プルーストに導かれ、ベルエポックのサロンの香りに酔う
Culture 2012.11.07
大村真理子の今週のPARIS
ベルエポックのサロン。そこにはどんな香りが漂っていたのだろう。調香師フランシス・クルクジャンがイメージしたのは、イランのバラ、フローレンスのアイリス、モロッコのジャスミン、そしてアルデヒドにアンバーの組み合わせ。淡い色のシルクのドレス、パールのジュエリーといった上品なフェミニティを想起させるクリエーションである。
左 ジャック・エミール・ブランシュによるプルーストの肖像画を使った展覧会のポスター。© RMN (Musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski© ADAGP, Paris 2012
右 展覧会場には、1971年にロスチャイルド家がパリ郊外に所有する19世紀建築のフェリエール城で開催した「プルーストの舞踏会」でエレーヌ・ロシャスが着たイヴ・サンローランのクチュールドレスも展示されている。© Luc Castel
この香りはピエール・ベルジェ イヴ・サンローラン財団で現在開催中の「ジャック・エミール・ブランシュ家の方へ ベルエポックのサロン」展のために特別に創られたもの。 ディフューザーからのほのかな香りが展覧会場を包み込み、来場者を香りの点でもその時代に誘い込むという仕掛けである。幼少期から始めたピアノを今も趣味とするフランシスは、15歳まではクラシック・バレエをオペラ座のバレエ学校で学んでいた。フランス文化を深く理解する調香師の彼は、このクリエーションにはまさに適役といえよう。
フランシス・クルクジャンによる香りはキャンドル3本セット(25ユーロ)で販売されいてる。photo Frédérick Cornuault
展覧会のタイトルはマルセル・プルーストの小説「失われた時を求めて」の中の章の「スワン家のほうへ」をもじったもの。ジャック・エミール・ブランシュ(1861〜1942)は、プルーストがこの小説で描いた、第一次大戦前のベルエポックの華やかなりしパリ社交界を現実に生きた画家である。彼の父親は精神科医として、またモーパッサンの主治医として有名で、16区にドクトゥール・ブランシュ通りに名を残しているほど。ジャック・エミールもこのブルジョワ地区である16区の生まれだ。
ベルエポックの男女の粋が読み取れる肖像画の数々。ジャック・エミール・ブランシュが親しくしていた作曲家ストラヴィンスキーやバレエ・リュスに捧げた一部屋もある。© Luc Castel
画家となったジャック・エミールはパリとノルマンディー地方のディエップで、サロンを開いていた。彼が描いた知古の文化人や貴族たちの肖像画は、いってみれば「失われた時を求めて」のビジュアル版である。といっても、この長い小説を読破したという人はそう多くはないだろう が。展覧会は壁に絵を掲げるだけではなく、会場の内装にジャック・エミールのサロンの雰囲気を再現している。デコレーターのジャック・ガルシアは大きなスペースをアパルトマンのように複数の部屋に仕切り、シャンデリアを飾り、壁を当時らしいグレーに塗って・・と。そこにピアノ曲が流れ、フランシス・クルクジャンによる香りが漂えば、この時代にトリップできること、間違いなしである。
左 ジャン・コクトー(1913年) © Musée de Grenoble © ADAGP, Paris 2012 。この絵を描く3年前に、ジャック・エミールは若きコクトーと出会い、彼の知性とユーモアにすっかり魅了された。その時から長きに渡る友情が始まる。
中 プルーストの小説「失われた時を求めて」のゲルマント公爵夫人のインスピレーション源の一人といわれるマルグリット・ドゥ・サン・マルソー(1890年)。モスリンのドレス、毛皮、パールのジュエリーを装い、優雅そのもの。© Jane Roberts Fine Arts, Paris© ADAGP, Paris 2012
右 「サー・コルリッジ・ケナードの肖像」あるいは「ドリアン・グレーの肖像」(1904年)。© Jane Roberts Fine Arts, Paris © ADAGP, Paris 2012
Fondation Pierre Bergé - Yves Saint Laurent
3, rue Léonce Reynaud
75116 Paris
Tel 01 44 31 64 00
開館 11時〜18時
休 月・祝
入場料 7ユーロ
2013年1月27日まで
www.fondation-pb-ysl.net




