Culture 連載

きょうもシネマ日和

あのグリム童話が神秘的で大胆な
ヒロイン像となって登場する『赤ずきん』

きょうもシネマ日和

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先日、宣伝担当のMさんからメールを頂いた。

「micさん、ディカプリオ製作で『赤ずきん』を原作に映画化された作品があるので、ぜひご覧ください」とのこと。

え? ディカプリオが赤ずきん? 思わず、彼が赤ずきんをかぶった姿を想像してしまったが、そうではなくて"プロデュース"。

私は「ぜひ!」とお答えしたものの、一瞬不安がよぎった。これまで童話に登場した狼男や人気コミックの実写化されたキャラクターを見て、およよよ・・・私のこれまでのイメージが・・・とがっくりきた経験は数知れず。

「赤ずきん」もまさかのオヨヨ体験のひとつになってしまうのでは??

しかし、それは無駄な心配だった。本作の『赤ずきん』は大人が十分に、いや疑いや裏切りという存在を知る大人だからこそ楽しめる、新しいグリム童話に生まれ変わっていた。

今更ながら、『赤ずきん』を簡単におさらいしておくと(いらない?)

小さくて可愛い赤ずきんちゃんがおばあちゃんの家にお見舞いに行くのに、狼にそそのかされ、ちょっぴり寄り道をしてしまう。すると、狼はおばあちゃんの家に先回りをして、おばあちゃんを食べてしまい、赤ずきんちゃんをうしししし、と待っている。そして、まんまと赤ずきんは食べられてしまい、後ほど、狩人が助けに来てくれましたとさ。という、そこそこシンプルなグリム童話だ。

とはいえ、途中で狼のお腹に石を詰め込んだり何気にグロテスクなシーンもある。

・・・そうだ。思い出した。グリム童話は実はけっこう残酷だったり『ヘンゼルとグレーテル』も貧しい家庭の子どもだったりと、結構へビィな背景や内容も多いのだった。そして本作は、グリム童話のダークな部分に焦点をあて、存分にイマジネーションを膨らませた仕上がりになっていた。

ここでの赤ずきんは純粋無垢な少女ではない。結婚を間近に控える美しい女性ヴァレリーだ。

しかし、その相手は自分の愛する木こりピーターではなく、村でいちばんの金持ちの息子ヘンリー。彼女は、ピーターとの逃避行を考えるも、満月の夜に実姉がオオカミに襲われ死んでしまう。このオオカミは満月の夜に現れては、人間を殺すので村中で恐れられていた。しかし、これ以上犠牲者を出してはいけないと村人たちが立ちあがるも、オオカミは人間の姿をして村に住み着いていることがわかり・・・

・・・と書くと、何だか本当におとぎ話っぽくてつまらないと思われてしまうかも? しかし、スクリーンで展開されると、知らず知らずのうちに引きこまうパワーのある作品だ。

 まず、ピーターがワイルドでかっこいいし(←そこ?)、ヒロインのアマンダ・セイフライド(『マンマ・ミーア!』『ジュリエットからの手紙』)の神秘的な美しさが森の中で引き立つ! 実は、個人的な好みとして彼女に関しては「もう少し愛嬌があればいいのになぁ・・・」と前から思っていたのだけど、いいえ、この愛嬌の無さ(でも表現力は豊か)がミステリアスで妖艶なヴァレリーにはぴったり。(資生堂のイメージキャラクターになったのも頷ける!)

そして、何より本作ならではの『赤ずきん』の世界観がパーフェクトだった。手がけたのは、日本でも大ヒットしたヴァンパイアストーリー『トワイライト 初恋』のキャサリン・ハードウィック監督。どうりで女性のハートをがっちり掴むダーク・ファンタジーに仕上がっていたわけだ。オオカミ登場のシーンは本当にドキドキするし、ヴァレリーとピーターとの恋模様にはときめいてしまうし、でもヘンリーも優しくてかっこいいのでキューンとなるし、映像もゴシックな美しさが漂って・・・と、やはり女性の心のアンテナをよく分かっている。


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0606mic_03.JPGヒロインの"赤ずきん"ヴァレリーを演じるアマンダ・セイフライドと、神父役のゲイリー・オールドマン。

また、脇役陣にも実力&個性派俳優が並び,特にソロモン神父を怪演したゲイリー・オールドマンはさすが、の一言。

オオカミを殺すことに取り憑かれる非情な神父を魅力いっぱいに演じているのだが紫色の衣装をまとった騎士姿を見ているだけでも惚れ惚れ。ここまで紫が似合う人は聖徳太子がゲイリーくらいに違いない。

作品の結末に関しては、決して明かさないよう言われているので書けないのだけど、私はまったく想像していない(=思うつぼ、笑?)ラストシーンだった。

エンディングには何にせよ、本作ではさまざまな裏切りや疑いや秘密、そして愛が描かれていて、グリム童話がここまでイマジネーション豊かな物語になって映像化されたことに純粋に楽しんでいる私がいた。


0606mic_04.JPG赤ずきんを待つ衝撃のラストとは?
©2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

最近はメッセージ性の強い作品ばかりに惹かれていた私だけれども、子どもの頃みたいに純粋にその物語に没頭する・・・という感覚を久しぶりに感じることができて新鮮だった。

それにしても、グリム童話は奥が深い。かつての絵本もいまになって読んでみると新しい気づきがありそうだし、たまには本屋さんで絵本のコーナーにも立ち寄ってみようかしら、何かイマジネーションが広がりそう。そんな休日も、シネマ日和と言えるのかも。


『赤ずきん』
●監督/キャサリン・ハードウィック
●出演/アマンダ・セイフライド、ゲイリー・オールドマン、ビリー・バーク、シャイロー・フェルナンデス、マックス・アイアンズ、ジュリー・クリスティ
●2011年、アメリカ=カナダ合作映画
●配給/ワーナー
6月10日(金)より、丸の内ピカデリー(Tel. 03-3201-2881)ほかにて公開。
http://www.akazukinmovie.jp
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