日本の美術館で初個展を行う、ヤン・ヴォーとは。

Culture 2020.07.29

展示空間が語り始める、芸術家の人生と歴史。
『ヤン・ヴォー ーォヴ・ンヤ』

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『All work』2019年展示風景画像(第58回ヴェネチア・ビエンナーレ、2019年)。ヴォーが絵画を学ぶことを止めた恩師によるミラーペインティングは、彫像の断片のように鑑賞者の身体の一部だけを映し、人格や来歴の多面性を示唆する。

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ドイツのヴォーのスタジオ風景。

1975年ベトナムに生まれたヤン・ヴォーは、4歳の時に父の手製のボートで祖国を脱出した。デンマークの貨物船に救助され、難民キャンプを経てコペンハーゲンに定住した一家の苦闘は想像を絶するが、世界的アーティストとなったヴォーの作品世界は、その壮絶さの片鱗と艶やかな静けさをともに纏っている。たとえば、古代ローマの大理石像や木製の聖像が切断されて台座に設えられたり、木箱やスーツケースに詰め込まれた作品は、西欧の覇権主義の影響を詩的な表現で仄めかす。

日本の美術館で初となる個展では、彼自身の個人史と世界各地に眠る歴史的記憶の断片を接続し、交差させる。星条旗や家具などのオブジェや、ホワイトハウスの便箋にしたためられた手紙や古きよきベトナムの写真といった作品が展示され、ベトナム戦争を推し進めた米国防長官ロバート・マクナマラの遺族との協働により制作された作品も点在する。また壁面には、コラボレーターでもある父親によるパンクスピリットに満ちた辛辣なカリグラフィーや、恋人のハインツがヴォーのミューズである甥を撮影した写真、恩師による鏡の絵画といった親密な人たちの作品群を通して、ヴォー自身のアイデンティティやセクシュアリティを浮かび上がらせる。さらに社会的立場や性的指向の異なる鑑賞者の多様な視点が、ひとりの芸術家の人生の綴れ織りでもあるこの展示空間に、新たな物語を語らせ始めるのだ。


『ヤン・ヴォー ーォヴ・ンヤ』
会期:開催中~10/11
国立国際美術館(大阪・中之島)
営)10時~17時
休)月、9/23  ※9/21は開館
料)一般¥1,200 

●問い合わせ先:
tel:06-6447-4680
www.nmao.go.jp

※この記事に記載している価格は、標準税率10%の税込価格です。
※新型コロナウイルス感染症の影響により、開催時期および開館時間が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。

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*『フィガロジャポン』2020年9月号より抜粋

réalisation : CHIE SUMIYOSHI

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