注目アーティスト、スゥ・ドーホー新作展を体験しよう。

Culture 2018.06.14

移動と境界を追体験させる、軽やかな「家」。

『スゥ・ドーホー:Passage/s パサージュ』

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『Hub, 3rd Floor, Union Wharf, 23 Wenlock Road, London, N1 7ST, UK』。ロンドンの自宅フラットを正確な原寸大で細部まで再現。

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『コーズ・アンド・エフェクト』2008年。高さ9mの展示室に常設された所蔵作品。樹脂の人形のオレンジから深紅へのグラデーションが光を透過し、冬は屋外の雪景色に映えてことのほか美しい。

 韓国生まれのアーティスト、スゥ・ドーホーが最初に世界的に注目されたのは、2001年のヴェネツィア・ビエンナーレだった。膨大な数の小さな人形たちが万歳してガラスの床板を支えるインスタレーションに気付いて、思わず申し訳なくなってしゃがみ込んだものだ。

 数万体におよぶ樹脂製の人形彫刻を集積し、個人と集団の関係性を探るスゥの代表的なシリーズは、十和田市現代美術館にとって自慢の常設展示のひとつでもある。健気に肩車をしあう夥しい数のフィギュアが巨大なシャンデリア状に連結されたこの美しい作品には、生と死が表裏一体の関係で連綿と繰り返されていくという、輪廻転生の考え方が表現されている。

 本展ではもうひとつの代表作であり、彼が「スーツケース・ホーム」と呼ぶシリーズの最新作を発表する。自宅を精密に採寸し、半透明の薄い布を縫製して、ソウルの生家やニューヨークのアパートを原寸大で再現する彫刻作品だ。スーツケースに入れて持ち運びできて、ひょいと吊ればどこにでも設置できる軽やかな「わが家」は、作家がこれまで住んだ空間の愛着のある手触りや日常の習慣を蘇らせる。ソウル、ニューヨーク、ロンドンを拠点とするスゥは、異なる文化間を移動する時、「僕自身の思いや記憶がそれぞれの家の壁や玄関を透過して遍在しているように感じられる」と語った。旅行や引っ越し、転職のために空間を移動する時、人は自分自身のテリトリーと境界について意識させられる。蝉の抜け殻のように儚くやわらかなスゥの建築は、観るものにそんな体験をも反芻させるだろう。

『スゥ・ドーホー:Passage/s パサージュ』
会期:6/2~10/14
十和田市現代美術館(青森・十和田)
営)9時~17時
休)月(8/6、13は開館)
一般¥800

●問い合わせ先:
tel:0176-20-1127
http://towadaartcenter.com

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*『フィガロジャポン』2018年7月号より抜粋

réalisation : CHIE SUMIYOSHI

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