Interview with John Galliano ジョン・ガリアーノによる、"グラマー"の新解釈。
Fashion 2017.09.25
今季の「アーティザナル」のショー直前に、ガリアーノにインタビューを敢行。“グラマー”の新しい解釈とともに、彼のクリエイションをひも解く。
立体的なプリーツ素材は今季の象徴。その向こうに白衣を纏ったガリアーノが。
メゾン マルジェラによる、2017年秋冬「アーティザナル」コレクション。フィナーレを飾るモデルがランウェイに登場した時、すでにジョン・ガリアーノの姿は会場になかった。
彼がディオールのクリエイティブディレクターを務めていた時代には、ショーの最後に自らが登場するパフォーマンスが話題だった。だが、華々しく登場することのなくなったいま、その存在はより伝説へと近づいている。パリの11区にあるメゾン マルジェラ本社。入り組んだ廊下の先にある、スポットライトを避けるかのようなこの場所で、ガリアーノは仕事に打ち込んでいる。その姿は、まさに“アノニマス”を掲げるメゾン マルジェラ的だ。1988年から2009年までブランドを率いていた、ベルギー出身の前衛的デザイナーと称されたマルタン・マルジェラは、公の場に決して顔を見せないことで有名だった。その一方、ガリアーノは時代を代表するデザイナーであり、ファッション界で最も顔を知られた人物のひとり。しかし、メゾン マルジェラのクリエイティブディレクターとなった現在は、称賛を浴びるのは作品に任せ、持てる時間のすべてを創作と思索に注ぎ込む。
〝グラマー〞の定義とは。
メゾン マルジェラがオートクチュールとして位置づける、「アーティザナル」コレクションの最新シーズンでは、“グラマー”について考えた。
「“ニューグラマー”を提案する、というアイデアはおもしろいと思ったんだ」
コレクション発表直前の6月、ガリアーノは本社にある彼のパーソナルな一室でそう語った。イメージボードに囲まれた空間は、独特の雰囲気が漂う。ひと目でイギリス製とわかるティーセットでスタッフが紅茶を出してくれる中、「これだ、という答えを見つけた確証はない」と続けた。「自分にもスタッフにも問いかけた。なぜ人はグラマーにこれほど惹きつけられるのか、そもそもグラマーとは何か。切り取られた瞬間、パパラッチの写真……」彼はイメージボードを見つめて考え込む。視線の先にあるのは、マレーネ・ディートリヒやマリリン・モンロー、エリザベス・テイラーのポートレートだ。
「考えた末に結論を出した。私たちを惹きつけるグラマーとは、イメージのことだ、と。マリリン・モンローは自分をグラマラスだと感じていなかったとしても、人は彼女をグラマーなイメージとして解釈し、そして魅了される」
私たちを惹きつけるグラマーとは、
イメージのことだ、と。
抽象的に聞こえるだろうが、これがメゾン マルジェラでの日常だ。あらゆるアイデアや考え方を逆転させ曖昧にして、見る者の解釈に委ねる。マルタン・マルジェラが従来の概念を振り返り、日常の衣服に新たな価値を与えて以来、常にこのブランドが行ってきたことだ。そしていま、ガリアーノはその手法をさらに発展させている。
「グラマーの意味とは何か。これはスコットランドの言葉だ」と言いながら、単語の定義を記した紙を手に取り、「魔術、魔法をかけること、呪文、妖術、オカルトという意味」と読み上げる。舞台俳優のような口ぶりで、言葉を強調するその声は魅惑的だ。彼が6歳の時に移り住んだ、ロンドン南部のアクセント、ドラマティックな発音、堂々たるフランス風の声音が混じり合い、この世のものとは思えない響きを奏でる。彼こそグラマーの定義そのもの、人を魔法で魅了するような人物なのだ。
ヘムの内側にスパンコールをあしらった、クラン素材のコート。
>>「アーティザナル」の役割。
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「アーティザナル」の役割。
メゾン マルジェラのスタッフのユニフォームである白衣を纏ったガリアーノは、「アーティザナル」コレクションにおける神秘的なテクニックや制作について語った。その姿は、しだいに実験中の科学者のように見えてくる。科学者といっても、ガリアーノはヘアバンドに室内履き姿。アトリエは彼の第二の家なのだ。「どう裁断するか、刺繍するか。装飾に関することはすべて、グラマーのイメージが導き出してくれる」と、彼は繰り返す。
「アーティザナル」コレクションは、ガリアーノが定義するクリエイションピラミッドの頂上に位置する。メゾン マルジェラにおける彼のクリエイションの構造は、コレクションの順番に反映されている。「アーティザナル」コレクションはシーズンの幕を開けるものであり、後に続くプレタポルテやプレコレクション、すべてのコレクションを貫く、メソッドや哲学を示す存在。メゾン マルジェラでのガリアーノのクリエイションの頂点にして、彼のコレクションを体現するような、複雑なテクニックを伝える役割を担う。
伝統的なウールチェックのコートにコルセットをしのばせて女性的なフォルムに。
リノリウム版画がモチーフの繊細なドレス。
今回の「アーティザナル」コレクションでも、輪郭を強調して服の構造をあらわにする“デコルティケ”や、一見段ボールのようにも見える細かなオーガンジーのプリーツなど、そのテクニックは健在だ。“プリッセ・ソレイユ”と呼ばれる繊細なプリーツに、リノリウム版画がモチーフのストッキングのような模様を描いたトロンプルイユのスカートは、ガリアーノいわく、布の動きに応じて見え隠れするイメージがグラマーの記憶を喚起する。彼にとって、「アーティザナル」コレクションはありきたりのファッションサイクルを繰り返しているわけではない。まるで科学者のようにワードローブを変革する、これまでにない服の作り方や着こなし方を発明するチャンスなのだ。「地味なコートって」と、彼は話し始めた。
>>コートを〝グラマー〞に昇華。
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コートを〝グラマー〞に昇華。
「コートはあって当たり前のものだと思っているが、実は大きな役割を果たしている。でもスタイルという面から考えると、コートに魅了された経験は恐らく皆ないだろう。言っていること、伝わるだろうか?」
そうして、謎めいた私生活の一部、独創的なアイデアが生まれる瞬間について語り出した。
「少し話をしてもいいかな? アレクシスがカンヌへ行った時、私が犬の世話をしていたんだ」と、ガリアーノは、パートナーのアレクシス・ロシュと2匹の犬ジプシーとココの話を始めた。
「一日中働いて、食事をして、急いで家へ帰ってお風呂に入った。ガウン姿になった時……」と振り返る。毎晩の習慣である、犬の散歩をしなければならないことに気づいたのだという。
「着替えるのは嫌だったからトレンチコートを羽織って、プラダのベルトを締めて、犬の散歩に出かけた。コートに革のベルト姿で、すごくいい気分だった。途中でばったり友人に会って、午前2時までベンチに座って話したよ。そして思ったんだ。この格好なら、クラブにだって行けたんじゃないかって」
そう言いながら、彼は一瞬黙り込む。「それで思いついたんだ。コートは、グラマーの新たなシンボルになりうる。ハイブランドのバッグのような魅力的な存在になりうるかもしれない、と」
こうして、ガリアーノならではの手法で、ありきたりのコートがオートクチュールピースへと昇華した。
「メンズコートをグラマーなファッションに変えるのは難しい挑戦だ。力を手にするような……エリザベス・テイラーの気分だよ」
段ボールのように見える、プリミティブな質感のプリーツコート。
オーセンティックなトレンチをレザーベルトで締めてセンシュアルに。
そして、コートはイブニングガウンのようにベルトでウエストマークしたドレスに変化した。細部にまで、往年のハリウッド女優のような魅惑が満ちている。段ボールを思わせるプリーツ加工のオーガンジーを用いた一着は、質素な素材でも驚くほどグラマラスになることを表現してみせる。「Gold is cold. Diamonds are dead. A limousine is a car」(ディオールの香水ジャドールのキャンペーン動画より)と、ガリアーノは冗談めかして言う。
「結局のところ、すべてはイメージだ。素材自体は何の変哲もなくても、装い全体からグラマーを感じ取ってほしい」
その言葉からは、「アーティザナル」コレクションに向ける情熱が伝わってくる。挑戦する高揚感、限界を突破して見る者の目を奪い続ける……彼はクリエイションを愛している。
2011年にファッション界を離れ、3年後にメゾン マルジェラで復活。その間に、ガリアーノがディオールで成し遂げた功績は神話と化した。オンラインにあふれる彼の動画が、なによりの証拠だ。84年にセントラル・セント・マーチンズを卒業してデザイナーになり、95年にジバンシィ、翌年にディオールのデザイナーに就任した当時の映像、美しいショーの数々……。ガリアーノが最もドラマティックなショーを生み出していた90年代、2000年代は、現在のファッションから見ると、もはや遠い世界。いまや、彼の足跡は夢に満ちたファッションの代名詞だ。
>>ガリアーノの見る夢。
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人々に夢を見てもらうこと、それが私の仕事のひとつだ。
ガリアーノの見る夢。
以前に比べて控えめな形でも、その夢はメゾン マルジェラで生き続けている。「人々に夢を見てもらうこと、それが私の仕事のひとつだ」と、彼は言う。
「私はグラマーに惹かれるし、皆そうだろう。いまの時代、わかりやすいラグジュアリーなシンボルに誰もが憧れている。グラマーとは、お守りのように安心感を与えてくれるものだからね」
ガリアーノは再び、トレンチコート姿で犬の散歩に出た夜のことを話し出す。「ジャージを着ればよかったのにと、アレクシスに言われたんだ。冗談じゃない、と答えたよ。あの時はコートを着なければいけなかった。洗練された気分になる必要があったんだ」
シフォンドレスのヘムラインを大胆にハサミでカット。
メンズのピンタックを思わせるトレンチを原型に、立体的なプリーツを重ねて。
ガリアーノが定義するグラマーとは、つまり自分を高めてくれるものということなのだろうか? 「自分を尊重させてくれるもの、と言うべきだと思う。自分を尊重できれば、ほかの人のことも尊重できるからね」と、彼は答えた。
1960年、英国領ジブラルタル生まれ。6歳の時にロンドンへ移住する。セントラル・セント・マーチンズを首席で卒業後、デザイナーとして独立。85年、自身の名を持つブランド、ジョン・ガリアーノがロンドンでデビュー。95年にはジバンシィ、96年にはディオールのデザイナーに就任する。2011年にファッション界を一度は離れたが、14年10月、メゾン マルジェラのクリエイティブディレクターとして復活を遂げた。
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photos : LAURENT VAN DER STOCKT, interview et texte : ANDERS CHRISTIAN MADSEN