Culture 連載

きょうもシネマ日和

フランス映画界の名匠フィリップ・ガレルが放つ激しく悲しい恋物語

きょうもシネマ日和

120622mic1.jpgキャロルにカメラを向けているフランソワ

仏映画好きな方なら、彼の新作を待ちわびていた方も多いであろう、名匠フィリップ・ガレル。なんと10 代の頃に監督デビュー、"ヌーべル・バーグの恐るべき子供""ゴダールの再来"との呼び声高く、カトリーヌ・ドヌーヴは「人生経験が豊富なしたたか者。彼との撮影は目の眩むような体験」と絶賛。まさにフランス映画界の為に生まれてきたようなガレル監督の新作が2本続けて日本で上映される運びとなった。

そして今週末から公開される1本目の『愛の残像』は、現実から離れ"愛"だけに浸ることの出来る、さすがガレル監督、フランス映画らしいフランス映画だった。(←どういう意味かは後ほど説明します!)

120622mic2.jpg「本当に激しく愛し合えば一つになれる」「愛が終わればその存在が消えるだけ」まるで詩のようなセリフの連続にうっとり。こうした会話を堪能できるのも仏映画の魅力です。© 2008-Rectangle Productions / StudioUrania

◆ストーリー

舞台はパリ。写真家の青年フランソワと人妻で女優のキャロルは出逢って間もないうちに恋に落ちてしまう。激しく愛し合う2人だが、ハリウッドにいたキャロルの夫が一時帰国した頃から、2人の関係はギクシャクし始める。そしてキャロルはフランソワへの愛情からある行動を取り・・・。

まず、"パリでカメラマンの青年と人妻の女性が恋に落ちる"という設定だけで何だか甘美な香りがしてきそうだ。そして本作は私の期待を裏切らない。冒頭で登場するカメラマンのフランソワったら、アンニュイにカットされたくり毛に強い眼差し、すらりと伸びたカラダに胸元の開いた白いシャツ。こんな姿でファインダー越しとはいえ見つめられたら、人妻なら誰もが自分に夫がいることを一瞬にして忘れるだろう。

だが、フランソワに撮影をお願いしていたキャロルは一度は自宅に招いておきながらも「やっぱり今は嫌。別の場所でやり直させて。」と少々不機嫌気味に追い返す。そして、次回は雰囲気のある別の部屋で撮影を行い、その場で2人は恋に落ちてしまうのだ。そんなくだりから、これから彼らはどうなるのだろうと一気に引き込まれていくのだが、実は次々と予想の出来ない展開へと転がっていく。

120622mic3.jpgフィリップ・ガレルの息子、ルイ・ガレル。6歳で映画デビュー。ベルトリッチ監督の『ドリーマーズ』で一躍有名に。© 2008-Rectangle Productions / StudioUrania

◆フィリップ・ガレルが描く愛のカタチ

本作は、フィリップ・ガレル監督の亡き友人、画家のフレデリック・パルドがくれた『スピリット』という本からインスピレーションをもらったのだという。タイトルにもなっている「魂」の存在をモチーフに、監督は"生と死""夢と現実"を超越する愛を描くことに挑戦した。といってもスピリチュアル系の物語ではない。主人公フランソワが"愛の残像"に苦しみ、ラストの決断に至るまでの愛の道のりを描いているのである。(ストーリーをあまり明かしたくない為、抽象的な表現でごめんくださいませ)

それにしても、本作を見終わると愛とは何ぞや?・・とつくづく考えさせられる。というのも「キャロルを永遠に愛する」と誓ったフランソワなのだが肝心なところで笑えるくらい及び腰。とはいえ、彼女が離れたらどうしようもなく会いたくなって、結果、愛に振り回され・・・。ふと日頃、東京砂漠で働くニッポン人女性の視点から彼を見ると、「結婚相手としてはムリ!」とドライな決断を下してしまいそうになるが、映画の中の彼はその退廃的なセクシーさがこの上なく魅力的で、やはり夫がいることを(そもそもいないけど)忘れてしまう。そして、彼の背負わなくてはならない運命と狂おしい愛に苛まれる姿を通して、観客はきっと様々な真実を発見することになる。

120622mic4.jpgキャロル役のローラ・スメット。81年生まれの若手実力派女優。母親のナタリー・バイはゴダールの『勝手に逃げろ/人生』トリュフォーの『緑色の部屋』などに出演。© 2008-Rectangle Productions / StudioUrania

◆実の息子、ルイ・ガレルとジョニー・アリディの娘ローラ・スメットの共演

フィリップ・ガレル監督といえば、70年代にヴェルヴェット・アンダーグラウンドの歌姫・ニコと結婚。彼女と一緒に前衛的な作品を世に送り出してきた。ニコとの別離後も、ニコとの関係を題材にした作品や、ジャン=ピエール・レオ、カトリーヌ・ドヌーブら名優たちを起用し、様々な愛を私たちに見せてくれた。

そして、本作では主人公のフランソワ役に実の息子、ルイ・ガレル、キャロル役にフランスの国民的歌手ジョニー・アリディと女優ナタリー・バイの娘であるローラ・スメットをキャスティング、2人の危うく、それでいて甘い輝きを放つ関係性は何とも魅惑的。その上、全篇モノクロ映像&彼らの心情を表すかのようなバイオリンとピアノの不協和音が、彼らの繊細な関係性をますます浮き彫りにするのだから、観る者は突きつけられた"愛"と対峙せずにはいられないのだ。

120622mic5.jpgフィリップ・ガレル監督は本作について「芸術とは人に生きたいと思わせるものです。私を救ってくれたのは悲劇的な芸術でした」と語っている。本作をご覧になるとその意味が心に沁みてくるはず・・。© 2008-Rectangle Productions / StudioUrania

そう、冒頭で私がフランス映画らしいフランス映画と書いたのは、そこにある。フィリップ・ガレル然り、これまでの仏映画界の巨匠たちはモラルや現実とは離れたところで、溺れるほどの、時には受け取れないくらい愛を目の前に突きつけてくれる。

折しも、今は6月、ジューンブライドの季節。女性としては"永遠の愛"について深く考える時期とも言える。現実のあれやこれやは一旦置いておいて、フィリップ・ガレル監督の描く濃厚で、美しくも悲しい愛に身を浸してみてはいかがだろうか。

『愛の残像』
●監督/フィリップ・ガレル
●出演/ルイ・ガレル、ローラ・スメット
●2008年、フランス映画
●配給/ビターズ・エンド
●108分
http://www.bitters.co.jp/garrel-ai/
6月23日(土)よりシアター・イメージフォーラム(03・5766・0114)にて公開。
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