前を向いて生きる女は美しい リナ・サワヤマの赤裸々で強い言葉と熱意に鼓舞されて。
Culture 2021.06.18
自身の経験や想いを赤裸々に綴り、音楽に昇華するリナ・サワヤマ。その率直でパワフルな姿勢は、人種や性差別で傷ついた人を鼓舞し、その道を照らす。
Rina Sawayama|シンガーソングライター
リナ・サワヤマのデビューアルバム『SAWAYAMA』は、さまざまな物語を収めた珠玉の短編集のようだ。R&B、カントリー、ニューメタルなど、幅広くカラフルな音色にのせた詞は、彼女自身の体験やアイデンティティを宿す。「最も語りたいストーリーだったから」と言うが、その歌詞は決して明るく華やかなものではない。両親との衝突、イギリスに暮らすアジア人として受けてきた差別、疎遠になってしまった友人への懺悔のような想いが赤裸々に綴られている。
「もちろん想いを形にするのは容易ではありませんでした。でも幼い頃から歌を作り続けてきた経験が、感情をコントロールして音楽に昇華することに役立ってくれた。そして、それが私自身の癒やしにもなりました」
丁寧に描かれたセルフポートレートともいえるこのアルバムが、これほどまでに幅広く受け入れられるとは、実はリナ自身も考えていなかったという。
「とても個人的な内容だったから、ここまでの反響を想定していなかった。でもリスナーは、自身を投影できる余白を歌詞の中に見つけてくれたのだと思います」
4月には、「チョーズン・ファミリー」をエルトン・ジョンとのコラボバージョンでリリース。本来この曲は、性的マイノリティのクイアたちが血縁者以外と深い人間関係を結ぶことへの祝福の歌だ。だが捉え方によっては、異性のカップルや養子縁組の親子にも当てはまる。「シンプルな歌詞」とリナは言うが、明確な言葉で強く肯定し、美しい歌に昇華させた彼女の功績は限りなく大きい。
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英国の音楽賞をも動かした、赤裸々で強い言葉と熱意。
『SAWAYAMA』は高評価ながらも、昨年、イギリスの権威ある音楽賞ブリットアワードにノミネートされなかった。その理由は、彼女が英国籍ではなかったから。リナはその失意を隠すことなくツイッターで表明。そして「ピクセル」と呼ばれるファンたちは、「サワヤマ・イズ・ブリティッシュ」というハッシュタグで彼女を支援した。今年になって、賞を運営する英国レコード産業協会は、リナとの話し合いをもとにその規定を変更。リナの言葉と彼女に同意する人々の熱意が権威を動かし、「ブリティッシュ」とはイギリスのパスポートを持つ人たちだけではないという新たな概念をも生み出した。
「大学で政治学を専攻していたこともあるけれど、ロンドンでは率直に意見を述べる友人たちに囲まれて過ごしてきました。それが、自分にとって大切な事柄は、もっとも効果的な方法で周りに伝えていくことが大事だ、という考え方に繋がっています」
彼女が美しいと感じる女性は、「私の母や祖母のように、自分をまっすぐに見つめながらもパワフルで、他人の声にも注意深く耳を傾ける人たち」。苦悩や葛藤に研磨されて、さらに光り輝くリナの感性。そこから紡がれるストーリーに、これからも耳を傾けていきたい。
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Dynasty
And if that’s all that I’m gonna be
Won’t you break the chain with me?
…………「Dynasty」
Dynasty
いずれ私もそうなるのなら
この連鎖を一緒に崩さない?
「Dynasty」エイベックス デジタル配信のみ
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Not never naturally negative,
No I don’t wanna be that girl again,
cos I’ve been done and been
through more friends
Than I can count on my fingertips
…………「STFU!」
「生来のネガティブ」になんてもう2度となりたくない
あの時の自分には戻りたくないから あまりにもたくさんのことを超えて
両手じゃ数えきれないほど 多くの人を通り過ぎてきた
「STFU!」エイベックス デジタル配信のみ
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We don’t need to be related to relate
We don’t need to share genes or a surname
You are, you are
My chosen, chosen family
…………「Chosen Family」
共感のための共感はいらない
苗字や遺伝子を共有しなくたっていい
あなたは あなたは
私のチョイス 選ばれた家族
「Chosen Family (with Elton John)」エイベックス デジタル配信のみ
1990 年、新潟県生まれ。幼い頃に家族とロンドンへ移住。7歳から作曲を始め、ケンブリッジ大学卒業後に活動スタート。作詞作曲、MVも自ら手がける。ファーストアルバム『SAWAYAMA』(エイベックス ¥2,970)が発売中。
*「フィガロジャポン」2021年7月号より抜粋
text: Miyuki Sakamoto