離婚に踏み切るのは、なぜ女性たちなのか。

Culture 2021.06.12

フランスでは、女性から離婚を切り出すケースが75%に上る。苦しみや経済的プレッシャーにもかかわらず、人生をやり直すために人生を一度解体し、自分自身を修復するために別れを選ぶことを、彼女たちはためらわない。離婚は新たなチャンスなのか?

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離婚は自分の新たな力を知り、自分がどうなりたいかを知るきっかけにもなり得る。photo : iStock

「セバスチャンと別れたとき、彼をとても愛していました。でも幸せではなかった。感情的にも経済的にも彼のことが負担でした。何もかも私が背負わなければならなかった。彼との幸せな未来を思い描くことができなかった。だからつらくはあったけれど、離婚を後悔したことはありません」。37歳のレスリー(仮名)はきっぱりとした口調で答える。

劇場運営に携わる彼女は、これまでの恋愛でも、別れはいつも自分自身に立ち返ることだったという。アップダウンの多い旅ではあるが、愛という波乱に満ちた道のりを前へ進むために必要な選択。

離婚の決断は数十年前までは男性が独占していたが、いまや離婚を申し出る人の75%が女性だ。

「だからといって昔に比べて今の男性が不甲斐ないわけではありません! ただ、離婚や別居の件数は今後も増加し続けるでしょう」と話すのは、『別れた女。別離という経験を生きる』(1)の著者である社会学者のフランソワ・ドゥ・サングリだ。個人的な願望と夫婦生活の現実のずれが大きくなっているのがその理由だ。

「女性はカップルの暮らし、幸せな関係を築こうとします。ふたりの関係に感情的な質を求めます。男性は人生の様々な側面を分けて考えることができる。家事や子どもの教育を負担してもらえて、ある程度快適ならば満足できるのです」とサングリは分析する。

20世紀初頭のブルジョワ階級の結婚がまさにそうだった。そして、興奮や刺激は家の外で探せばよかった。恋愛カウンセラーのフローランス・エスカラヴァージュは次のように話す。「女性が別れを決心するとき、その決断には本人の人間としての成熟や、ふたりの足並みが揃っていないという幻滅が関連しています」。別の言い方をすれば、魔法が解けたということだ。

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男性は外野

ではなぜ女性と男性でカップルの暮らしに対する思い入れがこれほど違うのだろうか?

『愛の裏面:別れの歴史』(2)の著者で感受性の歴史を専門とする歴史学者のサビーヌ・メルキオール=ボネによると、離婚の合法化はフランス革命後の1792年にさかのぼる。

過去の資料をひも解くと「離婚申請件数は、合法化された最初の年が最も多い5000件で、申請者は男女ほぼ同数だったことがわかります。しかしその後、申請数は激減。離婚に踏み切るためには、子どもの養育の問題をクリアする必要があったからです。女性による申請はごくまれになります。また女性が離婚のイニシアチブを取っているケースを見ると、最上層階級の女性ばかりです」。大部分の女性たちには、親の家に戻るか、修道院に入る以外に選択肢はなかった。

したがって離婚は数世紀の間、事実上、男性たちの独占市場。19世紀には夫婦という観念のジェンダー化が加速する。「媒酌結婚が主流の時代には、結婚に失敗しても社会を非難することができました。しかしロマンチックな意味での愛という概念の誕生にともない、離婚によって自我の根本が打撃を被るようになります」と歴史家のメルキオール=ボネは説明する。

「男性は感情面についての知識で後れを取っています」と力説するドゥ・サングリは、男性たちとのインタビューを通してそのことに気付いたという。「男性たちは自分の恋愛について概念化することなく語ります。一方、女性たちは19世紀以来、小説や文学に親しんできました。最近ではドラマも見ている。これらに触れることで、人間関係についての知識の土台が形成されます。これが男性たちには欠けているのです」。それに加え、男性たちは外の生活で充実感を得ることができていた。

一方、女性たちは家という狭い世界以外に人生を構築する場を持たなかった。彼女たちに残されたものは、家事労働と子どもだけ。夫婦とは要するに、別れる自由が存在しない関係だったのだ。

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是が非でも愛

女性たちの経済状況は改善されて、いまでは離婚のハードルはずいぶん低くなった。フランスでは現在、女性の就労率は80%を超えている。これに伴って1980年代には、夫婦は一心同体という、個が融合しあった夫婦像とは別のタイプのカップル像が出現する。つまり自己に重きを置くという意味での個人主義の誕生だ。

以後、女性たちはありのままの自分を愛してほしいと望むようになる。そしてそのためなら、どんな犠牲も払う覚悟がある。実際に女性たちにとって離婚の余波はさまざまな形で現れる。

第一に、購買力の低下。2018年にフランス国立統計経済研究所(Insee)が発表した数字によると、離婚で経済的な影響をより大きく受けるのは女性の方で、離婚後に貧困状態に陥った女性は20%であるのに対し、男性はわずか8%。2015年の調査では「離婚が直接の原因となる生活レベルの低下は女性の20%、男性の3%に見られる」とされている。また離婚したカップルの40%で養育費の未払いが起きている。

人生のやり直しという点でも、男女は平等ではない。やはりInseeの調査によると、離婚から5年後に再びカップルの暮らしをしている男性は57%であるのに対し、女性は46%。15年後を見ると、男性は75%、女性は64%だ。低年齢の子どもを持つ女性の場合、短期間で再婚する確率は子どものいない女性に比べると46%低くなる。

ソーシャル・キャピタル(人間関係)も損害を被ると分析するのは『愛のマナー:長続きするカップルの秘密』(3)の著者であるカップルカウンセラーのカロリーヌ・クリューズだ。「女友だちは独身市場に参入した離婚女性をライバルと見なし」、世間からは「夫を繋ぎとめられなかった」女性として非難の目を向けられるという。

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離婚で自由になる

では女性にとって離婚とは連綿と続く不幸の日々を意味するのだろうか? それは違う!

『別れた女』のなかで、ドゥ・サングリは女性の離婚を分析し、生き延びるため、成長するため、自分を見直すためという3つのパターンに分けている。これは夫婦関係において「私」に対して「私たち」が占めていた部分がどれだけ大きかったかによるという。しかしいずれの場合も、女性たちにとって離婚はこれまでとは優先順位が異なる人生がスタートするきっかけとなることに変わりはない。

37歳のモルガンヌ(仮名)は、パートナーと暮らしていた頃から、心の底では写真家になりたいという思いを抱いていた。パートナーが突然出て行った夜、彼女は「茫然自失」した。しかし「もう意味なんてないと思っていたものに意味を見出すために」一晩考えた後、彼女は食品関係の仕事を辞めた。1年半の間アルバイトをしながら何人かのカメラマンの下で研修を続けた。

8年経ったいま、モルガンヌは別の男性と一緒に暮している。子どももふたりいる。そして何よりも、写真家として情熱をもって生きている。「別れが猛烈なアクセルになりました。おかげで、自分自身に、そして自分が本当にやりたいと思うことに向き合えた」

45歳のセシル(仮名)はまだ完全には立ち直っていない。子どもたちの父親と混沌とした関係が続くなか、カップルセラピーで相手が二重生活を送っていることを知った。ふたりの関係が終わったいま、彼女は当時を振り返って、苦しみを前にして「立っていることさえできなかった」と話す。

パートナーは映像編集者、彼女は映画監督という同業種カップルだったこともあり、彼女はひとりでいちから学び直さなければならなかった。

しかし、ようやくトンネルの出口が見えてきた。「シナリオの執筆を再開したときは、復讐のために彼より先に映画を作らなければと自分に言い聞かせていました。でもいまシナリオを書き上げたばかりですが、この映画がもたらしてくれる喜びは、彼とは何の関係もありません。こうして傷が癒えていくのだと思います。彼がいなくても私は生きていく。私自身のために、私自身の力で再生していきます」

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自分自身を取り戻す

2~3年後に別の角度から離婚を捉えられるようになることも珍しくない。「別の角度で見ることで、失ったものを解釈し、耐えられるようになる」とドゥ・サングリは言う。

32歳のカティア(仮名)は、悪化したパートナーとの関係を振り返る。破局を迎えた時はぼろぼろだったが、いまは「誰かと一緒にいなくても強い女性でいられる」と確信している。「自分は価値ある人間なのだと思えるようにもなりました」。そもそも、すべての女性たちが新しい人を見つけるのに必死というわけではない。

ドラマシリーズ「セックス・アンド・ザ・シティ」や「ガールズ」が描いているように、友人たちのサポートによって別れを乗り越える女性たちもいる。30歳のレナ(仮名)はフランソワとともに人生を送るつもりだった。子作りの話もしていたし、ふたりでアパルトマンも購入した。

すべてが粉々に崩れ去ったのは、家族間であるトラブルが起きたとき。彼は彼女の味方になってくれなかった。ショックのあまり体重が10キロ以上落ちた。数ヶ月経って、彼女はようやく立ち直ることができた。

「彼とともに私自身の一部も失いました。でもいまは自分自身に立ち返ったような気持ち。前よりきれいになり、前より自信を持って、果敢に行動できる。生きて行くのに誰かが必要だと思っていました。それは勘違いだったんです」

(1)François de Singly著『Séparée.  Vivre l’expérience de la rupture』Armand Colin出版刊。
(2)Sabine Melchior-Bonnet著『Les Revers de l’amour.  Une histoire de la rupture』PUF出版刊。
(3)Caroline Kruse著『Savoir-vivre amoureux.  Les secrets des couples qui durent』Du Rocher出版刊。

texte : Delphine Bauer (madame.lefigaro.fr)

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