Culture 連載

きょうもシネマ日和

ジェンダーや血縁を超えた、誰も奪うことのできない"愛しい"気持ち。
『チョコレートドーナツ』

きょうもシネマ日和

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本国アメリカではトライベッカ映画祭、シカゴ国際映画祭、ウッドストック映画祭など、数えきれないほどの映画祭の観客賞を始め、映画賞を総ナメ。観る人々を感動の渦へと巻き込んだ。


先日、先輩と話していたら不妊治療の話になった。ずいぶん前から、産婦人科に通っているのだという。「もう、本当にお金(治療費)がバカにならないの。精神的にも落ち込むし、年齢的にも色々考えちゃって。もうひとつの選択肢として、養子縁組もいま調べているところなのよ」。うーん、閑静なマンションに暮らし、優しい旦那さんもいて(帰り遅いけど)、料理上手、その上愛情たっぷりな先輩......。私が赤ちゃんだったら真っ先に先輩の子宮目指して飛び込むのに! とはいえ、こればかりは人間のちからではどうにもならないようだ。

今回ご紹介する映画『チョコレートドーナツ』にも、先輩同様、養子縁組をして子供を育てたいと熱望する主人公ルディがいる。ただ、少し違うのは、彼が引き取りたいと思っているのはダウン症の14歳の子供で、愛する相手は自分と同じ男性、そして、話が何かと複雑だということ。

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劇中で流れる1970年代の音楽も主人公のひとり。全米で当時ディスコチャート1位を獲得したフランス・ジョリの「Come to me」など、ルディのポールへの気持ちを代弁するシーンも。ポール役はギャレット・ディラハント。


◆ ストーリー

1979年、カリフォルニア州ウエストハリウッド。
主人公ルディは、シンガーを夢見ながらも、きらびやかな衣装を身にまとって"口パク"で歌いながら踊るダンサーとして、ショーに出演していた。そのバーにやってきた弁護士のポール。彼らはすぐに惹かれ合い恋に落ちた。そんなある日、ルディは同じアパートで暮らすダウン症の少年マルコがひとりでうずくまっているのを発見する。薬物依存症の母親が彼を置いて出て行ったのだった。ルディは不憫なマルコを何とかしようとポールに相談するのだが......。


◆ 実話をベースに描く、求めること、守ること、愛すること

本作は実話から生まれた。そのシナリオを読んだトラヴィス・ファイン監督は崩れ落ちて涙を流したという。その後、リライトを重ね映画化することを決意。

シンガーを目指しながらもショーダンサーとして日銭を稼ぐルディ、高い志を持ちながらゲイであることを隠す弁護士、両親の愛を知らないダウン症のマルコといった、世間的には"マイノリティ"な3人が、社会の偏見や悪意にさらされながら前を向いて生きようとする姿を通して、ジェンダーや立場、境遇を超えた"愛"を優しくも力強く描ききっている。

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アラン・カミングの出演作といえば『Emmaエマ』『スパイ・キッズ』3部作、『マスク2』『バーレスク』等。現在日本でもOA中の海外ドラマ『グッド・ワイフ』にも、イーライ・ゴールド役で出演、味のある演技にファン多し。


◆ アラン・カミング、圧巻の演技

特筆すべきは、アラン・カミングの演技。彼は1998年にリバイバル上演された『キャバレー』のMC役が絶賛され、トニー賞、ドラマ・ディスクアワードを受けた実力派。本作では、『ヘドウィク・アンド・アングリーインチ』の主人公を彷彿とさせる繊細さをまといながらも、時には大胆なパッションと、そして深い愛情を持ったルディを見事に演じきった。いや、"深い愛情を持った"というよりは、少年マルコやポールと出逢い、奥底に眠っていた深い愛情が引き出されていくさまを見事に表現してみせた、と言った方がいいかもしれない。そう、ルディの人生は口パクダンサーと同じ。自分の声を持たない空虚な日々だったのだ。そんな彼が2人に出会い、自分の声を、魂を見つける。ルディがラストで歌うボブ・ディランの「I Shall Be Released」は圧巻。観る者の心を通り越して、魂まで揺さぶろうとする。

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マルコ役を演じたのは、中学から俳優を志してきたアイザック・レイヴァ。マルコの笑顔と涙に何度も泣かされる。


◆ さいごに

LGBT(※)や両親のいない子どもたちの支援活動を行っている弁護士の山下敏雅氏は、「同性婚が認められず、ましてや子育ても認められない35年前のカリフォルニアは、まさに、今の日本を映し出しています」と述べる。

私はふと思う。人間、誰しもきっと「この人を愛するぞ! よし!」と思って、愛するわけではない。嫌なところがたくさんあったり、全然好みの顔じゃなかったりするのに、時には成就しないとわかっている相手をも好きになっちゃって、愛しちゃうのだ。この感情をコントロールできれば、世界中の悩みの7割は無くなる(はず)。愛する相手さえ自分の意思で選べない人間が、愛する相手を制限する法律を作ったり、偏見を持つって、何だか不思議だ。そして、その事で本当に大切なことが見えなくなるなんて、もっともっと不思議だ。ルディとマルコ、ポールは教えてくれる。目には見えないけれど、確かで、どこまでも揺るぎない、相手を"愛おしい"と想う気持ち。そして、それは絶対に、どんな社会や組織、偏見からも奪われることはない。私もいつの日か彼らのようになれたら、その時こそ、きっと、がんじがらめの社会から"I Shall Be Released(解放)"されて、本物の愛に巡り会えるのだと信じたい。

※LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー・トランスセクシュアルのこと。


『チョコレートドーナツ』
監督・脚本・製作:トラヴィス・ファイン
出演:アラン・カミング、ギャレット・ディラハント、アイザック・レイヴァ、フランシス・フィッシャー
配給:ビターズ・エンド
97分 原題『Any Day Now』
4月19日(土)よりシネスイッチ銀座他、全国順次ロードショー
(C)2012FAMLEEFILM,LLC
http://bitters.co.jp/choco/
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