Culture 連載
Dance & Dancers
バットシェバ舞踊団『Sadeh-サデ21』
Dance & Dancers
コンテンポラリーダンス、とひと口に言ってもタイプはいろいろ。当たり前だ、バレエのように決まった型や様式というものを持たない身体表現なのだから。でも、"どんなものを観たいか"で、なんとなくの選び分けはできるような気がしている。例えばテクニカルに洗練されたもので感動したい、と言う人にはフォーサイスの作品なんかいいのではないだろうか。ドラマチックなもので感動したい、と言う人にはベジャールなんかどうだろう。アーティスティックな世界に思考を遊ばせたいなら、キリアン、etc......
今回紹介するバットシェバ舞踊団は、そのどれとも違う。とはいえ、このカンパニーのダンサーたちがテクニシャンではない、と言っているのではない。それどころかバットシェバ舞踊団のダンサーたちの身体の鍛え上げられ方は並じゃない。それではどういう意味かと言うと、"わけもなく魂を揺さぶられてみたい"、そんな人にお勧めしたいのがこの舞踊団の公演だからだ。
◆生命の根源に迫る、身体の動き
私が初めてバットシェバ舞踊団を観たのは、1997年の来日公演の時。今でも印象に残っているのは"アナフェイズ"という作品の一部で、半円形に椅子を並べて腰かけた、黒いスーツ姿のダンサーたちが、何かに取り憑かれたように踊る作品だ。動きは時にウェーブのように人を動かし、立ち上がったと思ったら床に身体を投げ出す。それをまるで何かの儀式のようにくり返すうち、ダンサーたちは次々と衣服を脱ぎ、宙に放り出しはじめる。...上手の一人だけが、起き上がれずにいるのが何か象徴的だ。
ここまで読んで、ああ、あれか、とピンと来た人も多いのではないだろうか。"アナフェイズ(細胞分身)"の第一セクションは時々他のカンパニーでも上演されることがある、名作だ。
この作品に象徴されるようにバットシェバ舞踊団の作品は何か土着的なもの、生命の根源にかかわるものを感じさせる作品が多く、そしてどこかに、呪術めいた匂いすら感じることがあるのだ。
もともとダンスの起源は、祝祭や儀式、祈りといったものと関わるところにあることは知っていたけれど、それを、リアルに現代の作品の中から伝えてきたのは、このバットシェバが私にとっては初めてだったかも知れない。強く、しかしやわらかく、リズムと呼応する身体。そこから繰り出される動きの可能性の多彩さ。そうしたものを目の当たりにすると、手足と言うのは意思に操られる精巧な部品のように思えた。
そして、それ以上に強く思ったことは、ダンサーの身体というのは、宇宙あるいは神というもののエネルギーを自らの身体に降ろし、それを観客たちに向かって発散する"媒介"なんじゃないか、ということだった。
2010年公演『MAX』より Photo:Naoya Ikegami
◆現代ダンス大国・イスラエル、そしてオハッド・ナハリン
イスラエルは、現代ダンスがとても盛んな国である。今夏のオリンピックでも、新体操団体でスポットライトを浴びていたのが記憶に新しいが、どうやら卓越した環境なのかDNAなのか、身体表現に関して何かを持っているらしいのがイスラエル。現代ダンスのカンパニーも数多く、イスラエルでダンスを学び、ヨーロッパの各所で活躍するダンサー、そして振付家はとても多い。
バットシェバ舞踊団は、世界的な銀行家で知られる、ロスチャイルド家の一人、バットシェバ・ド・ロスチャイルドが1960年代に設立したカンパニー。第一次世界大戦中、故郷パリからニューヨークに渡った彼女は、モダンダンスの巨匠、マーサ・グラハムに出会い、パトロンとなり活動を支えた。後にイスラエルを訪れた折、この国に多くのダンスの才能が眠っていることを感じた彼女はその財産でイスラエルに一流のダンスカンパニーを設立することを決意。グラハムの協力を得てダンサー達を教育し、1964年にグラハム作品で初公演を行った。
しかしその後、紆余曲折があり、グラハムはバットシェバ舞踊団を離れ、舞踊団は様々な振付家・芸術監督を迎えるも迷いの海を漂う。そして1990年、ニューヨークのグラハム舞踊団で活躍し、ベジャール舞踊団で踊ったキャリアを持つオハッド・ナハリンが芸術監督に就任し、彼の振付作品でカンパニーは息を吹き返したのだ。
これは、バットシェバに限らず、イスラエルの多くのカンパニーに言えることなのだが、ダンサー達は実に国際色が豊か。ヨーロッパはもちろん北米、アジアからもメンバーが集合、日本からはかつて稲生芳文が参加し、芸術監督を一時期勤めてもいた。そしてここから巣立ったダンサーたちはまた、世界の各地に散らばり活躍している。それを見ても、世界中に影響を与えている現代ダンスのカンパニーのひとつだと言えるのだ。
ナハリンの妻は日本人ダンサーだった。愛妻家の彼は、2001年に妻を病気で亡くしてから少しの間、活動を休止していたが復活してからはさらなる人間の深みへと、その作品の矛先を向けている様子である。
『Sade-サデ21』 Photo:Gadi Dagon
◆最新作での来日公演で誘う、身体の進化の旅
さて今回の来日公演で上演され演目はなんと、"最"新作、なのである。その資料映像からは、人間と言う枠を超えた、生命体としての力強い身体性が感じられる。野性味と、鍛え上げられた身体が描き出す精密な動き...なんだか、魂にダイレクトに何かを伝えてくれそうな予感がするのだ。
18名のダンサーたちが繰り広げる。エネルギッシュな群舞を想像して、今からわくわく。その日は、自分も心を野生状態にリセットして、ダンサー達と一緒に宇宙を呼吸したいと思っている。
『Sade-サデ21』 Photo:Gadi Dagon
演出振付/オハッド・ナハリン
出演/バットシェバ舞踊団
公演日程/
びわ湖公演:滋賀県立びわ湖ホール 11月18日
料金:S席6,000円 A席4,000円
問/びわ湖ホールチケットセンター TEL: 077-523-7136
http://www.biwako-hall.or.jp/
料金:S席6,000円 A席4,500円
問/彩の国さいたま芸術劇場チケットセンター TEL: 0570-064-939
http://saf.or.jp/