「女子東大生」が少ない本当の理由は何?

Culture 2021.06.16

From Newsweek Japan

文/李娜兀(リ・ナオル)

580-0604-toudai.jpg東大は女子学生の「2割の壁」をなかなか越えられない photo: Toru Hanai-REUTERS

韓国でもソウル大学の女子学生は長らく2割以下だったが、2000年代の入試制度の変更で4割に増えた。

寝る前のリラックスした時間帯に、アメリカの時事問題風刺番組をYouTubeでいくつか見るのが日課になっている。米政治の雰囲気も分かるし、なによりおもしろいからだ。

その中に南アフリカ出身のコメディアンで、毎月約7000万人が視聴するトレバー・ノアという人がいる。2月上旬、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(当時)による「女性蔑視発言」が、ノアの政治風刺の題材として取り上げられたときには、本当に世界的な大ニュースになってしまったな、とため息が出た。

すでに多くの人が指摘していることだが、森氏の「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」という発言は、そもそも日本の重要な理事会や役員会に女性が半数近くいることが普通であれば出ないはずだ。

女性のリーダーシップ人材について考えると思い出すのは、数年前に東京大学で国際交流の仕事に携わったときの経験だ。留学生、日本人学生との議論で「なぜ東大には女子学生が少ないのか」が話題になった。東大の学部生では女性の割合が常に2割を切っている。(編注:東京大学は3月10日、2021年度の入試結果で全合格者に占める女子の割合が過去最高の21.1%になったと発表した。)

米ハーバード大学がほぼ5割、韓国のソウル大学も4割を超えるのと比較すると、日本のトップ大学の女性比率の低さは皆、気になるようだった。

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東大女子は「結婚しにくい」。

当時、なぜ増えないのかについて東大や他大学で聞き取りをした学生たちの発表では、「東大に行くと結婚しにくくなる」「男性が多過ぎると発言できる機会が減り、つまらない」といった意見が上がっていたと記憶している。

一方、東大のホームページを見ると、大学自身は女性を増やそうと懸命だ。地方の高校での広報活動を強化し、女性用の住居支援なども進めている。しかし、なかなか「2割の壁」は越えられないそうだ。

韓国のソウル大学も1990年代までは女性の比率が2割を下回ることが多かった。2000年代に入って急に4割になったのだが、これは入試制度の変化と一定の関連がある。

韓国の入試制度はとても複雑だが、大まかに言うと90年代後半に「定時入試」のほかに「随時入試」ができた。定時はいわゆる一発勝負の試験。随時は日本でいうAO入試や推薦入試に近く、高校3年間の成績が大きな影響を与える。

ソウル大学における随時入試の割合は96年には1.4%だったが、02年には28.8%へと大幅に増えた。そして合格者の女性比率は、まさに随時入試が大幅に増えた直後の03年頃から、それ以前の2割から4割に跳ね上がり、その状況がずっと続いている。また、最近でも、女性の合格率は毎年、定時入試よりも随時入試のほうが10ポイント以上高いことが多い。

アメリカの入試方式も高校時代の成績を重く見る。一発勝負の試験だけでなく、高校時代の地道な努力の結果をより反映させたほうが、多様な学生がトップ大学に入りやすくなり、ひいては女性比率の向上にも貢献する、という因果関係に不思議はない。ソウル大学では随時入試で合格した学生のほうが、入学後の成績も良いという研究もある。

東大にも学校推薦型選抜があり、やはり女性の合格者比率は4割を超える。しかし、その合格者数は約3000人の総定員に対して男女計でも約90人、3%に満たない。結論は教育専門家の判断に任せたいが、もしも入試方式と女性比率に因果関係があるのであれば、「2割の壁」は女子学生のモチベーションや社会全体の認識の問題ではなく、ただ増やす決断をしていないことによる「壁」だったということになる。

このままでは東大学部生の女性比率が、いつかトレバー・ノアの風刺番組で取り上げられないかと心配だ。

李 娜兀 NAOHL LEE
国際交流コーディネーター・通訳。ソウル生まれ。幼少期をアメリカで過ごす。韓国外国語大学卒、慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得(政治学専攻)。大学で国際交流に携わる。2人の子供の母。

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text:Naoh Lee

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