様に子どもの財産を守る法律はもちろん、16歳未満のキッズユーチューバーがチャンネルを開設する場合は、両親がフランス当局に許可を取らなくてはならない。

また、テレビや映画の子役に課すように、ユーチューバーにも撮影時間の規定を設けている。フランスでは、ソーシャルネットワークの一環であるというユーチューブの認識が、お金が発生=仕事であるという風に、いち早く変わっているようだ。

お隣の国・韓国でも2020年6月に、政府から未成年ユーチューバーへの動画制作指針が発表された。韓国でも子どもを出演させるキッズチャンネルは多く、最近では10kgを超えるタコを双子の娘に丸かじりさせる動画や、ミニスカートを履かせアイドルのセクシーダンスを踊らせる動画など、再生回数を稼ぐために映像制作が過激になっているのではないかと指摘される事例が増え、問題視されていた。

そこで、韓国政府放送通信委員会は、YouTubeを含むインターネット個人放送に出演する未成年者保護のガイドラインを発表した。これは、法律およびインターネット政策専門家、YouTubeやアフリカTV、ダイヤTVなどのMCN(マルチチャンネルネットワーク)事業者、プラットホーム事業者などの意見を取り入れ制作されたものだという。

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韓国は差別的な内容などを禁じるガイドライン。

それによると、「性的な動画、虐待動画禁止」「差別的な内容の動画制作禁止」「18禁のゲームやコンテンツを紹介してはいけない」などの動画内容に関する項目があり、さらに撮影に関しては「深夜時間(午後10時~朝6時)に、生配信に出演してはいけない」「休憩時間無しで3時間以上、1日6時間以上の動画出演禁止」という禁止事項も記載されている。これは、未成年子役と同じ労働条件だ。

これはあくまでガイドラインであり、法律ではないため強制性はないが、ダイヤTV、トレジャーハンター、サンドボックスネットワークなどの動画配信プラットホーム事業者は、この指針を元に動画配信者対象のセミナー及びコンサルティングを行う予定だという。

また、各メディアセンターの「個人メディア製作教育コース」受講生たちには、韓国電波振興協会を通じてこのガイドラインの内容も授業の一環として指導していく予定だという。

日本の現状は……。

日本では、子役に対しては法律による規制が存在する。労働基準法56条第2項により、子どもたちは就学に差し支えなければ保護者の許可を取って仕事が可能だが、いっぽうで子役の年齢によって多少違うはあるものの、基本的に労働時間は1週間に40時間、1日7時間を超えてならない、となっている(労働基準法60条)。

賃金は基本的に直接本人に支払うものとする(労働基準法59条)。また、午後8時以降午前5時までの出演は禁止されている。しかし、これはいまの時点で事務所に所属しないユーチューバーには適用されていない。もしも、今後、キッズユーチューバーにも子役の法律が適応されるなら、この時間に撮影やゲーム配信などもできなくなる可能性がある。

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YouTube自体も規制をしたが……。

キッズチャンネルといえば、2020年初め、YouTubeは児童オンラインプライバシー保護法に基づく連邦取引委員会の指導に合わせて、世界の子ども向けコンテンツに対し、パーソナライズド広告と、視聴データ収集などを停止する取り組みを始めた。

これにより、多くの子ども向けチャンネルへの広告収入の心配がされたが、冒頭にも登場したライアンくんをはじめ、有名キッズユーチューバーは広告収入より企業とのスポンサー契約が主な収入源になっており、ランキング上位ユーチューバーの懐事情にはそこまで影響がなかった様子である。

親が子どもにユーチューブを見せるとき、登場人物が子どもだと安心して見せることができるだろう。子どもたちも自分と同年代の人たちが活躍するチャンネルを好んで見ているようだ。たしかに、何もかも規制でがんじがらめにしてしまうのには反対だが、すでに収入が発生し、子役と同じように仕事になっているのなら、それはすでに趣味の域を越えて「プロ」と言えるだろう。売上を伸ばすために子どもたちが苛酷な労働をすることがないよう、フランスや韓国と同じく撮影でのガイドラインを作り、守ってあげることも必要ではないだろうか。

年収24億円のライアン・カジくん。

年収24億円のライアン・カジくんは、Ryan's World のほか、日本向けの「ライアンズ ・ワールド」など9つのチャンネルを運営している。Ryan's World / YouTube

ウォリックあずみ
映画配給コーディネーター。 20歳で渡韓、2002年韓国ソウル芸術大学映画学科に入学。2005年から韓国の映画会社入社、2008年より映画バイヤーになる。2016年に帰国、2017年よりアメリカ・ワシントンDC在住。また最近では韓国ウェブ漫画の日本語訳なども行っている。

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text:azumi warwick

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