両立できる?おしゃれを楽しむことと地球を守ること。

Fashion 2021.05.10

ファッションを通して、 地球のために私たちができること。4人の女性が考える、おしゃれとサステイナブルのちょうどいい着地点とは?

eri
デプト カンパニー代表

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1983年、ニューヨーク生まれ、東京育ち。マザーをはじめさまざまなブランドを立ち上げ、2015年に父の跡を継ぎ、伝説のヴィンテージショップ、デプトを再スタート。 自称“古着の仲介人”。4年前からヴィーガンライフを送る。

“買い物は未来への投票”

「古着の買い付けの現場で、服が大量に廃棄されている光景をよく見かけます。 捨てられていく服を救いたいと思いながら、自身のブランドでは服を新しく作っているというギャップが存在しました。7年前まではシーズン毎に200型以上をデザインしていたのですが、このファッションシステム自体に疑問を持ち、いまは受注生産で私が作りたいものを、お客様にいただくオーダー数に合わせて生産しています。 SNSでは製作のプロセスをすべて公開し、長く愛着を持って使ってもらえるように発信しています。買い物は投票です。買う時にきちんと取捨選択をすれば、作り手もニーズに合わせて変わっていきます。そのニーズを作れるのは私たち。地球環境に負荷のない素材や、配慮された輸送コスト、守られた労働環境、適正な価格、さまざまな側面で整合性が取れているものを考えて選ぶことが大切だと思います」

“菜食主義とファッションって、 実は密接に関わってる”

「4年前にヴィーガン(菜食主義)を始めたきっかけは、肉食は人間への負担が大きく、さらに消化に時間とエネルギーがかかると聞いたから。実際にお肉をやめたら体調がよくなり、思考がクリアになったんです。食肉が作られる環境についても学び、牛や豚、鶏を飼育する工業型畜産は、森林を伐採し広い土地と水を使い、たくさんの二酸化炭素を排出していることを知りました。こんなに環境コストがかかっているのに、世界の食糧の3分の1は食品ロスで捨てられています。劣悪な飼育環境や屠殺方法など、ワンヘルスの観点からも肉を食べることを世界的に見直すべきだと思いました。ただ、食肉の副産物として必然的に動物の皮革が取れます。動物の皮革は天然素材なので土に還り、長く使えるし、私もいまだに愛着があります。石油原料や樹脂が使われているフェイクレザーより、サステイナブルだと言う人もいます。でも皮革商品を積極的に使うことは、食肉を肯定し応援することにもなります。そこで新しい選択肢となるのが、植物の繊維から作る合成皮革です。私も服作りで使っているピニャテックスは、フィリピンのパイナップル畑で廃棄された葉から作られていますが、イタリアで染められていて色がとてもきれいなんです。さまざまな開発が進み、もっと本物の皮革に近い素材になれば、と思っています」

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中西悦子
パタゴニア 環境・社会部 アクティビズム・コーディネーター

2104xx_fortheearth-3.jpg2002年パタゴニア日本支社・渋谷ストア入社。2007年より環境部門で、環境助成金、非資金的な環境NPO/NGOの支援、環境キャンペーン、イニシアティブを担当。アクティビズムの責任者として環境保護のための活動を行う。

“買うために生きるのではなく、生きるために必要なものと暮らす姿勢”

「いまパタゴニアでは、気候変動の問題に取り組んでいて、2025年までにビジネス全体でカーボンニュートラル(二酸化炭素排出実質ゼロ)を目指しています。気候変動に対して、個人がで きることはいろいろありますが、そのひとつに買い物を減らすことがあるかもしれません。たとえばアウトドアを楽しんだり、本を読んだり、畑をしたり、自分の好きなことをする時間、大切な人と過ごす時間に喜びを見いだしてほしい。買うために生きるのではなく、生きるために最低限必要なものと暮らす、そんな意識に変わっていくことが大切です。服を手入れして愛着を持って、できるだけ長く着ることでも気候問題の解決に近づきます。服の寿命を9カ月延ばすことで、カーボンフットプリント(原材料調達から生産、販売、廃棄、リサイクルまでの全体の温室効果ガスの排出量を二酸化炭素に換算したもの)を30%削減できるんです。世界の炭素排出量の最大10%を占めているのはアパレル産業。パタゴニアでは森林や河川などの自然環境を守る取り組みや、土壌や気候の健康を修復できるリジェネラティブ・オーガニック農法に取り組む農場に投資をしています」

“知る努力が、ファッションの現場を変える”

「世界中で栽培されているコットンのうち、オーガニックコットンはまだ1%以下です。また、世界中で生産されている繊維のうちリサイクル原料で作られているものは10%以下に過ぎません。パタゴニアで使っているバージンコットンはすべてオーガニックで栽培され、今シーズンの製品の64%がリサイクル原料で作られています。もっと多くの企業がリサイクル原料を使用すれば、原料としての石油への依存を減らすことができます。私たちひとりひとりが選ぶものがその業界を作り、衣類の製造方法 を変える力があることを知ってほしいと思います」

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根岸由香里
ロンハーマン事業部長 / ウィメンズディレクター

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1977年、栃木県生まれ。2008年のロンハーマン立ち上げ時にサザビーリーグへ入社。2年前からさまざまなサステイナブルな取り組みを始め、4月24日からRHCで地球環境を考える参加型イベント「グリーンダンスジャム」も開催。

“もうセールは要らない”

「ファッション業界で大きな課題だと感じていることは、製品を作りすぎているということ。売り逃さないようにという業界の古い常識のもと、セールがあることを前提に大量に作り、売れ残ったら廃棄するという流れを業 界全体で変えていかなければいけない。この状況を変えるには自分たちから、と2022年度中に店舗セールをやめることを昨年決めました。商品の仕入れを25%から30%減らし、それでもきちんと利益を出して運営していけることをこの1年テストしてみて確信しました。買い付けが減った分、 本当に提案したいものは何だろう?とより深くチーム全体で考えることにも繋がりました。これからの時代はなんとなく買うのではなく、長く大切にできるものをさまざまな側面から真剣に考えて選ぶことが大切です。考え悩む時間は妄想が膨らみワクワクと楽しいし、それがサステイナブルにも、引いては心の豊かさにも繋がっていくと思うんです」

“まずはときめきを感じるものを”

「幼い頃から洋服が好きで、迷わずファッション業界を目指し、これまで仕事をしてきました。2年ほど前に、気候変動が危機的な状況であること、 ファッション業界が抱えるさまざまな問題や環境汚染産業と言われてい る事実を知りショックを受けました。私がいままでやってきたことはなんだったんだろう……と落ち込みました。でも、私が仕事を辞めたところで世の中は何も変わらない。であれば、きちんと学んで、できることから変えていこうと思いました。大切にしているのは、まずはときめきを感じる、素敵なプロダクトを提供し、それらが環境やさまざまな問題に配慮されているも のだと知ってもらうこと。パリのヴィーガンネイルブランド、マニキュリストは、色が美しくてクオリティも高いのですが、野菜や植物を原料に作られています。化粧品メーカーの家に生まれたガエルさんが、自分の代では動物実験をしない、できる限り環境に負荷をかけない、と考えて作り始めたもの。このブランドを知るまで、ネイルが化粧品の中で最も有害物質を含んでいるものだとは知りませんでした。私たちにとって身近なファッショ ンが環境問題やさまざまな問題に触れる入口になればうれしいです」

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コムアイ
歌手 / アーティスト

2104xx_fortheearth-1.jpg1992年生まれ。水曜日のカンパネラのボーカルとして国 内外のフェスやツアーを巡りながら、モデルや俳優としても活躍。昨年、電力を再生可能な自然エネルギーに変える「パワーシフト・キャンペーン」のアンバサダーに就任。

“できることはやる、できないことも人に伝える”

「環境問題って誰にとっても耳が痛いこと。でも耳が痛い先には知るべきことがあって、変化する自分がいる。だから、成長痛だと思うようにしています。地球環境のために個人でできるいちばん簡単な方法は、パワーシフトだと思います。 電力が自由化されて、自分で使うエネルギーを環境負荷が小さいエネルギーに変えられるって画期的。手続きも簡単でコストも下がるのでもっと広がってほしいです。ファッションブランドも工場やオフィスでどんな電力を使っているのか を公表したら、より意識が高まるのではと思います。海外ではマリーン セルや チョポヴァ・ロウェナ、コリーナ・ストラーダなど、かっこいい服をサステイナブルに作るブランドが増えてきました。私の場合は、古着で買ったものを古着で売ったり、自分で染色をしたり、服の寿命が延びるように工夫をしています。雑誌などの撮影の際には、リース料を払って古着を借り、返却するんですが、こんなサービスが一般的になればうれしい。ロンドンにはROTAROという服のレンタルサービスがあって、服を気軽に借りられるんです。できることから取り組み、 自分ができないことでも、いいと思ったら人に伝えることが大切だと思います。 どうしたらサステイナブルな世の中に近づけるか、みんなで話していきましょう」

*「フィガロジャポン」2021年6月号より抜粋

texte : MAKI SHIBATA, artwork : TISCH (UM)

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