Culture 連載

Dance & Dancers

注目のアーティスト、川村美紀子にインタビュー。①

Dance & Dancers

彼女の身体は音楽を食べている。咀嚼し、飲み込み、いったん取り込まれた音の栄養素は血管の中を駆け巡ったのち皮膚から蒸発して、その身体から解放される。しかもその消化吸収排泄のスピードたるやただゴトではない。血液はおよそ1分で全身を駆け巡るというけれど、彼女の場合は1秒で駆け巡るときもある。なんて恐ろしい身体なんだ!!

それが初めて川村美紀子の踊りを見た時の、私のストレートな感想である。

座・高円寺ダンスアワード、ダンスがみたい!10新人賞、横浜ダンスコレクション2011EX最優秀新人賞、などなど近年さまざまな新人賞を受賞した、注目の若手。今年のダンストリエンナーレ・トーキョー2012では横浜ダンスコレクションEXでの受賞作品『へびの心臓』を披露。話題と注目をさらった。


urano121217_04.jpg川村美紀子(Mikiko Kawamura)
1990年生まれ。2011年コンテンポラリーダンスシーンに現れ、横浜ダンスコレクションEX最優秀新人賞、ダンスがみたい!新人賞、エルスール財団新人賞を受賞。ソウル国際ダンスフェスティバル、韓国芸術総合学校、フィンランドJOJOダンスセンターなどに招聘され、今秋には青山円形劇場で開催されたダンストリエンナーレトーキョーに出演。日本女子体育大学舞踊学専攻卒。kawamuramikiko.com
photo:Manaho Kaneko


■コトバは、今の私を理由づけし、象る。

暗闇の中、タッチパネルの様に配された床の照明の上を移動しながら、ユーロビート調の電子音(withお経、ショパンのポロネーズ、呼吸、街頭スピーカー音など)の中をぐるぐる踊る。舞台上に、ぽつん、と、佇むキューピーが、川村美紀子の動きを不動の姿勢で見つめている。動き続ける川村美紀子の身体と、不動のキューピーが暗闇という深い時間を隔て、それぞれに存在している。
静と動、重なり合い現れては消える音の賑やかさに対する暗闇の静寂、すべてが何か特別な意味を持っているように感じられる。

しかし、なぜ"へびの心臓"だったのか、と尋ねると、困ったように目を伏せる。
「...言葉や理由は、後からついてくるんです。大抵、わーっと創るのですが、そのときの私そのものというか。なぜ、と言われてそれを説明する言葉を見つけることもありますが、それは、その時の自分を象っているものというか...」

じゃあ、"へびの心臓"ってどこにあるのかしら、と尋ねると今度は目を輝かせて、
「へびの種類、生息場所によっていろいろな位置があるのだそうです。それは地球の重力とバランスを取るためだと聞いていますが、確か、木の上など高い所に棲んでいるへびの心臓は頭に近い場所にあるんだそうです」

urano121217_001.jpg『へびの心臓』 photo:BOZZO


■"クラブ活動"が研ぎ澄ました身体感覚。

川村美紀子の踊りを、あえてカテゴリーに当てはめるとすると"POP"に属するのだそうだ。アニメーションダンス、と呼ばれることもあるが、川村はそれらを"今はちょっと胡散臭いジャンル"と言う。
「素人でも真似をすれば踊れるものだからです。深夜番組で火がついて、ネタ系ダンサーが増えて、クラブやイベントなんかに一般の人がたくさん参加するようになった。そういう人たちを"事務所"がタレント化し、金儲けしたい人たちが便乗する材料になった」

川村が、ダンスのスキルを身につけたのは"ストリートダンスの聖地"と呼ばれる新宿・安田ビル前の広場。
「夕方6時からビル前の広場が解放されて、そこがダンサーたちの練習の場になるんです。チームもいれば、私のようにひとりでやる人も。台風の日でもなんでも、時間になるとどこからともなく集まってきました」

数年前までは熱気の中でしのぎを削り合う"本気"の場だったが、この頃は多ジャンルの人が集まるようになり本気度が薄くなっている気がする、と川村は言う。
もちろんスクールにも通ったが、一番学んだのは夜な夜な通い詰めたクラブ。関節がどこにあるのかわからないようなしなやかな動きや、身体の細部の筋肉を俊敏に反応させる動きはそうした"実地"から育まれた。

「誰も教えてくれないから、ひたすら真似をして身体を動かしました。だから、どこの筋肉をどう使っているのかと聞かれても説明はできない感じです。でも、恐らく筋力ではなくコントロールの感覚だと思いますね。関節を回しながら、流すんです」

考えてみれば、大音量の中では言葉でのやり取りなんてできるはずがない。クラブという環境が、身体のコミュニケーション能力を研ぎ澄ましたのだ。


次回、インタビュー②では、ダンスをはじめたきっかけや転機についてのお話へと続きます。

*To be continued

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