英会話では英語が身につかない日本人、その理由とは?

Culture 2021.06.03

From Newsweek Japan

文/船津徹

いくら英語で話しができても、学力に直結するわけではない。高度な英語力を身につけるには、英会話だけでなく「読む力」を鍛え、子どもの言語吸収能力を活かすのがポイント。

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子どもの英語教育を考える時、多くの人は「英会話」を思い浮かべると思います。英語の読み書きや文法は学校で勉強するから習わせる必要はない。それよりも日本人が苦手な「英会話」を子どもには習わせるべきだ、という考えです。

実はこの「英語教育=英会話」という思い込みが、日本人の英語力を長年に渡って停滞させている原因のひとつであると私は考えています。

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言語吸収能力をリーディングに活かす。

小さい子どもほど英語を聞き取る力や正確な発音を身につける力が高く、英会話を短期間で身につけることができるのは事実です。しかし子どもの優れた言語能力を「英会話だけ」に使うのはもったいない!というのが私の考えです。

私は子どもの言語能力を英語の「リーディング力育成」に活用すべきであると考え、歌やチャンツを通して英語の読書力を身につけるカリキュラムを構築しました。これを私がアメリカで主宰する塾や現地の小学校(ESLクラス)で実践したところ、たちまち子どもたちのリーディング力が上達し、それに比例して英語の他の技能(話す、聞く、書く)も向上したのです。

子どもの言語吸収能力を「リーディング力育成」へと結びつけることで、日本人の子どもであっても英語の本が流暢なネイティブ発音で読めるようになります。英語の本が読めるようになれば、子どもは自学自習で英語力を限りなく向上させていくことができるのです。

子どもの英語教育を成功させる近道は「英会話バイアス」から脱却し「リーディング力育成」へと英語学習の重点を転換することです。リーディング力の育成を目標に置き、子どもに適切な指導を与えれば、どの子も高度な英語力を獲得することが可能なのです。
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日本で英会話だけやっても……。

子どもを「英会話」に通わせている方は多いと思います。確かに幼い頃からネイティブ英語に接することで、英語特有の発音やリズムに親しむことができます。また外国人と触れ合う経験は、異文化理解を促進し、外国や英語に興味を持つきっかけとなるでしょう。しかし残念ながら、英会話(だけ)では高度な英語力を達成することはできません。

その理由は大きくふたつあります。ひとつは、学習時間が少なすぎること。英語習得の目安となる学習時間は最低でも「2500時間前後」と考えられています。(米国国務省/FSI)日本人が学校教育を通して英語を学習する時間は、多い生徒で1500時間程度です。つまり学校教育で足りない「プラス1000時間」を家庭学習で補う必要があるのです。

週に1回、1時間の英会話レッスン受けていても「プラス1000時間」を達成するには20年近くかかってしまい現実的ではありません。(1年間は52週で52時間ですから、休まず通っても1000時間達成に19年)

もうひとつは、日常的に英語を使うことがない日本で「会話中心」の学習は定着しにくいことです。フィリピン、シンガポール、マレーシア、香港のように、英語を使う環境が身近にあれば「英会話」の実践を積み重ねることが可能です。しかし日本でいくら会話のパターンを覚えても、英語を話す相手がいませんから技能が身につかないのです。

では日本で英語を習得するにはどうしたら良いのかと言えば「英語のリーディング力育成」がベストな方法です。英語の本がスラスラと読めるようになれば、いつでも、どこでも、いくらでも、読書を通して学校教育や英会話では足りない英語学習時間を稼ぎ、独学で英語力を向上させていくことができるのです。

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英語が話せても授業についていけないタロウ君。

ハワイで生まれ育ったタロウ君。両親は日本人です。家庭では日本語を話し、幼稚園では英語を話す環境で育ちました。ハワイの小学校に上がる6歳頃には、日本語と英語を「話せる」バイリンガルに成長しました。

そんなタロウ君がハワイの小学校に通い始めて1ヶ月ほど経ったある日、担任の先生からお母さんに電話がありました。

「タロウ君ですが、英語力が弱いので授業についていけません。放課後に家庭教師をつけて補習を受けることはできませんか?」

お母さんはびっくりして反論します。

「タロウは英語ぺらぺらです。なぜ授業についていけないのですか?」

先生は答えました。

「英会話に問題ありません。でもリーディング力が足りないのです」

お母さんは呆然としてしまいました。英語が流暢に「話せる」タロウ君を見て、学校の授業にも問題なくついていけるだろうと「思い込んでいた」のです。

The Children's Reading Foundationによると、アメリカの学校カリキュラムの「85%以上」は「リーディング」で構成されているそうです。つまり英語を読む力が身についていなければ授業についていくことができないのです。

アメリカで生まれ育ち、アメリカの学校に通えば誰でも英語を「話せる」ようになります。しかし全ての子どもが勉強が得意になるわけではありません。勉強ができる子にするには「リーディング力」を鍛える必要があるのです。
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外国人子弟の学力不振もリーディング力が原因

グローバル化に伴い日本の学校にも外国人子弟が増えました。都市圏はもちろん、地方の学校にも外国人子弟が在籍することが珍しくなくなりました。しかし彼らの多くが授業についていけず苦労しています。なぜでしょうか?

それは「日本語のリーディング力」が弱いからです。学力を獲得していく土台となる日本語を「読む力」が足りていないから、教科書の内容を読み解けず、それが原因で授業についていけないのです。

もちろん外国人子弟も国語の授業では「日本語」を教えてもらえます。しかし、元々日本語が弱い外国人の子どもが(日本人向けの)国語の授業を受けるだけで満足な日本語力を身につけることは難しいのです。

外国人子弟の多くは家庭で日本語のサポートを受けることができません。日本人家庭であれば、親が子どもにひらがなや漢字を教えたり、一緒に図書館に行って本読みを楽しんだりできます。しかし外国人家庭ではそのようなサポートを受けることができないのです。

家庭での読書サポートが不足すると、いつまでたっても教科書や本がスラスラと読めるようになりません。すると学習遅れが目立つようになり、勉強への自信を喪失し、勉強嫌い(学校嫌い)になっていくのです。

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いまは家庭でリーディング力を育てられる!

外国人子弟と同じことが日本の英語教育でも起きていると置き換えてみてください。英語のリーディング訓練が足りない→英語が流暢に読めるようにならない→内容理解が伴わない→自分に英語はムリ! と諦める、という悪循環に陥っている生徒が驚くほどたくさんいます。

英語ができる子どもを育てるには、英語のリーディングを集中指導して、英語の本がスラスラ読めるようにすることが近道です。学校で教えてもらえないのであれば、家庭で「リーディング力育成」を実践してみてください。

ひと昔前はネイティブの英語に触れること自体が難しかったのが、いまはインターネットを活用すれば、家庭でリーディング力を育てられるようになりました。インターネットを使ったリーディング力の育成については、拙著『世界で活躍する子の英語力の育て方』で詳しく解説していますので参考にしてください。

船津徹 TORU FUNATSU

TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

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texte:TORU FUNATSU

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