Culture 連載

きょうもシネマ日和

今ある幸せは当たり前じゃない、を知る『希望の国』『フタバから遠く離れて』

きょうもシネマ日和

1.jpg映画『希望の国』より、園子温監督最新作、原発により翻弄される様々な男女の姿が描かれる。園作品のミューズ、神楽坂恵も出演。


以前、カフェに入っていたら隣の女性達からこんな話が聞こえてきた。

A「この前さぁ、官邸前通ったら凄い人だかりで〜」

B「あ〜それ、デモだよ、デモ!原発反対のデモやってるんだよ、知らないの?」

A「あ〜だからか〜知らなかった!それにしても何で金曜日の夜にやってるわけ!??」

B「毎週だよ、毎週金曜日の18時くらいから!だから私金曜はそこ通るの避けてるもん。金曜の夜だと集まりやすいんじゃない?」

A「そっか、その後に皆で飲みに行ったりするのかなぁ。翌日休みだし、みたいな(笑)!」 


正直驚いた、こんなに無関心なんだ。。。そして、デモに行ったことのない私が、おこがましくも怒りさえ覚えてしまった。必死で自分の子どもや国を守ろうとアクションを起こしている人がいるのに!と。と、思いつつ、実は私も似たり寄ったりなのかも知れない。

原発、、、できれば向き合いたくないテーマだ。だって何だか暗い気持ちになるし解決の糸口も見えないし、ニュースで知れば知るほど関係している大人達のイヤな所ばっかり見えてきて、テンションが下がる。無くて済むなら無い方がいいと思うけど、反対運動まで起こすほどの判断力と原動力が自分にはない、、。

なんて、中途半端モヤモヤし続けている時に出会ったのがこの2本だ。



■■『希望の国』■■

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本作は、『愛のむきだし』『ヒミズ』など新作を発表する度に国際映画祭から注目を浴びてきた園子温監督の最新作。東日本大震災から数年後の日本を舞台に新たな地震と原発事故に翻ろうされる家族の姿に迫っている。どちらかというと衝撃的な映像やエロティックさから男性ファンの方が多かった園監督だが、本作では現代の社会を切り取る一面を見せながらも、家族や愛する者同士のつながりをまっすぐに描き、既に観た女性の多くから感動の声が寄せられている。


◆ ストーリー

舞台は、東日本大震災から数年後の長島県(架空の県)。酪農を営む小野泰彦(夏八木勲)は、妻・智恵子(大谷直子)と息子・洋一(村上淳)、その妻・いずみ(神楽坂恵)と幸せな毎日を送っていた。隣に住む鈴木健(でんでん)と妻・めい子(筒井真理子)も、恋人・ヨーコ(梶原ひかり)と遊んでばかりいる息子・ミツル(清水優)に文句をいいながらも仲良く生活していた。しかしある日、長島県に大地震が発生、続いて原発事故が起きる。それぞれの夫婦、恋人たちは、この日から原発による様々な問題に翻弄されることになるが。。。


3.jpg今後も311をテーマにした作品を撮り続けると宣言した園監督、既に福島県での撮影を開始している。

園監督は、主演の2人に第68回ベネチア国際映画祭の最優秀新人俳優賞をもたらした『ヒミズ』(12)でも3.11を扱ったが、本作に向けて被災者に取材をし、真摯に脚本に投影し物語を練り上げたのだという。実際、舞台は架空の地としながらも被災地で撮られており、その生々しさや絶望感はスクリーンに溢れていた。

が、どんより暗い気持ちになる前に物語に引き込まれていくのは、登場人物たちがそこから愛を育んでいく姿があるからだ。愛すべき両親を置いて離れなくなってはいけなくなった夫婦、原発の爆発したこの土地で暮らし続けることを決めた老いた両親、、彼らの言葉で言い表せない愛の軌跡がマーラーの交響曲第10番第一楽章「アダージョ」の調べと共に紡がれてゆく。

4.jpgこの度、第37回トロント国際映画祭 最優秀アジア映画賞を受賞した。

とりわけ、この土地に残ると決めた老夫婦、日本の名バイプレイヤー夏八木勲と「ツィゴイネルワイゼン」ほか数々の名作に出演してきた大谷直子の演技が素晴らしく、心が少女のままの妻・智恵子を演じた大谷直子は、フェリーニの「道」に登場するジェルソミーナのようだった。

本作は、テーマだけを取り上げれば社会派作品に思えるかも知れないが、れっきとしたラブストーリーでもあると思った。

今年9月7日(現地時間)、第37回トロント国際映画祭コンテンポラリー・ワールド・シネマ部門でワールドプレミア上映され、満員の客席から拍手喝さいを浴びた本作だけに、今週末の日本公開も注目が集まっている。

『希望の国』
監督・脚本: 園子温
キャスト:夏八木勲、大谷直子、村上淳、神楽坂恵、でんでん、筒井真理子、清水優、梶原ひかり
http://www.kibounokuni.jp/
10月20日(土)よりロードショー





■■ドキュメンタリー『フタバから遠く離れて』■■

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続いて本作は、原発から3キロのところに立地している双葉町の人々のドキュメンタリーだ。彼らは、3月19日に役場機能を250キロ離れた埼玉県に移し、避難住民のうち約1200人も一緒に移動した。さらにその後、3月末に、映画の舞台となった同県の廃校(加須市/旧・騎西高校)に再び移動した。以来、現在にいたるまで人々は教室で暮らし、子供達はここから近所の学校へと通っている。故郷の町は今も警戒区域に設定され、民間人には立ち入りが禁止されたままだ。


sub3_large.jpgエンディングテーマ曲「for futaba」を坂本龍一が書き下ろしている。


◆騎西高校で暮らす方々の姿

実は私は、震災後の騎西高校を訪れたことがある。

避難している子供達の絵本の読み聞かせを某NPO団体の方からオファー頂き、尋ねたのだった。その時、校舎の入り口(そこからは避難された方々のお部屋)には「ここからは立ち入り禁止。撮影も禁じます」と書かれていた。その時、この方々は日々どんな暮らしをされているのだろう、、と一生懸命想像したものだった。

本作では、カメラはその中を追っていた。おばあちゃんが寝ている姿、おじさん達が原発に対するニュースを憤りを感じるのを露にしながら観ている姿、決して暴力的に撮るのではなく、皆さんと寄り添っていて、それらはテレビで流れるニュースよりも何倍も何百倍も真実だった。


◆ 2作への個人的な想い

sub4_large.jpg好評につき上映期間が延長された。〜11月9日までの限定ロードショー、被災された方は無料(詳しくはオーディトリウム渋谷のサイトにて)

私は当初、本作で感じたことを丁寧に書こうと思っていた。が、思いとどまることにした。何だか、そういう事じゃ伝わらないような気がしてきた。

とにかく観てみて欲しい。って、これじゃダメだろうか(笑)。『希望の国』や『フタバから遠く離れて』を見ると、今までどーんと暗い気持ちにさせた原発問題が、そうじゃなくて、何というか他人事でもなくなるし、いや、というより、自分だったらどうする?って何度も思う。その問いは自分の人生の方向性や大事にしたい事を確認するのに、ものすごく役に立つ。そして、今もこうして仮設で暮らしている方の事を身近に感じることできて、何より今の自分の生活がどれだけ脆い幸せの上に成り立っているかを痛感する。

それを知るって、ものすごく、ものすごく大事なコトなんじゃないかと思う。そして、明日からもっともっとこの日常を大切にしようと思えるんじゃないかと、そう思う。これからこの日本で赤ちゃんを産んで育てたいと思っているFIGARO読者の方はご覧頂くといいかも。いつの日か迫られるやも知れない人生の選択に、何らかの指針を与えてくれると思うから。


『フタバから遠く離れて』
監督:船橋淳 
撮影:船橋淳、山崎裕 音楽:鈴木治行 
エンディングテーマ「for futaba」作曲・演奏:坂本龍一
http://nuclearnation.jp/jp/

(C)2012 Documentary Japan, Big River Films

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