BLM支持から1年、ファッション界はどう変わった?

Fashion 2021.05.07

ファッションブランド各社がブラック・ライブズ・マターへの支持を表明してから1年。ファッション界におけるダイバーシティへの取り組みはどこまで進んでいるのか? パリ、ニューヨーク、ミラノ、ロンドンの現状を検証する。

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オリヴィエ・ルスタン、バルマン2020ー2021年秋冬レディースコレクションのショーのフィナーレ。 photo : Dominique CHarriau / Getty Images

「私たちは、イタリア人は白人だという誤った考えに対抗する決意です」。イタリアのファッション組合CNMIに加盟するたったひとりの黒人デザイナー、ステラ・ジーンは、断固たる行動に出る決心をした。

2020年7月、ブラック・ライブズ・マターの旗を掲げた一連の抗議運動の直後に、彼女はCNMIの支援を得て“We are Made in Italy”(WAMI)という名のデザイナーグループを創設した。目的は、「ファッション界における黒人コミュニティへのあらゆる差別を根絶する」ことだ。

今年2月24日、WAMIはミラノ・ファッションウィークの開幕を飾り、イタリアファッション史にその名を刻んだ。業界関係者からの「圧力と脅迫」に耐え、強い気持ちで勝ち取った初勝利だ。「本当のことを言えば、ここまで来るのに実に多くの人的な犠牲が伴いました。アメリカから後押しをしてくれた人たちにも感謝を伝えたい」とステラ・ジーンはコメントしている。ファッションという大きな影響力を持つ業界におけるダイバーシティの現状を、この革新的な出来事が雄弁に物語っている。

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ブラック・ファッション・マターズ

「2020年はジョージ・フロイド(2020年5月25日にミネアポリスで白人警察官に殺害されたアフリカ系アメリカ人)殺害事件が世界中に大きな衝撃を与えた年。黒人コミュニティにとって、この悲劇は21世紀の転換点です。アメリカの各地で暴動が起こり、ブラック・ライブズ・マターは文化や社会を超えて世界的なムーブメントとなった」と、トレンドコンサルティング会社ペクレールのスタイリスト兼トレンドアナリストのディナ・シュルタンは語る。

この出来事はアメリカ国内だけでなく世界各国に潜む不平等を明るみに出し、その衝撃はファッション界にも波及した。業界でも影響力のある人物やブランドがこの動きに加わり、警察官による暴力を非難する一方で、マイノリティに配慮したチーム作りをしていくと発表した。ではその後、ファッション界でのダイバーシティへの取り組みはどこまで進んだのだろうか?

ランウェイでは人種のミックスが進む

ファッションショーに関しては、リプレゼンテーションとインクルーシブネスは前進しつつある。ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリの4都市で開催された2021年春夏ファッションウィークでは、有色人種のモデルが41.3%を占め、ファッション情報サイト“ファッション・スポット”で最も人種の多様化が進んだ年と評価された2020年夏の傾向がさらに進行。コロナ禍の影響でモデルの人数が3分の1に減っているだけに、取り組みの成果がうかがえる数字だ。

都市別に見ると、パリは38.9%でミラノ(35.6%)より多様化が進んでいるものの、ロンドン(52%)とニューヨーク(57.1%)に比べると遅れを取っている。ただしニューヨークは2021年秋冬のファッションウィークでは7ポイント後退して50.7%になっている。ランウェイや広告ではダイバーシティが浸透しつつあることが確認できるが、ファッション界各企業の状況はどうだろうか?

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2021ー2022年秋冬コレクションを発表するデザイナー集団We are Made in Italyのメンバーでカメルーン出身イタリア人クリエーターのクラウディア・ジゼル・ツァマ。photo:Imaxtree

ブランド各社によるダイバーシティ宣言からほぼ1年後の2021年3月、「ニューヨーク・タイムズ」紙に「多様性推進を約束したモード界。私たちが眼にしたものとは」と題した記事が掲載された。そこに描かれた現実はあまり芳しいものではなかった。取締役会、経営幹部、従業員、広報やショーで黒人の占める割合、取り組みの進展を評価する数値......。

こうした内容を調査するため、ニューヨーク・タイムズはアメリカとヨーロッパのレディースファッション大手ブランド64社とオンラインショップ15社、ファッション業界で影響力のあるマスコミ数社に質問票を送った。そのなかですべての質問に回答したのは一握りのアメリカのブランドのみで、半分だけ回答した企業が16社だった。イタリアやフランスでは人種や民族に関する統計データの収集が法律で禁止されているため、コンタクトしたすべての企業は、インクルージョンの推進に努めたいとしながらも、情報を提供することができなかった。

「アメリカでは物事がヨーロッパより早く進みます。それは、民族的出身別に雇用を割り当てるクオータ制の採用が認められているから。この点に関してタブーは一切なく、むしろ進歩的なやり方と見なされています。フランスでは考えられないことだし、そもそも法律で禁止されています」と前述のシュルタンは言う。

この違いには歴史も関係しているとダイバーシティ問題の専門家は続ける。「植民地主義というヨーロッパの過去はいまもフランスと黒人コミュニティの関係に重くのしかかっています。この関係を修復、進展させたいという気持ちはあるものの、話題にするのは不適切とされ、取り上げられることはありません。ファッション界でのダイバーシティについての議論もほとんど行き詰まりの状態です」と彼女は嘆く。

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アメリカでは管理職の16%が有色人種

コンサルティング会社マッキンゼーが、アメリカファッションデザイナー協議会(CFDA)の委託を受けて2019年に実施したインクリュージョンとダイバーシティについての調査結果が示すように、積極的差別是正を推進する政策が取られているアメリカでも、まだ道半ばの状態だ。アパレルおよび美容産業を対象としたこの調査によると、企業内で有色人種が占める割合は、幹部の16%、取締役会メンバーでは15%であるのに対し、役職のついていない社員では32%となっている。

 

議論の機会は少ないとはいえ、多国籍企業にとって、特に避けて通れない問題だ。この2年の間にLVMH、シャネル、バーバリー、プラダ、グッチ、ドルチェ&ガッバーナでは社内に「インクルーシブネスとダイバーシティ部門」を新たに設け、改善に向けての第一歩が踏み出された。シュルタンによると、こうした大手ブランドは「ダイバーシティの点において模範的」である義務があるという。「各グループ内でプロセスや対策を実行するためにも、より公平な未来に向けて従業員を“教育”するためにも」欠かせない最初のステップだ。

パリでも多少ながら進歩が

より公平な未来を目指すには、クリエーションのレベルでの意識改革も必要だ。パリでショーを開催するフランスのグランメゾンの中の黒人クリエーターは、2009年からバルマンのデザイナーを務めるオリヴィエ・ルスタン、2018年にルイ・ヴィトンのアーティスティックディレクターに着任したヴァージル・アブローのふたりのみ。

一方でパリファッションウィークにはフランスや海外からもさまざまな才能が参加している。イル・ドゥ・フランス地域出身のモシ・トラオレ、2019年LVMH賞ファイナリストのナイジェリア人クリエイター、ケネス・イゼ、ニナ・リッチのデザイナーを務めるオランダ人デュオのリュシェミー・ボッターとリジー・ヘレブラー、ジャマイカ系イギリス人のウェールズ・ボナー、2019年LVMH賞を受賞した南アフリカ人のテベ・マググ。

またオートクチュール週間にショーを行なっているカメルーン人のイマン・エイシがいる。目まぐるしいサイクルでショーを行うファッション界のシステムから距離を取っていたラミヌ・バディアン・クヤテは、2020年、数年ぶりに自身のブランド、ズリー・ベットでランウェイに復活した。

さまざまな出自や背景を持つ彼らは、ファッションといういまだ閉鎖的な世界で頭角を現した数少ないクリエーターたちだ。そのことからもうひとつの現実が浮かび上がってくる。キャリア形成や学費の問題だ。

2020年1月にオートクチュールのスケジュールに初参加したイマン・エイシはそのことをよく知っている。母国のカメルーンでクチュールの基礎を学んだ彼はパリに移住し、ゼロからスタートした。フランスに定住して30年になる彼は、自分は独学者だという。「クチュールは、私の国で“façon-façon”と呼ぶような、人それぞれのやり方でできるものではありません。然るべきやり方があります。私は多くの失敗をしました。作法を学んでいなかったし、ネットワークもなく、職業訓練も受けていなかったからです。私はこの仕事のために人生を捧げました」と50代のデザイナーは語る。

IFM(フランスモード研究所)教授でパリ国際ファッションアカデミーのアーティスティック・ディレクターを務めたこともあるジャン=マルク・ショーヴは、これはフランスの教育システムの問題だという。「特待生制度を利用する学生たちの多様性はあまり高くありません。ファッション関連の私立のグランゼコールは授業料が高いからです。ファッション界では要求も競争もますます厳しくなっています。ラグジュアリーブランドではさらに厳しい。ある程度のレベルのマネージメントになれば、経営能力とファションの知識が必要。グランゼコールを修了した、5年間の高等教育の証書を取得していないと難しい」

大手ブランドに対して求人関連の助言を与える立場にあるショーヴも、こうした企業への応募者のなかにマイノリティ出身者は非常に少ないと認めている。「マーケティングやカスタマー・リレーションシップといったポストはとりわけ少ない」。もともとエリート主義的側面が指摘されてきたファッション業界には、周囲の社会状況がまだまだ反映されていない。

こうした現実を受けて、2019年にIFMと“文化と多様性基金”が共同で、ダイバーシティと機会均等を推進するためのプログラムを立ち上げた。2006年に設立されたこの基金は、低所得家庭出身の才能のある若者を対象に文化関係のグランゼコールへの入学を支援する活動を行っている。

イル・ドゥ・フランス地域には職業訓練を無料で提供するCasa93のような団体もある。ファッション業界での勤務経験のあるナディーヌ・ゴンザレスとカロリーヌ・ティシエによって設立されたこの学校の趣旨は「規格外の才能の持ち主や、資金や資格のない人たちを見出すこと」と、ティシエは2020年のマダム・フィガロのインタビューで語っている。

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イギリスでは多文化主義が前提

「ヨーロッパで唯一の例外は、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ・スクールです。この学校には若い才能を支援するための奨学金プログラムがあり、多文化主義の重要性を積極的に認めています」とシュルタンは言う。

だから、パリやミラノより、ロンドンでショーを発表するデザイナーのほうがはるかに多様性に富んでいるのも当然のこと。英国ファッション協会では2020年7月にダイバーシティとインクリュージョンの推進を目指す専門委員会を設立した。また、「ヴォーグ」誌のヨーロッパ各国版全般を統括するエディトリアルディレクターにエドワード・エニンフルが任命されたことも時代を象徴する出来事だ。ガーナ生まれのイギリス人である彼は28年前にコンデ・ナスト・グループに入社し、2017年には英国版「ヴォーグ」誌編集長に着任していた。

イタリアに根を張る“異文化ミックスファッションの幻想”

「イタリアにおいては、多文化主義を構成する民族的少数派が魅力的に見えるのは、エキゾチックでカラフルな側面が強調されるときです。こうした好意的な反応は人々の視線がひとたび“黒人”に向かうとき、特に私たちが発言をしようとするときに、たちまちなえてしまう」とステラ・ジーンは分析する。

We art Made in Italyの活動を通して、彼女は「黒人の身体イメージを商業目的に」利用するという欺瞞(ぎまん)を終わらせたいと考えている。彼女によれば「異文化ミックスファッションという幻想」を作り出すためにブランドが利用するこのシステムは「ブランド関連企業の労働力となっている少数派黒人の現実の姿とまったく合致しない」のだ。

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2020年7月7日にローマで行われた人種差別反対を訴えるブラック・ライブズ・マター抗議運動に参加するハイチ出身のイタリア人デザイナー、ステラ・ジーン。 photo:Marina Sicilia/Getty Images

ジーンの活動はWe art Made in Italyで発表するコレクションだけにとどまらない。イタリアファッション界が、バリュー・チェーンのあらゆるレベルで新しい戦略を取り入れ、「1980~1990年代の栄光」を取り戻し、「文化の新しい波のリーダー」となり、「新しい顧客」を獲得するよう促していくこと。

フランス人のアウェヤ・モハメドも同じ意見だ。ハイテク関連会社の社長を務める彼女は、自ら創設し成功を収めた、アフリカと国際コニュニティを結ぶプラットフォームAfrobytesの手法を活かし、ファッション・美容分野のプラットフォーム、The Colorsを立ち上げた。

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“私たちは勢いに乗っている”

「フランスでダイバーシティというと、実践に積極的でない人たちに課せられたテーマや問題のように捉えられています。でも私はこれを好機と見る」と彼女は話す。ヨーロッパ・アフリカ間の共同プロジェクトの交渉と実現を専門にする彼女はアメリカ市場の動向もつぶさに追っている。「(Statista.comのデータによると)アメリカでは非白人つまり、黒人、ヒスパニック、アジア系、混血の人たちが人口の40%を占めています。現在もっとも消費が伸びているのはこの層です。これは否定できない事実」

2019年にスタートしたThe Colorsは、ヨーロッパとアフリカの若いクリエーターによるブランド立ち上げを支援する。「私たちは勢いに乗っています。いまこそ多様性について新しい語り方を導入するべきです。めそめそ訴えることはもうやめて。大切なのは、前向きな姿勢とエネルギー」とモハメドは言う。彼女は、最後にニールセンによる美容市場に関する調査を引用する。それによると「文化の多様性を意識した戦略を持たないブランドは、10年後に生き残れない可能性が高い」という。

コロナ禍で大きな打撃を受けたアパレル産業は転換点を迎えている。シュルタンは予告する。「ブランドはもう、現実から目を背けて、ウォッシング(ダイバーシティ、環境問題、男女機会均等などのテーマに配慮しているように見せかけるマーケティング手法)を続けるわけにはいきません。環境問題と同じように、ダイバーシティも再出発の土台となる価値観のひとつとして考えなければ」

texte : Stéphanie O’Brien (madame.lefigaro.fr)

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