美しき画家アルテミジア。
その人生と作品に触れる展覧会へ。

Culture 2012.05.02

icon_paris.jpg 大村真理子の今週のPARIS

 パリ市内、美術館は多々あれど、女性に人気のプログラムでヒットを飛ばし続けているのはマイヨール美術館だ。マイヨールは男性彫刻家だが、創立したのは彼のモデルを勤めたディアナ・ヴィエルニー。女性による女性のための美術館ということだろうか。現在は7月15日まで開催の「アルテミジア」展が、女性たちを集めている。サブタイトルはなんとも頼もしく「女性画家の能力、栄光そして情熱 1593/1654」。作品の展示は約40点と小規模ながら、見応え十分の展覧会だ。

120502news1.png「リュートを弾く自画像」。1615~1619年の作品なので、20代前半の姿ということになる。美しく官能的。画家といえば男性という時代に初の女流画家として名をなすことになる、強い意志と情熱の持ち主である。©Curtis Galleries, Minneapolis, Minnesota

 画家オラツィオ・ジェンティレスキを父にローマに生まれ、23歳にしてフィレンツェの芸術院で初の女性会員に迎えられたアルテミジア・ジェンティレスキ(1593~1654)。彼女を主人公にしたアニエス・メルレ監督「アルテミジア」は日本でも1998年に公開されている。「青いパパイアの香り」の美しい映像で知られたブノワ・デロムが撮影していて、色彩、明暗法に優れた絵画を残したカラヴァジオ派の画家を語るに相応しい作品だ。これを見て彼女の仕事、人生に興味をもった人もいるのではないだろうか。

 アルテミジアが描くのは多くは歴史、聖書の女性たち。同じテーマで何作か描いているものがある。例えば 「ホロフェルネスの首を斬るユディット」(1612年)、「ホロフェルネスの首を持つユディットと侍女」(1617~18)、同タイトル(1645~50年)、そして彼女の作品だろうとされる「ホロフェルネスの首を持つユディットとアブラ」(1607~10と、今回4点展示されている旧約聖書外典の登場人物ユディットだ。暴力ですべてを屈し、街を征服しようとする将軍ホロフェルネスに対し、我が街を救うべく自らを犠牲にして立ち向かった信仰心の厚い寡婦である。彼女は自分の美しさを利用してホロフェルネスを誘惑し、彼と一夜を共にする。酒の酔いも手伝って彼が深い眠りにおちたとき、短剣でその首を斬りおとし、街を救うという物語である。

120502news2.pngユディットとホロフェウスの物語を題材にした作品を何作も残している。(左から時代順)。1607年~1610年頃の「ホロフェルネスの首を持つユディットとアルバ」。© Mauro Coen /1612年頃の「ホロフェルネスの首を斬るユディット」はナポリのカポディモンテ国立美術館所蔵。フィレンツェのウフィッツィ美術館が所蔵するのは1620年頃の似た構図の作品だが、ユディットは黄色のドレスで左腕にブレスレットをはめている。© Fototeca Soprintendenza per il PSAE e per il Polo museale della città di Napoli /1617~18年頃の「ホロフェルネスの首を持つユディットと召使い」。© Studio Fotografico Perotti, Milano/Su concessione del Ministero per i Beni e le Attività Culturali /1645~50年頃の「ホロフェルネスの首を持つユディットと召使い」© Musée de la Castre, Cannes/Photo Claude Germain

 アルテミジア以前にも同じ題材の絵画を描いた作家はいるが、男性の視線でそれらは描かれている。つまりか弱く描かれていたり、あるいは妖婦のようなユーディットだ。アルテミジアのユーディットはというと、強い意志を感じさ、行動する女性。画家といえば男性に限られていた17世紀に、絵の道を選んだアルテミジアのフェミニストの視線がここにある。

 怖じ気づく気配もなく、屈強な男の首を斬るユーディット。そこに、男性に対する彼女の復讐心という解釈が加えられて解説されることが多い。というのも、アルテミジアの知名度は、あいにくとその才能だけが理由ではないからだ。15歳のとき遠近法を学ぶべく弟子入りした父の友人の画家タッシと、半ばレイプされるように彼女は関係を持つ。結婚の約束もあり、二人の仲は続くのだが、3年たったところで父が友を訴え、裁判となる。その過程でタッシが妻帯者であること、さらに妻の妹との姦通,その他の悪事が次々と露見してゆく一方で、彼女のほうは屈辱的な身体検査や厳しい拷問を受けるはめに。アルテミジアという画家を語るとき、彼女の作品を語るとき、この過去が常に引き合いに出されるというわけだ。

120502news3.png「ダナエ」は1612年頃の作品。© Saint Louis, The Saint Louis Art Museum /「水浴するシュザンヌと老人たち」。これは1650年頃の作品。© Archivio Fotografico del Museo Biblioteca e Archivio di Bassano del Grappa /1635年頃の「クレオパトラ」。© Collection particulière

 裁判後、彼女は画家と結婚してフローレンスに引っ越す。この1613年から、 宮廷、貴族からの注文をうけるなど、画家として知名度をあげてゆくのだ。1621年にローマに戻り、その後、ヴェニス、ナポリで活動を続け、61歳で亡くなる。会場には裁判以前の作品も少し展示されているが、展覧会のメインとなるのはフローレンス以降の作品である。蛇に咬まれて自害するクレオパトラ、水浴を覗いた二人の長老から脅されることになるシュザンヌ、水浴姿を王ダヴィデに見初められる人妻バテシバ、黄金の雨に変身したゼウスによって身籠るダナエ・・・西欧の絵画でよくとりあげられるこうした題材は、物語を先に知っているとより興味深く鑑賞できるかもしれないが、予備知識なしでも、光と影のコントラストの美しさ、それが描き出すドラマ・・彼女の作品は十分に堪能できる。

120502news4.png「水浴するバテシバ」。左は1636~39年頃の作品。© The Matthiesen Gallery Londres 右は1640~45年頃の作品。後方の宮殿に姿をみせているのは、水浴するバテシバに惚れ込む王ダヴィデ。その後、王は彼女の夫を戦に送りこんで亡き者とし、彼女を妻にする。© Photo Courtesy Sotheby's, Milano

 複数の美術館、個人から集められたアルテミジアの作品。これだけが一堂に会する機会は滅多にない。美術館はデパートのボン・マルシェから徒歩5分くらいなので、買い物の前に寄ってみるのはどうだろう。

Artemisia 1593/1654 Pouvoir, gloire et passions d'une femme peintre
期間:~7月15日まで(休館なし)
Musée Maillol
61, rue de Grenelle 75007 Paris
開)10時30分~19時(金~21時30分)
料)11ユーロ
www.museemaillol.com
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