Culture 連載

Dance & Dancers

バレエレッスンDVDに注目!──『パリ・オペラ座エトワールのマスタークラス』『バレエ・ビューティフル』『ニューヨーク・スタイル・バレエ・ワークアウト』

Dance & Dancers

バレエのレッスンDVDというとジュニア向けのものが主流だったけれど、ここ数年は大人向け、中でも趣味でバレエを始めた人を対象にしたものが相次いで発売されている。

私は"今日の身体は昨日までの積み重ねの結果"なのだと思っている。
世の中にはいろーんな美容法があって、お金をかければどんどん美しくなれるようにも思えてくるのだけれども、他人の力だけで美しくなろう、なんて考えはやっぱり甘いかもしれません(きっぱり)。美しいバレリーナやダンサーたちに接する機会を通して、彼女らが毎日どんな努力を積み重ねているのかを、知ってしまった今、やはり自分の身体は自分の意識が育てるものなのだ、と実感せずにはいられないから。喩えるなら、彼女たちの身体は"バレエのトレーニング"という"鋭利なナイフを手にした彫刻家"に、日々磨かれてできあがったようなもの。あの芸術的なボディラインは、努力という習慣から創られているのだ。
それをそっくり真似することは不可能でも、エッセンスを生活に取り入れることは可能だと思う。例えばDVDは、誰でも触れられる、バレエレッスンだ。
夏休みだし、汗の季節は身体を絞るのにもいいし。オススメを3本、ご紹介したい。

■その1/感受性豊かなあなたには、珠玉のポワントワーク『イザベル・シアラヴォラ&アンドレイ・クレム パリ・オペラ座エトワールのマスタークラス バー&センター&ポワント・レッスン』

これはもう、観ているだけですごい。バレエマニア、あるいは一部の身体フェチにとっては、お宝映像とも言えるかも。

urano130730main01.jpg(c)Maria-Helena Buckley

■驚異のポワントワーク

ひと言で言うと、パリ・オペラ座のプリンシパルたちが受けているクラスレッスンを、エトワールのイザベル・シアラヴォラをモデルにして映像化したもの、なのだが、このシアラヴォラのポワントワークが"美しい"を超越して"ものすごい"のである。ほぼ完璧にターン・ナウトされた脚の、その足首から先がさらに外旋、そしてしなり具合は、まるでそこに意思を持った別の生き物が生息しているみたい。鞣すように床を掴んでは離す足裏は、硬いトゥシューズを履いているとは思えないばかりか、まるで言葉が聞こえてくるかのよう......。加えて、高い引き上げ、空気を包み込むようなポール・ド・ブラ(腕の動き)の使い方。観ているこちらも自然と背骨が伸びデコルテを開きたくなってくる。
音楽もいい。パリ・オペラ座バレエ専属ピアニストのシルヴァン・デュランがこのDVDのために作曲したというオリジナルのメロディに身体を預けると、自然と筋肉がほどけてくるようだ。

urano130730main02.jpgイザベル・シアラヴォラ氏。(c)Maria-Helena Buckley

■レッスンしながらリフレッシュ

講師のアンドレイ・クレムはオペラ座のエトワールたちに大人気のバレエ教師で、シアラヴォラはもちろん、マチュー・ガニオやオーレリー・デュポンも彼のクラスの大ファン。異口同音に「身体に無理のないとても"オーガニックな"レッスン」、と言う。
オペラ座来日公演の折には「レッスンしながらリフレッシュをしているみたいなの。内容はとてもシンプルなのですが、動くたびに疲れや毒素が排泄されていくような感覚になる。ある意味マッサージのようでもあるわ」とシアラヴォラ自身が話してくれた。

urano130730main03.jpgアンドレイ・クレム氏。(c)Maria-Helena Buckley

丸窓から零れ落ちる光に包まれたオペラ座のレッスンスタジオ、やさしく響くピアノのメロディ、そして優美なシアラヴォラの動き──。バレエのエレガンスへのイマジネーションを膨らませるには最高のレッスンDVDかもしれない。

urano130730main001.jpg■『イザベル・シアラヴォラ&アンドレイ・クレム
パリ・オペラ座のマスタークラス
バー&センター&ポアント・レッスン』

2013年フランス制作
本編72分+特典(インタビュー)40分
¥5,040(税込価格)
日本コロムビア

■その2/優雅な有酸素運動を1日15分から!『バレエ・ビューティフル』

こちらは、映画『ブラックスワン』で主演したナタリー・ポートマンをわずか1年の期間でバレリーナボディへと導いた、元ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)のダンサー、メアリー・ヘレン・バウアーズのワークアウト。もともとNYCBのダンサーたちが行っていたバレエ・ワークアウトをベースに、バレリーナとしてのベーシックな身体づくりを目的とした内容だ。

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■見た目に反してメチャクチャキツイ"白鳥"のエクササイズ

"カーディオ・ワークアウト"と"エッセンシャル・ワークアウト"の2枚組になったこのDVD。"カーディオ......"はその名のとおり有酸素運動。プリエ、タンデュ、スワンアーム、アレグロ、主にこの4つの動きをそれぞれ15分間の枠の中で繰り返し行うのであるが......。たかが15分、されど15分。真剣にやってみるとなかなかにキツイ。簡単でシンプルな動きを呼吸に合わせて反復しているだけなのだが、結構息が上がるし汗もかく。
とくに"スワンアーム"の動きは、ただ手をばたばたさせるのでなく、ナタリーのアドバイスどおりに身体の使い方を意識すると、肩甲骨や背中など普段なかなか意識しない部分はもちろん、下腹から肋骨の辺りまで腹筋をしっかり使うから、なかなかハードだ。思い出したときにこの動きだけをやってみるだけでも、腰が伸び、二の腕が絞れてくるのではないだろうか。呼吸も使うから有酸素運動効果も大、身体を脂肪燃焼モードに切り替えられそう。

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■バレリーナも実践する、ストレッチと筋トレ

"エッセンシャル・ワークアウト"は、踊るために必要とする筋力、筋肉の感覚を育てるための身体づくり。スワンアームを行うイントロダクション、腹筋、ランジ、バーストレッチ、の4つのカテゴリーで構成されやはりこちらも各15分単位。ゆっくり丁寧にとても繊細な態度で筋肉の働きに神経を傾ける。大切なのは"とりあえず動いちゃえ"と雑にやるのではなく、動かす筋肉や動きのひとつひとつに注意を向けること。身体に対してこんなにも繊細な意識を向けることって、普段あるだろうか!?
一日15分からスタートでいい、やりたいときにはどんどん組み合わせを増やして、というフレキシブルさもいい。15分からでいいなら、毎日の習慣にもしやすいではないか。やっぱり身体づくりは日々の積み重ねだからね!!

しかし、画面を見ながら運動しているとたまに嫌になっちゃうことがある。
お手本をしているメアリーと、鏡に映る自分との、あまりものギャップ......。とにかく頭が小さくて手足がとても長いメアリーは、さすが(音楽を奏でる身体の集団とも言われる、)NYCB出身の美ボディライン。
対する私は、彼女のような10頭身ボディには逆立ちしても(?)及ばない、日本代表ボディライン。
以前彼女にインタビューしたときにこのことを話すと「見た目だけに固執していては、真の美は得られません。自分の内側から自分を見つめ、磨いていくことが大切なのです」とのお答え......。
そうか、変えられない現実の中でもベストを尽くし、自分を発展させていくことができたら、それはいつか自信につながる、その自信こそがバレリーナの凛とした立ち姿、落ち着きのある優美な振る舞いの原点なのか、と理解することにした。

urano130730main002.jpg■『バレエ・ビューティフル』
「カーディオ・ワークアウト」
「エッセンシャル・ワークアウト」
2枚組¥5,040(税込価格)
単品各¥2,940(税込価格)
日本コロムビア
http://columbia.jp/balletbeautiful

■その3/踊らなくてもバレリーナのラインを手に入れたい!『ニューヨーク・スタイル・バレエ・ワークアウト(NYSBW)』

こちらも、メアリーと同じくニューヨーク・シティ・バレエのダンサーたちが行っていたトレーニングから誕生したワークアウトだ。ただこれまでに紹介した1、2と異なる点は、バレエのバーを使わないこと、そして大きな動きは取り入れず、限られたスペースでも実践可能なシンプルな動きで構成されている点。バレエと言うと、両脚のかかとと爪先を重ねて脚を交差させて立つ"5番"ポジションや、股関節を回し開いて立ちかかとが上がるまで腰を落とす"グランプリエ"という動きが必ず出てくるのだけれど、このふたつはNYSBWの中では採用されていない。なぜならこのプログラムは、ダンサーだけでなく幅広い年齢、さまざまなキャリアの人に実践してもらえることを前提にして創られているから。前述したふたつの動きは、指導者のサポートなしに間違って行うと、思わぬケガを招くこともあるのだそうである。

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■筋肉への意識を変えるだけで、ボディは変わる!

インストラクターの稲垣領子氏は大学生時代にダンスと出会い、ジャズダンスやミュージカルの舞台に立ちながら、ダンスの教師として活動、筑波大学大学院の非常勤講師を経て、さまざまなワークショップで講師を務めている。その彼女が、今から15年前に出会ったのがこのNYSBWだ。
ベーシックなバレエの動きを丁寧に繰り返す中で、姿勢、筋肉の働かせ方、呼吸と動きの調和、などにひたすら意識を向ける。派手な動きはしないかわりに、覚えやすい動きの中でとにかく筋肉の小さな動きに意識を向けながら"踊るための身体づくり"を地道に行うのだ。
しかし、このワークアウトに出会ったことで稲垣氏の身体はめきめき変わり始めたそうだ。まず、無理な負荷をかけなくとも、少ないエネルギーで効率よく動ける身体に変わってきた。その結果、太ももや腰回りなどについていたムキッ、とした太い筋肉が落ち、ボディラインがすっきり。さらには、とくにダイエットをしなくても理想の体重、サイズを維持できるようになったという。

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■心身、から身心へ

DVDの画面には、黒いコスチュームでお手本を繰り広げる稲垣氏自身がいる。クラシックのメロディに合わせてシックな映像の中で繰り広げられるエクササイズはどれもシンプルで初心者にも行いやすい。だからこそ、これまで運動になじみのなかった人でも、ゆっくりと筋肉を意識することができるのだ。また、バレリーナのように踊らなくても、バレエで使う筋肉を意識して鍛えることで、身体のラインはバレリーナ風に変化してくるらしい。
そして稲垣氏は言う。「昔から"心身"、つまり精神が身体に現れる、ということはよく言われてきました。それはそのとおりだと思います。しかし最近では"身心"という考え方も注目されています。つまり、身体が変われば気持ちも変わる。やる気のなかった人がアグレッシヴになれたり、自分に自信のなかった人が一歩前へ進むことができたり、迷いの多かった人が決断を下す勇気を持てるようになったり」。まっすぐな背筋と引き締まったウエスト、引き上がりゆったりと開かれたデコルテを理想とするバレエの基本姿勢そのままの、凛とした女性像に近づける!?
「踊ることだけが目的でなく、このプログラムを通して美しく快適な身体を手に入れることで、心の風景も開けてくるのではないでしょうか」(稲垣氏)。

urano130730main10.jpg稲垣領子氏。

私事で恐縮であるが、大人になってバレエを始めた者としての大きな反省点が"早く踊れるようになりたいと焦るあまり基本をおろそかにした"ことである。元気で生意気だった私は、先生方が厳しく言う、基本の姿勢や筋肉の使い方をテキトウに聞き流し、とにかく憧れのステップに挑戦したいと浮かれていた。結果、とりあえず動きの形は追うことはできても"どう見てもバレエっぽくない......"=ちっともエレガントじゃない!!というイケてないバレエおばさんが出来上がってしまったのである!!......ああ、20年前の私を叱り飛ばしてやりたい。というわけで私の夏休みはNYSBWでいちから出直し!!

urano130730main003.jpg■『ニューヨーク・スタイル・バレエ・ワークアウト』
約50分
¥3,800(本体価格)
アトス・インターナショナル

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