銀座メゾンエルメスが、ポエティックな光学装置に変貌。

Culture 2019.11.10

光学装置に見立てた空間と「見ること」の儚さ。

『「みえないかかわり」イズマイル・バリー展』

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『Nest』2018年。8ミリカメラのフィルムロールに見立てたガムテープに映る光の帯が、地中海を望むチュニジアの記憶を出現させる。

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『Apparition』2019年。レンズの前に設置された紙片に映り込む陰影からチュニスの街の風景を見る。

 1978年にチュニジアの首都チュニスで生まれ、現在チュニスとパリを拠点に活動するイズマイル・バリー。写真や映画の原理をもとにした精緻な視覚実験やミニマルな儀式的行為から生まれる物理現象を通して、「見ること」の儚さを問いかける作品を発表してきた。
 この春、彼が初参加した京都国際写真祭では、二条城の御清所の空間を「カメラ・オブスキュラ」(世界最古の光学写真機)に見立て、いにしえの古都の風景と共振させた。木造建築ならではの引き戸や杉板の壁の隙間から差し込む、微かな自然光だけを頼りに観る作品群は、世界の摂理に向き合う静かな確信に満ちていた。

 たとえば、壁に貼った一枚の和紙にスリットが出現し、光がその存在を示す。つむじ風に翻弄された雑草は、水たまりに放物線の動きを描く。揉みしだかれ皺になっていく雑誌のページからインクが手に移り、印刷された像は消えていく。見えない糸がその上を伝う水滴のたわみにより瞬間的に形を現す。このように、光と空気のわずかな震えを敏感に捉え、事物の本質を浮かび上がらせる作品は、「見える」ことに慣れて弛緩した感覚を呼び覚まし、私たちの思考と所作を丁寧に導いてくれる。

 本展でも、銀座メゾンエルメスのガラスの建築は、外部の世界を取り込み、ある種の光学装置へと変貌する。地中海を行き来しながら独自の作品世界を紡いできた、バリーの詩的な哲学を囁きかける空間になるはずだ。

『「みえないかかわり」イズマイル・バリー展』
会期:開催中~2020/1/13
銀座メゾンエルメス フォーラム(東京・銀座)
営)11時~20時(日は~19時)
不定休
入場無料 

●問い合わせ先:
tel:03-3569-3300
www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza

※『フィガロジャポン』2019年12月号より抜粋

réalisation : CHIE SUMIYOSHI

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